【スーパーフォーミュラ】2016年王者、国本雄資が成長した理由

スーパーフォーミュラの2016年王者に輝いた国本雄資は、昨年のランキング9位から急成長を遂げた。彼を変えた要因は一体何だったのか?

 2016年、スーパーフォーミュラのチャンピオンに輝いたのは、P.MU / CERUMO · INGINGの国本雄資だった。

国本雄資(P.MU / CERUMO · INGING)

Photo by: Yasushi Ishihara

  2015年、国本は非常に苦しいシーズンを過ごした。チームメイトの石浦宏明が51.5ポイントを獲得してチャンピオンを獲得したにもかかわらず、国本はわずか7.5ポイント、1度も表彰台に登壇できずにシーズンを終えた。実は国本のマシンには損傷があった。それが不調の原因の一部だったわけだが、外から見れば石浦との差は歴然であるように見えた。

「去年は悔しい想いをしました。石浦さんがチャンピオンを獲ったのに、あのままじゃイヤだと思った」

 国本はそう語る。その状況を打破するため、彼は様々な取り組みをして2016年シーズンに挑んだ。

「トレーニングもメンタル面も、チームとのコミュニケーションもクルマのことも、すべて変えてきたつもりです。1日では変われないけど、日々の積み重ねが少しずつそういう力になったと思います」

P.MU / CERUMO · INGINGの”長期戦略”

 国本のチャンピオン獲得について、チームメイトの石浦は「悔しい」と語りつつも、「他の人に獲られるよりも、国本に獲ってもらってよかった」と語る。

国本雄資と石浦宏明(P.MU / CERUMO · INGING)

Photo by: Yasushi Ishihara

 「去年の年末くらいから、チームには2台揃って強くなろうという目標がありました」

 石浦はそう説明する。

「強くなれたのは、チームの雰囲気とか、力がとても大きいと思います。僕は一度(スーパーフォーミュラを)クビになっている。国本は今年崖っぷちだった。つまり、ふたりとも自信を持てない状況だったわけです。でも、そこから自信を持てるようにチームがバックアップしてくれて、信じて使いつづけてくれた。このチームにいる限り、結果が悪くても不安に思うことはないんです。安心して力を出せる」

「クルマに問題があったとはいえ、去年は一見すると国本のパフォーマンスが足りないように見えるシーズンだった。普通ならそれで終わりじゃないですか。でも、チームが信じて使いつづけたことが正解だった。それはすごいなと思います」

 石浦はチームに誘われた時から、”普通じゃなかった”と付け加える。

「このチームに誘われた時、『ウチはお前と国本で長期的にやっていくんだ』と言われたんです。『普通は1年契約じゃないのか?』と思いましたよ。『何ていうことがあるんだ!』って」

国本を成長させた石浦

 セルモはなぜ石浦を招聘し、国本と共に走らせることにしたのか? しかも長期計画で。これについてセルモの佐藤正幸社長が次のように説明してくれた。

「国本はクルマを仕上げる能力が不足していたんです。これじゃあダメだと。トヨタさんとも相談しながら、経験あるドライバーと組ませなきゃと思ったんです。それで石浦に白羽の矢を立てて乗ってもらうことにしました。それで、国本が成長したんです」

 そう佐藤社長は語る。

「彼はそれまで、自分のデータだけを見ていたんです。他のドライバーと比較するという考えはなかった。乗り始めた時は、クルマの知識も持っていなかったし、それを言葉と数字だけで教えるのは、限界がありました」

「でも、石浦が入ったことで、彼は変わった。一生懸命石浦のデータを何回も見て、クルマの仕上げ方を学んだ。正直、途中で国本はもういいんじゃないかという話が出たこともありました。でも、『ちょっと待ってくれ』と言いました。(そこで国本を放出していたら)これまでやってきたことが無駄になってしまいますから」

国本雄資(P.MU / CERUMO · INGING)

Photo by: Yasushi Ishihara

 石浦の加入によって国本が変わった。チームの立川祐路監督も、それを語る。

「国本はTDP(トヨタ・ヤング・ドライバーズ・プログラム)で育てられてきましたが、今まではその生徒感が抜けなかった」

「それがものすごく真剣にレースに取り組めるようになった。ストイックだし、それに向けて努力できる人間になった。大したもんだ。僕にはできないですよ」

 石浦の存在、そしてそれプラス昨年の悔しさが、国本を成長させたと立川監督は続ける。

「去年の石浦のタイトル獲得が大きいと思います。あれほど辛いことはない。今年ダメだったら終わりだと、本人も思っていたはずです。その意気込みを感じた」

「元々速さは持ってるんです。だから、技術的にはそう変わってない。今年の国本の強さは、気持ちの成長が大きいと思います」

 INGINGの卜部治久オーナーも、心の変化が大きいと語った。

「これまで苦労してきた石浦と、何の苦労もしてこなかった国本。その石浦が、国本を育ててくれたと思います。心が変わった、それだけですよ。ここで頑張らなければ終わり、それが最終戦鈴鹿のレース1で、素晴らしいスタートを決めさせた。岡山での1周目のタイヤ交換も、『絶対に勝ちたい!』という気持ちを表している」

