【WEC】2016年シーズンをLMP1マニファクチャラーズ別に振り返る

2016年WECのポルシェ、トヨタ、アウディをそれぞれフォーカスし、ハイライトをおさらいする。

 2016年のFIA世界耐久選手権(WEC)は、ル・マン24時間レースで起きたトヨタの悲劇から、最後のレースを圧勝し有終の美を飾ったアウディ、2連勝目を掴み取った王者ポルシェまで、語り尽くせないほどの話題に富んだシーズンであった。

 motorsport.comのジャーナリストであるサム・スミスは、ジェットコースターのような今季のWEC振り返った。

ポルシェ - 序盤で勝利を固めた2号車

 今季のWECで、ポルシェはドライバー部門とコンストラクター部門のタイトルを獲得するに値するレースをした。

 2号車ポルシェ919ハイブリッドを担当したニール・ジャニとマルク・リーブ、ロマン・デュマは、安定した結果を出していたというわけではないが、シーズン開幕戦からの3戦が勝利への要となり、彼らはチャンピオンカップを手に入れることができた。

 今シーズンの功績は、ポルシェが2016年マシンの早期開発を全力で取り組んできていたからこそだ。トヨタとアウディから新たな挑戦者が台頭してきたことで、昨年のWECタイトルを防衛することは、ポルシェにとって容易なものではなかった。

 2016年のチャンピオン争いはほとんどポルシェのシナリオ通りに進んだ。ポルシェは信頼性の高さを発揮し、とても速かった。一方のアウディはそうは行かず、時に信頼性の問題で苦しんだ。

 2号車ポルシェは開幕戦シルバーストンで優勝し(アウディがレース後車検をクリアできなかったため)、また次戦のスパで2位になった。

 開幕戦は、結果的にジャニとデュマ、リーブにとってラッキーな”勝利”であった。しかし最後の1時間でパンクを喫さなければ、7号車との互角のバトルはどのような結末を迎えていたかはわからない。

 波乱万丈のスパでは2位を獲得したが、ハイブリッドの問題を抱えていたため、フルパワーでのレースがままならない状態であった。5号車トヨタの悲劇が起きたル・マン24時間レースではポール・トゥ・ウィンを果たし、50ポイントを獲得したことで、2号車ポルシェはシーズン初めに盤石の基礎を作り上げた。

 ル・マンの時点で、2号車が圧倒的に今季のWECを支配しているように見えたが、7月のニュルブルクリンクから彼らの雲行きは怪しくなり、その後は特に目立つような結果を出していない。オースティンで4位、富士で5位、上海で4位というLMP1のランキング平均以下の結果が続いたトリオは、あたかも『セーフモード』に入ったかのようにも見えた。

 最終戦バーレーンでは、少なくともペースは良かったが、レース開始から2時間後のジャニのスティントでKCMGポルシェと接触したことで、ここにきてタイトルを失うかもしれないというような、想像を絶するシーンがあった。彼らはまるで過度に疲弊したヘビー級ボクサーのようにマシンを引っ張り、ゴールに漕ぎ着けた。

 ある程度の幸運により、2号車ポルシェに勝利の女神が微笑んだ今シーズンだが、『ジャニやリーブ、デュマがタイトルに相応しくない』と揶揄するのは言うまでもなく誠実なことではない。序盤に見せていた速さは終盤にかけて影を潜めてしまったが、彼らが築き上げた磐石な基礎が、のちの勝利の要となった。

LMP1 World Champion #2 Porsche Team Porsche 919 Hybrid: Romain Dumas, Neel Jani, Marc Lieb
LMP1 World Champion #2 Porsche Team Porsche 919 Hybrid: Romain Dumas, Neel Jani, Marc Lieb

Photo by: Porsche Motorsport

 運も耐久レースの要素のひとつであるが、昨年チャンピオンの1号車ポルシェを担当したブレンドン・ハートレーとマーク・ウェーバー、ティモ・ベルンハルトは苦難のシーズンを過ごした。

 シーズン開幕はチャンピオンに相応しいパフォーマンスを発揮した。だが、ハートレーがガルフポルシェと接触し、リタイアになってしまった。

 ハートレーは自分のミスであることを認め、今後そのようなことは起きないと思っていたようだが、その後も何度も起こってしまう。今回は”神様のいたずら”と言う訳ではなかったようだ。

 スパで2回もパンク(2回目のパンクは1回目のパンク時に負ったマシン損傷によるもの)を引き金に、ル・マンではウォーターポンプに問題を抱え、昨年のチャンピオンたちは、姉妹車2号車ポルシェに89.5ポイント差つけられる状況に追い込まれた。

 しかし、それからの6イベントで4勝と3位を2回獲得するという快進撃をあげた。ニュルブルクリンクとメキシコ、オースティンでの勝利はあらゆる手段を尽くして戦い掴み取ったものだ。

 上海ではストレート勝ちを決めたが、その勝利は他の3勝に劣らず価値のあるものになった。ハートレーとウェーバー、ベルンハルトは2016年を好転させ、特にウェーバーはこのような素晴らしい盛り上がりを誇りに思うと話した。

 ポルシェは2015年の夏の終わり頃から919ハイブリッドの開発を推し進めていたが、そのパッケージに隠された秘密のひとつは、複雑なサスペンションシステムにある。昨年の10月のモンツァで彼らはそれを徹底的にテストしていた。

 実際、テストは秋と冬で重点的に行われた。ポルシェのサスペンションの構造は細かく分かれており、それらは4輪が独自で動くが、内部でそれらの動きを調和することでマシンの挙動をコントロールすることができるようになった。

 ポルシェの成功がより顕著になったのは、シーズンが始まる前の3月にフィリッツ・エンツィガーとアンドレアス・ザイドルが率いるポルシェ・チームのテクニカルディレクターのアレックス・ヒッツィンガーが退職してしまったことから始まる。

 野心的なザイドルは2重の義務を背負いながらも、良い結果を残した。現在ポルシェは2018年に向けてテストを行っており、成功を納めた919ハイブリッドから大きな一歩を踏み出しているに違いない。

#1 Porsche Team Porsche 919 Hybrid: Timo Bernhard, Mark Webber, Brendon Hartley
#1 Porsche Team Porsche 919 Hybrid: Timo Bernhard, Mark Webber, Brendon Hartley

Photo by: Porsche Motorsport

トヨタ - 悔し涙と、嬉し涙を流したトヨタ

 今年、そしておそらく現代耐久レースの中で最悪の瞬間は、ル・マン24時間レースで訪れた。残り時間わずか3分、中嶋一貴のドライブでトップを走っていたトヨタTS050ハイブリッドの5号車が、突然パワーを失いホームストレートで止まってしまったのだ。

 それはまさに信じられない瞬間であり、それを見ていた全員が、所属チーム関係なく苦痛を感じてしまうほどのものだった。それからトヨタは勇敢に戦い、10月の富士で勝利してル・マンで負った傷を少し癒した。

 トヨタは3月のポール・リカールの公式テストで、新しいV6ツインターボエンジン、新しいリチイムイオンバッテリーを持ち込み、エネルギー回生量を1周あたり8MJの規定まで引き上げた。

 最初のテストでは有望だったものの、ル・マンをターゲットにして作られたマシンはダウンフォースが足りていないことが明白だった。ハイダウンフォース仕様のエアロキットを導入しても、ニュルブルクリンクのようなサーキットではポルシェとアウディの脅威にはなれなかった。

 シルバーストンでパッとしないデビューをした後、TS050ハイブリッドはスパで活気を帯びた。しかし、トップを快走していたトヨタ5号車が、オー・ルージュ/ラディオンでかかる衝撃によって生じたと考えられているエンジンの問題により勝利を逃し、大きな失望につながった。

 今シーズン、5号車のドライバーであるアンソニー・デビッドソン、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴は何度もトラブルに見舞われてしまった。

 奇妙なことだが、耐久レースではしばしばそうであるように、片方が他方よりトラブルが少なく、マイク・コンウェイ、ステファン・サラザン、小林可夢偉がドライブした6号車はタイトル争いを展開した。4レースで73ポイントを獲得したが、タイトルには届かなかった。

 富士6時間レースでは、最後のピットストップを短時間の燃料補給のみで済ませた6号車がトップに浮上し、小林可夢偉がタイヤ無交換のマシンを操り素晴らしいパフォーマンスを発揮。WEC史上最も接近したレースで、優勝を果たした。

 6号車の日中のペースは良かったが、5号車はなぜかペースに苦しみ富士での勝利の機会を逃してしまった。

 8月にマニクールで行われたテストで、クラッシュを喫し肋骨を痛めたデビッドソンはメキシコでのレースを欠場しており、彼が通常の状態まで戻るのにいくらか時間は要したであろうが、彼らの運のなさがチームメイトに85ポイントも離された決定的な要因だった。

 来シーズンはトヨタにとって大変な年になる。ル・マンは年の始めから彼らの前に、立ちはだかるだろう。2017年は彼らの年でなければならない。アウディの撤退は彼らの目的にわずかに助けになるだろうが、ポルシェは3連覇と、ル・マン19勝目を見据えている。

#5 Toyota Racing Toyota TS050 Hybrid: Sébastien Buemi, Kazuki Nakajima, Anthony Davidson
#5 Toyota Racing Toyota TS050 Hybrid: Sébastien Buemi, Kazuki Nakajima, Anthony Davidson

Photo by: XPB Images

アウディ - 最後の勝利で別れを告げる

 アウディがWEC撤退を発表した瞬間は、何年か後に振り返ると時代を先取りした決断だったと思われることだろう。早急で、かつ残酷な決定がやってきた時、レーストラックが張り詰めたような気がした。

 ドライバーやエンジニア、またメカニック、オフィシャルとファンは、スポーツカーレーシングをしているアウディ以外の姿を知らない。今、それは消え、残された穴は塞ぐことすらできず、満たされることもない。

 今季の初めは楽観的だった。昨年3月にポール・リカールでの公式テストでお披露目されたアウディR18は、レーシングカーというよりも宇宙船に近かった。想像もできないような大胆さを持ち、見た目以上に速く走るように見えた。

 条件さえ整えばまるで本物の飛行機のようであったし、ドライバーたちもそれを楽しんだ。ハイダウンフォーストラックではさらにグリップを増しているように見えた。

 しかし不幸にも、特にル・マンのようなローダウンフォースサーキットでは全く同じマシンだとは思えなかった。

 ルーカス・ディ・グラッシが決勝の数週間前に行われたル・マン公式テストで、トップタイムを記録していただけに驚くべきことだった。決勝でアウディ8号車は3位となったが、1999年以来毎年表彰台を守ってきたアウディにとっては、喜べた出来事ではなかった。

 今季のル・マンで8号車アウディは、ゆるいドアやナンバー灯の変更などのような細かい問題でタイムロスした。まるでそれはアウディのシーズンの縮図のようだった。

 メキシコシティとオースティンでの勝利でそのような問題から解き放たれたが、そこでタイトル獲得のチャンスは彼らの指から滑り落ちていってしまった。

 2016年のアウディが完全に劣っていたとは言えないが、あまりにも落差が激しかった。ル・マンと上海以外では常に勝利のためにどちらかの車両が戦っており、2ラウンドで勝利することができた(車検で失格となったシルバーストンを含めれば3回)。

 それでも、このとても特別なマシンが完全な姿になるまでブラッシュアップされることが決してないことをとても残念に思う。メーカー側が策定した2017年のプランの中のことであるから、しばらくWECでアウディを見ることは難しくなるだろう。

 先月のバーレーンでアウディは、少なくとも栄誉ある敬意を受けていた。素晴らしい時代を戦い抜き、適切なタイミングで撤退するアウディは、最後の勝利を獲得するのに値していたのだ。

#8 Audi Sport Team Joest Audi R18: Lucas di Grassi, Loic Duval, Oliver Jarvis
#8 Audi Sport Team Joest Audi R18: Lucas di Grassi, Loic Duval, Oliver Jarvis

Photo by: Audi Communications Motorsport

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この記事について
シリーズ WEC
チーム Audi Sport Team Joest , