ホンダ長谷川祐介氏に訊く「残り10トークンは出力向上に使いたい」

ホンダのF1プロジェクト総責任者である長谷川祐介氏に、現在の開発の進捗状況などをシルバーストンで訊いた。

どこに問題が出るのか分からないのが難しい

——今シーズンの半分が終了しましたが、ゆっくりですが着実な進化が見られます。

「今年は、去年一杯問題が出た信頼性についてきちんと(確保して)レースをしようと考えていました。ですので、開幕戦からパフォーマンスをいかに犠牲にしないで完走できるレベルにするかというところを、問題点を潰しこんで行くという形でやってきました。それでも、パワーユニットに関わる問題で3つぐらいレースを止めているので、まだまだですね」

——レースを止めた問題点は?

「去年もそうですが、エンジンそのものの耐久性がなくてピストンが壊れるとかそういうことではなくて、メインテナンスのタイミングを短くしてちゃんと部品を交換していれば良かったとか、システム上で見きれていなかったところとか、いろんな問題が順番に出て来るので、モグラ叩きのように潰しているという状況ですね」

——一番難しいモグラ叩きはどこでしたか?

「どこからモグラが出て来るか分からないので、それが一番難しいですね。例えば“ブロックの剛性がない”とか“メタルが焼き付いた”とか分かり易い問題なら、回転数を落とすとか出力を下げるとかの対策法しかないですから分かり易いんです。でも、今出ている問題は、分かってしまえば簡単に直せるものですが、そういうのはいつどこに出るのか分からないので、難しいですね。そういうのは経験値とかで直していくしかないですね」

——MGU-KやMGU-Hに関連する問題ではないのですね。

「(それも)ありますよ。熱回生によってどれくらいのエネルギーを出すべきなのかという元々のターゲットが低すぎましたね、去年は。設定値が低すぎてエネルギーが足りなくて、回生も足りないというのが去年でした。今年はそのエネルギーをほぼ2倍に引き上げたことによって良くなったということですね。でも、分かっていればできたかというものではないです。一番の問題は、ターゲット設定に関して理解していなかったということですね」

——分かっていてのできるものではない、というと?

「もちろんターゲット設定がもっと高くなければならないと言うことを分かっていなくてはいけなかったというのと、それが分かってもすぐにはできないという両方ですね」

信頼性と出力のバランス

——今年のレースでは、走行位置が上がって来たり、結果が出て来ました。

「カナダでターボのアップグレードをしたのは大きかったと思います。ターボはフィンを最適化しました。回転数はレギュレーションで5万回転と決まっていますので上げられません。要は、同じ排気エネルギーでより大きなエネルギーに変換できる羽根の形状にしたということですね。F1の場合はMGU-Kの最大出力が120kWと決まっていますから、ターボで1000kW回生しても意味がない。そういう意味では、それなりのレベルには達したなと思っています」

——エンジンに関しても開発の手は止まっていませんよね。

「エンジンに関してはここイギリスで初めてアップグレードしてきました。吸気量を増やして燃焼効率を上げたんです。元々パフォーマンスがあってもそれを使い切れていなかったんですね。それは開幕戦から信頼性とのバーターというか、信頼性を見極めて限界まで使えるようにしてきました」

「重量もまだ重いです。これまでは信頼性を優先した分(重量が)上がっていたので、少しずつ削っていくことになると思います。でも、軽くしても出力は上がりませんから、燃焼効率を上げることで出力を出さないといけない。まずは出力ですからね。それを出してから、限界ギリギリに詰めていくということです。安全率とよく言うのですが、設計したときの安全率は1あれば壊れないというものではないので、それを1.5にするのか2にするのか、経験値がものを言うところがありますね」

今後の開発の方向性は大体見えてきている

——参戦から1年半ですが、経験値は蓄積されてきましたか?

「いや、足りないですね。エンジンを回すサイクルで言うと時間が凄くかかります。今のレギュレーションではそんなにエンジンを投入出来ないですから。第3期の頃は年間20基ぐらいエンジン入れていましたからね」

——トークンは残り10個だと聞きました。主としてどこに使いますか?

「エンジンそのものの出力を上げることに使っていきたいと思っています。出力を上げるにはやはり燃焼そのものですね。燃焼室の形状を変えることも考えています。でも、今シーズンはどうですかね。大体方向性は見えてきていますが、明解にこれだというのはまだ出ていないですね」

——現在のF1のパワーユニットは非常に複雑ですが、技術者の方にとってみればいかがですか?

「極めて興味深いコンポーネントだと思います」

——そのコンポーネントの量産車への影響はどうでしょう?

「電気ターボなどは十分に可能性があると思います。電気ターボは世の中にもう技術としてはありますからね。ただ、量産ではないですかね」

まだ満足できるレベルではない

——WECのLMP1-Hではバッテリーが重要な要素になっていますが、F1でも同じですか?

「もちろんキーファクターではありますが、1周あたりに放出出来るエネルギーは4MJと決まっていますから。それがEVのように何百kWもあったり、何十MJもあったりすると、それをいかに小さくするのかということが課題になります」

——バッテリーはリチウムイオンですね?

「リチウムイオンが一番効率が良いですね。化学的にはもっと良いものがあるんでしょうが、実際に手に入るのはリチウムイオンです。今のサイズだとキャパシタなどは使えません。2009年頃のKERSだと、まだ200kJとか400kJだったので、キャパシタとかフライホイールなどもあり得たんでしょうが、今の4MJは相当大きいですから」

——目標はメルセデスですね。

「もちろんメルセデスですね。パワーユニットのシステムなどはそれほど変わらないんだと思います。良いレベルにいると思っています。差が大きいのはエンジンそのものですね。ウエイトに関する情報はあまり入って来ませんが、出力は出ているみたいですね」

——長谷川さんのこの半年を振り返ってみて下さい。

「進歩を見せることが出来てハッピーではあるものの、満足出来るレベルではないですね。もちろん段階的なものなので、今年はポイントを確実に獲ることという目標を掲げていましたが、まだ確実に獲れているわけではないですね。まだまだ目標に達していません。目標に達したらハッピーかと言われたら、まだまだハッピーじゃないですね」

——ホンダもフォーミュラEに興味があるという記事が出ていました。

「フォーミュラEは技術を進化させるためには価値があると思いますし、一般論としてEVというのは当然ありますから、それを組み合わせるとフォーミュラEは技術的に価値があると思います。そのことは否定していません。でも、それはフォーミュラEに限らず、パイクスピークでもEVレースでも同じです。そういう風に答えたらホンダがフォーミュラEをやると書かれたんです。一般論としては否定していません」

取材・文:赤井邦彦

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この記事について
シリーズ F1
記事タイプ 速報ニュース