【F1分析】ロズベルグの後任、ボッタス起用でも問題点は山積み

ニコ・ロズベルグの後任として、メルセデスはバルテリ・ボッタスを第一候補としているようだが、ボッタス移籍の可能性、影響について考察した。

 メルセデスのニコ・ロズベルグは2016年のF1チャンピオンに輝いた直後、突然引退を発表、F1界に衝撃が走ってから2週間あまりが経過した。メルセデスの経営陣は、未だルイス・ハミルトンの新しいチームメイト探しに大慌てである。

 チームは木曜日、1月3日までロズベルグの後任について発表することはないと明らかにした。このため、この特異な状況を見守っている人々に、少なくとも一息つく機会が与えられることになった。

 メルセデスのチーム代表であるトト・ウルフと非常勤会長であるニキ・ラウダは、ロズベルグの引退発表の前触れは、わずか数日前に訪れたという。ロズベルグの離脱についてウルフの最初の反応は、”勇敢な決断”であり”判断の明確さ”を称えるものであったが、ラウダはニコが雇用主たちを難しい状況に追いやったとはっきりと述べた。

「私を今最も悩ませているのは、ニコが我々に、チャンピオンになれなかったら引退しなかっただろうと伝えたことだ」と、ロズベルグ引退発表の数日後にラウダはドイツの新聞紙ディ・ヴェルトに語った。

「彼が契約書に署名した時に、彼は少なくともこれをほのめかしていたのかもしれない。その場合、我々はプランBを準備できたかもしれないし、そうするべきだったのだろう。しかし、実際はそうならなかった」

「我々は素晴らしいマシンを用意し、ワールドチャンピオンになるために必要なチャンスをすべて、彼に与えた。そしてそれから彼は我々に、引退したいと伝えてきた」

「この出来事は、メルセデスという素晴らしいチームに大きな穴を空けた。我々はまるで馬鹿みたいじゃないか」

 ロズベルグの後任について、最も起こる可能性の高いシナリオは、ウイリアムズがバルテリ・ボッタスの放出に合意し、すでに決まっていたパッケージの変更に対する埋め合わせを、メルセデスから貰うというものだ。しかしそれは、ボッタスの後任にふさわしいドライバーをメルセデスが用意できた場合に限るだろう。

 ウイリアムズが視野に入れているのはまさしく今年限りでF1を引退したフェリペ・マッサで、彼が決定を覆しコックピットに戻ることを前提としているため、マッサは交渉において極めて強い立場に立っている。

ウェーレインは最後の”保険”

 メルセデスの上層部は2017年にドイツ人の世界チャンピオンをドイツの自動車メーカーのマシンに乗せることができるという、プロモーション的な見込みがあることを喜んでいたであろう。その後、ロズベルグ引退発表を聞いた彼らは、ショックで何も言えなかったに違いない。

 しかし偶然にも、メルセデスのマネジメントは1枚のカードを持っていた。元DTMチャンピオンのパスカル・ウェーレインだ。彼は必要とされるならば準備ができている状態にある。しかし、彼が”最後の手段”であるのは明白なことである。

 セバスチャン・ベッテルが2014年の日本GPの週末にレッドブルからフェラーリへの移籍を発表した際には、ヘルムート・マルコ(レッドブル/モータースポーツアドバイザー)とクリスチャン・ホーナー(レッドブル/チーム代表)はその日の夜に、トロロッソで最初のシーズンを過ごしていたダニール・クビアトの昇格を決定している。

 ウルフも同様に、ウェーレインの起用をすぐに選ぶこともできた。おそらく、数日熟考した後に。しかし現実にはそうなっていない。ウェーレインは1シーズンF1にフル参戦した経験があるにもかかわらず、彼はハミルトンに立ち向かうのにふさわしいドライバーだと見なされていないのだ。

 準備も満足にできていないまま、キャリアが破壊されてしまうかもしれないという状況から、ウルフは彼らの育成ドライバーを守ろうとしているのか? 言い換えれば、あまりにも早すぎる、責任が大きすぎると考えているのか? あるいはテストやマノーでの戦いを見て、何が起ころうともウェーレインはハミルトンと戦うには実力不足だと考えているのか?