芽生え、実行に移した”勝利への強い想い”

国本雄資(P.MU / CERUMO · INGING)

Photo by: Yasushi Ishihara

  国本の勝利への欲求は、その他の行動にも表れていた。奇しくもエンジンを提供するトヨタの永井洋治プロジェクトリーダー、そしてヨコハマタイヤの秋山一郎開発本部長が、それを示す同じようなエピソードを披露してくれた。

「(国本)雄資は、色々と聞きに来てくれたんです」

 そう語るのは、ヨコハマの秋山本部長だ。

「内圧はどのくらいにするのかとか、そういうことを聞きに来てくれたんです。彼はスーパーGTでもウチのタイヤを使っているので、一緒にいることが多い。そのため、一般論的な部分も含めて、コミュニケーションを取っています」

 一方トヨタの永井プロジェクトリーダーは「自分が覚えているだけで、レースの前日にサポート部屋に来たことが2回あった」と語る。

「ドライバー自らが来ることってほとんどないんですよ。どこを詰めたらいいのか、何が問題なのか……そういうことをしつこく、エンジニアを交えて聞いてくるんです。でもこの来た2回の翌日、彼は両方ともレースに勝っているんです」

「勝つためのこだわりって言うんですかね。みんなトップレベルのドライバーですから、ほんの少しの差がパフォーマンスに繋がる。勝つための意欲、それを行動に移せるかどうかが重要なんだと思います」

王者vs王者、レベルアップ必至のチームメイト対決

 2015年は石浦、2016年は国本……つまり、まだ発表はされていないもののP.MU / CERUMO · INGINGはふたりのチャンピオンを擁して2017年シーズンを戦うということになるのだろう。そこには、不安と期待が入り混じっていると、今年からチームに加わった浜島裕英総監督は語る。

「国本が育って、来年はふたりの戦いになるんじゃないかと心配しています。嬉しいですが、楽しみでもあり恐怖でもあります。どうコントロールするのか……」

石浦宏明(P.MU / CERUMO · INGING)

Photo by: Takahiro Masuda

 石浦もさらに強くなるであろうチームメイトを警戒する。

「テストから、チャンピオンを獲った国本のタイムの入り方が速くなっている。自信をつけていると思います。今までより大変になるのは間違いないです」

 しかし、他チームにはない”チームワーク”で、ふたり揃って上位を争えると、石浦は期待も見せる。

「2台体制でやっていても、データの共有はなかなかしないものなんです。でも、僕らはそれが普通にできている。雰囲気もすごく良いし、だから来年も僕らは力を発揮できる状態にあります。最後はドライバー勝負ですから、ピット内に壁を立てなきゃいけなくなるかもしれませんが、シーズンが始まるまではこの雰囲気でやっていけると思いますよ」

 石浦はそうにこやかに語りつつも、来年こそという雪辱を、密かに誓った。

国本雄資(Yuji Kunimoto)
Photo by: Motorsport.com

 チャンピオンに輝いた国本は、今は”不安”を感じていると、正直に語る。

「チャンピオンを獲って3日くらい経った後、来年のことを考えるとすごく不安になるんです。来年は、今年以上にレベルの高い戦いになると思いますから」

 そう国本は言うが、それに打ち勝ってみせると意気込む。

「でももっと努力します。もう悔しい想いはしたくないんで。今は不安ですが、努力することで不安を少しでもなくして、一歩でも前進できるように常に考えたい。来年も充実した1年を過ごしたいと思います」

 先日行われたP.MU / CERUMO · INGINGの祝勝会。この原稿にまとめた声は、その時に語られたものだが、人々は口々に、チームの雰囲気を褒める。縦社会ではなく、和気藹々として明るいのだ。しかし、仕事は常にプロフェッショナルであり、ドライバーを含めてチーム全体が、信頼感という強い結束で結ばれているという。そんなチームに、ふたりの”元崖っぷち”ドライバーが、今やチャンピオン経験者に成長して集い、そしてそれぞれが2度目のチャンピオンを目指して戦う。ドラマのような現実の物語は、次にどんな展開を迎えるのだろうか?

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シリーズ スーパーフォーミュラ
記事タイプ 分析