F1アメリカGP決勝分析:ハミルトンはタイム差以上の完勝劇だった!?

F1アメリカGP決勝レースの勝負どころを、ラップタイムの記録から分析する。

 サーキット・オブ・ジ・アメリカズで行われた、F1第18戦アメリカGP。昨年に引き続き、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が優勝を果たし、ドライバーズランキングでトップをひた走るチームメイトのニコ・ロズベルグに対して待ったをかけた。

 予選ではレッドブル勢が接近、決勝でもダニエル・リカルドがレース大半で2番手のポジションを走るなど、特に上位2チームが接近したレースだったように見えたが、ラップタイムの推移をじっくりと見直してみると、ハミルトンは最終結果以上に完勝だったように思える。

 それが最も良く現れているのが、最初のスティント終盤のタイムだ。

ハミルトン、勝負所は”第1スティント終盤”

Race winner Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1 celebrates on the podium
Race winner Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1 celebrates on the podium

Photo by: XPB Images

 レースのスタートから5周目まで、先頭を行くハミルトン、2番手のリカルド、3番手のロズベルグ、そして4番手を走っていたフェラーリのキミ・ライコネンは、ほぼ同一のペースで走行していた。

 ただ6周目から、ハミルトンのペースが一気に上がる。それまでは1分44秒2前後で走っていたハミルトンだが、6周目からはこれを一気に1周あたり0.5秒程度上げ、1分43秒6前後の速いペースで走ったのだ。これによりそれまで1秒だったリカルドとの差を3秒まで広げて、後続のアンダーカット(ライバルよりも先にピットインして新しいタイヤを履き、その効果を活かしてライバルがピットインを行った際にポジションを奪う戦略)を封じたのだ。しかも、この時のペースは、タイヤを替えてコースに戻ったライバルたちと同等かより速いもの。スタートを失敗しなかったことももちろん重要だったが、このペースを上げて走った第1スティント終盤の6周で、勝利を掴んだと言っても過言ではないかもしれない。

 11周を走ったところでタイヤを替えたハミルトンは、新しいタイヤを履いたにもかかわらず、それ以前とほぼ同じペースで走り続けた。おそらくはもっと速いペースで走ることもできたのだろうが、タイヤをしっかりと労わり、後ろとの差だけを注視していたものと考えられる。そしてもちろん、彼がレース後に「いつ不吉な音が聞こえてくるのか、恐れていた」と語っている通り、マシンを労っていたということもあるだろう。圧倒的な速さで勝つだけじゃない、残り3レースのことをしっかりと考え、最小限の差で勝つ。そんなハミルトンの完勝劇だったように思われる。

VSCが無くても、リカルドとベッテルの順位は変わらない?

 さて、今回のレースでもうひとつの勝負所となったのは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)のリタイアが引き起こしたバーチャルセーフティカー(VSC)だ。このタイミングでメルセデスの2台はピットインし、1-2のポジションを得ることに成功。これに対してリカルドとフェラーリのセバスチャン・ベッテルは、「VSCのせいでポジションを失った」と嘆く。しかし、果たして本当にそうなのだろうか?

VSC:リカルドの例

Daniel Ricciardo, Red Bull Racing RB12
Daniel Ricciardo, Red Bull Racing RB12

Photo by: XPB Images

  まず、リカルドの事例から見てみよう。リカルドはVSCのタイミングが悪く、ロズベルグに先行されてしまったと主張しているが、実際にラップタイムを見てみると、そうでもなかったように読み取れる。

 リカルドはレース中、タイヤのデグラデーション(性能劣化に伴うラップタイムへの影響)に苦労していたようで、特にソフトタイヤを履いた第2スティントでは、走るごとにペースが落ちていき、ロズベルグに真後ろに迫られてしまった。リカルドはそのタイミングでピットインし、ミディアムタイヤに履き替えたわけだが、そのペースはそれほど芳しいものではない。

 逆に前にリカルドがいなくなったロズベルグは、一気にペースを0.8秒程度上げ、2周を走っている。もしこのペースを維持できていれば、ロズベルグがオーバーカット(先にピットに入ったマシンよりも速いペースで走り、自らがピットインをした際にライバルよりも前に出るための戦略)を成功させていた可能性もある。先行することが叶わずとも、ロズベルグがタイヤを交換した際にリカルドの真後ろでコースに戻っていたはず。つまりVSCがあろうかなかろうが、ロズベルグが2位になっていた可能性は十分に考えられるのだ。

VSC:ベッテルの例

Sebastian Vettel, Ferrari SF16-H
Sebastian Vettel, Ferrari SF16-H

Photo by: XPB Images

  さてベッテルは、29周を走りきったところで2回目のピットインを行い、ミディアムタイヤに替えた。この指示がチームから飛んだ直後、フェルスタッペンがトラブルを起こし、コース上でスローダウンしている。もしフェルスタッペンがすぐにマシンを止め、そしてすぐにVSCが宣言されていれば、ベッテルにとっては願ってもないことだっただろう。しかし、フェルスタッペンはマシンをなんとかピットに戻ってこようと頑張ったため、ベッテルはこの恩恵を被ることはできなかった。

 レッドブルとしては、レース中フェラーリを脅威に思っていたはずだ。もしフェルスタッペンがすぐにマシンを止めたことで、先行されることはなくとも実質的にベッテルが差を詰めることになってしまったら、レース終盤のリカルドの立場も危うくなる可能性があった。これを避けるためにチームは、フェルスタッペンに長く走らせ、VSC発動のタイミングを遅らせたとしたら……考えすぎだろうか?

 しかし、ベッテルにとって最適のタイミングでVSCが入っていたとしても、ベッテルが先行するのはまず不可能だった。

 ピットに入る前のベッテルとリカルドの差は約8秒。通常のレース中にピットインを行うと、18秒程度失ってしまう計算だが、VSC中なら失うタイムは12秒程度。VSCがベッテルにとって最高のタイミングで発動されたとしても、彼はリカルドの後方4秒の位置に戻ったに過ぎなかったはずだ。その後の最終スティントのペースを見ても、ベッテルはリカルドよりも遅かったため、彼が3位を獲得するのはとても難しいことだったと思われる。

 つまり、VSCのタイミングにかかわらず、ハミルトン→ロズベルグ→リカルド→ベッテルという最終順位は、変わりようがなかったと思われる。

VSCに最も翻弄された男、マッサ

Felipe Massa, Williams FW38
Felipe Massa, Williams FW38

Photo by: XPB Images

  さて、後方にも目を転じてみよう。このVSCのタイミングにより、結局ポジションを2つ失うことになったドライバーがいる。それが 7位でフィニッシュした、ウイリアムズのフェリペ・マッサである。マッサは、ピットインした直後にVSCが発動。このタイミングを、マッサの後方を走っていたカルロス・サインツJr.(トロロッソ)は見逃さずにピットイン。サインツJr.が先行することになった。その後マッサはサインツJr.をなかなか抜くことができず、後方から迫ってきたフェルナンド・アロンソ(マクラーレン)にもオーバーテイクされてしまい、結局7位に。4ポイントを失う結果となってしまった。

Fernando Alonso, McLaren MP4-31
Fernando Alonso, McLaren MP4-31

Photo by: XPB Images

  なお、5位でフィニッシュしたアロンソだが、今回のレース中は終始非常に良いペースで走行していた。特に第2スティントでは、走り始めこそソフトタイヤを履くマッサとサインツJr.と比べて劣っていたものの、ふたりがデグラデーションに苦しむ中、アロンソのミディアムタイヤには性能の劣化は見られず、差を詰めていった。そして最終スティントでこの3台が揃ってミディアムタイヤを履いた際には、アロンソがペースで勝っており、そしてマッサ&サインツに追いつき、オーバーテイクを成功したわけだ。もし第2スティントにソフトタイヤを履いていたら、5位はなかったかもしれない。

 以上のように分析してきたアメリカGP。このレースの結果、ロズベルグとハミルトンのポイント差は、26に縮まった。しかし、もしロズベルグが今週末のメキシコGPで優勝し、ハミルトンが10位以下だった場合は、この時点でポイント差が50以上に広がることとなり、ロズベルグの初タイトルが決まる。2016年のドライバーズチャンピオンは、ロズベルグが獲得するのか? それとも別の展開が待っているのか? 注目が集まる。

 F1第19戦メキシコGPは、10月28日〜30日まで、メキシコシティにあるエルマノス・ロドリゲス・サーキットで行われる。

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マッサ「パンクがなければトップ5でフィニッシュできた」

■2016年F1アメリカGP:ラップタイム比較グラフ(クリックすると拡大します) 

F1アメリカGP:タイムギャップグラフ
F1アメリカGP:タイムギャップグラフ

Photo by: Motorsport.com 

F1アメリカGP:ラップタイムグラフ(上位)
F1アメリカGP:ラップタイムグラフ(上位)

Photo by: Motorsport.com

 

 

F1アメリカGP:ラップタイムグラフ(中位)
F1アメリカGP:ラップタイムグラフ(中位)

Photo by: Motorsport.com

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この記事について
シリーズ F1
イベント名 アメリカGP
サーキット サーキット・オブ・ジ・アメリカズ
ドライバー Daniel Ricciardo , Lewis Hamilton , Nico Rosberg , Sebastian Vettel
チーム Mercedes , Red Bull Racing , Ferrari , McLaren
記事タイプ 分析