 もし後者のケースだった場合、ウルフの上司はメルセデスのジュニアプログラムの有効性とコストについて、疑問を抱くかもしれない。

 なぜ”次世代のロズベルグ”を育てるのに労力を使う必要があるのか? 必要な時が来たら、他から探せばいいじゃないか、と。

ビッグネームの招聘は不可能

 メルセデスは、様々な理由から可能な限り強力なドライバーを必要としている。2台のマシンがコンスタントに大量のポイントを獲得しなければならないから、というわけではない。チームは、コース上ではハミルトンの気を引き締め、コース外では彼がリラックスできるような、そんな誰かを雇わなければならない。チームに借りがある3度のチャンピオン経験者を離脱させたくないのだ。

 また、ロズベルグはマシンの開発と、レース週末を通したセットアップの両面で大きな影響を持っていたことも問題である。チームはその大きな損失に対処しなければならず、経験のあるドライバーが求められている。

 メルセデスは、マクラーレンのフェルナンド・アロンソやフェラーリのベッテルのような、すでにスーパースターの地位を築いたドライバーを、ライバルチームから引き抜こうとはしていなかった。過去、我々が見てきたように契約を反故にすることもできるが、それは所属チームとの契約に契約解除条項がある場合に限り、フェラーリやマクラーレンには、メルセデスの役に立ちそうな条項はなかったのだ。

 メルデセスにとって、主なライバルと厄介な法的”綱引き状態”になるのは魅力的ではないし、今までロズベルグに支払われていた給料を”軍資金”に使ったとしても、誰かを引き抜こうとする潜在的なコストは、法外なものになるだろう。ロズベルグが2017年に受け取ったであろうボーナスも含めると、彼の給料は2200万ユーロ(約26億8千万円)になったと考えられているが、いずれのチームもメルセデスの敵対的な引き抜きと戦い、苦い終わりを迎えることになるだろう。

 ボッタスの他には最近、カルロス・サインツJr.の名前が候補に挙がっている。育成ドライバーであるピエール・ガスリーがF1への昇格を待っており、レッドブルのドライバーは余裕がある状態だからだ。

 サインツに関する話し合いがあったという情報があるが、レッドブルはメルセデスに同調しておいて、チャンピオンチームが苦しんでいるという事実を楽しんでいるようだ。レッドブルにはサインツを手放す気はさらさらないという。

「どうしてそうする必要があるんだ?」と、(レッドブルのチーム代表)クリスチャン・ホーナーは今週BBCに語った。

「カルロスは素晴らしい仕事をしてくれた。彼はレッドブルのドライバーだ。我々は彼をF1に迎えるために投資してきたし、我々のドライバーは皆、長期契約を結んでいる。主なライバルに、自分の貴重な戦力のひとりを与えるのは、理にかなっていない」

 もし万一、レッドブルのダニエル・リカルドが1月に引退を発表したり、マックス・フェルスタッペンがシャワールームでスリップして足を痛めてしまった場合、レッドブルがサインツを手離していたら、とても愚かに見えるだろう……。

 メルセデスにとって、少なくともボッタスは現実的なターゲットであり、ウイリアムズは対話する意思のあるチームである。メルセデスのカスタマーであるウイリアムズに、明らかに影響力があるというだけでなく、ウルフが長年にわたってボッタスのマネジメントに携わっていたことが、コミュニケーションのパイプを太くしている。

ウイリアムズとの交渉の行方

 しかしながらウイリアムズにとって、パワーユニット契約の単純な値引きという問題にはならず、彼らのスタードライバーを引き渡すことになってしまうため、議論はまだ進行中である。チームは経済的な取引だけでなく、コース上で良いパフォーマンスを発揮する必要があるからだ。このように、(ボッタスを放出することで生まれる)追加の資金によってウイリアムズのマシンが最終的に速くなるという、財政的な動機が大きくない限り資金のみで契約が成立することはないだろう。

 現金とは別に、メルセデスは何を提供することができるだろうか? 追加のインセンティブとして、ウイリアムズへの移籍が噂されるメルセデスのエグゼクティブディレクターであるパディ・ロウの即時解放が考えられる。ロウはメルセデスとの契約交渉が難航しており、チームを離れガーデニング休暇に入るとみられているが、ウイリアムズへの即時加入が認められれば、新しいシーズンの開幕直前だとしても、チームにとって大きな後押しとなるだろう。ロウの解放は、ウルフが近々切らなければならないカードのひとつかもしれない。

 しかしウイリアムズにとって、ボッタスの離脱はドライバーラインアップに不安が生じるため、大きな問題だ。ウイリアムズはボッタスの育成に多大な労力を払っており、考え抜いてボッタスとランス・ストロールを2017年のベストなラインアップとして発表した。

 大規模な資金援助が与えられても、ウェーレインとボッタスの単純なスワップでは十分ではなく、特にチームのタイトルスポンサーであるマルティニが、ふたりの若手ドライバーの組み合わせを受け入れないだろう。チームはスポンサーを満足させるために、経験豊富であり、競争力のあるドライバーをストロールの指南役として迎えなければならない。

 フェリペ・マッサは、少なくとも2017年の一時的な解決策としてはすべての条件を満たしている。しかし、マッサは復帰したいだろうか?

 ストロールのF1昇格が近かったこと、ボッタスがチームを離れないこと、そしてウイリアムズにマッサの居場所がなくなるだろうという事実が、マッサに引退のきっかけを与えた。他に満足できる移籍先がなかった彼は潔く、自分自身で引退することを決断したのだ。

 同じく今年でF1から離れるジェンソン・バトンはシーズンの終わりが近づくにつれて、F1に幻滅していることが明確になっていったが、マッサはそういった印象を抱かせることがなく、自身の決定に完全に満足しているわけではないようだった。腹を割って話す必要があるだろうが、フランクとクレア・ウイリアムズにとってマッサに心変わりをするように説得するのは、それほど難しいことではないかもしれない。

「彼は走りたいと思っていると思う」と、今週ある元F1ドライバーが私に言った。

「彼は良いシートが得られないとわかった後、正しい決断をした。時には、それがチェスゲームでうまくいく方法なんだ」

「だから今、復帰して『チームに残る機会があるから、もう1年走るつもりだ』と言うのは恥ではないと私は思う。私は、それがかなり実現の見込みがある解決策だと思う」

 F1の最高権力者であるバーニー・エクレストンは、少なくともひとりはブラジル人ドライバーのグリッドを確保したがっており、様々なチームにフェリペ・ナッセの獲得を強く求めているため、マッサの復帰は彼にとっても大きな魅力となるだろう。バーニーは間違いなく、フランクとこっそり話をしているだろう。

 実際にマシンをドライブすることはなかったが、昨年ウイリアムズのリザーブドライバーを務めていたポール・ディ・レスタも可能性のあるバックアップ・プランだ。ディ・レスタは3年間F1から離れているが、DTMに参戦している彼は速さを保っており、2017年は空力のルールとタイヤが新しくなるため、ブランクは大きな問題にはならないだろう。

 もちろん彼はメルセデスのドライバーであり、今回の件でそれが役に立つだろう。トトは、彼のウイリアムズでの給料を出すことにすら合意するかもしれない。

 ボッタスについては、すでにF1で4年間の経験を積んでおり、彼は完全にワールドチャンピオンを狙えるチームにステップアップする態勢である。

 一部の人は、過去数シーズンにわたってベテランのマッサに苦しめられたボッタスが、どれだけの進歩を遂げることができるか疑問に思っているが、メルセデスのシートを獲得することができれば、彼はそれを最大限に活用し、自分がまだ上向きの軌道に載っていることを示すだろう。

2018年以降の展開

 ボッタスがメルセデスに移籍することができたとしても、メルセデスのシートが保証されるのは、2017年限りなのかどうかは興味をそそる問題だ。スーパースター級のドライバーを、来シーズンのために急に獲得することはできなかったが、何人かのビッグネームは契約期間が終わり、2018年に市場に出ることになる。

 ほとんどのドライバーはおそらく、ハミルトンとロズベルグのコンビが今後数年メルセデスに留まるということを考慮して契約を延長しただろうが、今やすべては白紙になった。ウルフはすでに、2018年以降の議論を始めているのかもしれない。

 ボッタスは、1年だけのレース契約かもしれないということを前提にしても、メルセデスに移るだろうか? もちろん彼はそうするだろう。優勝を狙えるマシンに乗れるのだから。来年ハミルトンに対してうまくやることができれば、彼の株は上昇し、2018年以降、他のトップチームも彼のことを追いかけ始めるかもしれない。

 実際のところ、あるパドックの関係者は、フェラーリが今もボッタスの獲得を狙っており、最初にメルセデスに行くことを阻止しようとしていることを示唆している。

 メルセデスにとって、アロンソやベッテル、マックス・フェルスタッペンといったドライバーが突然チームに加わる場合とは違い、チーム内の調和を乱すようなことはないだろうということがボッタス加入の大きなポジティブな点だろう。彼は政治的な動きや、駆け引きに興じるような人間ではない。

 しかしながら、ウルフがチームの代表とボッタスのマネジメントチームの一員としての、二重の役割を持つことに、ハミルトンが懸念を抱く可能性がある。

「私はルイスが気にするとは思わない」とエクレストンは今週スカイに語った。

「ハミルトンに対抗するために、チームがボッタスに手助けをしていたことが、痛いほど明らかになるまではね……」

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シリーズ F1
ドライバー Felipe Massa , Nico Rosberg , Pascal Wehrlein , Valtteri Bottas
チーム Mercedes , Williams
記事タイプ 分析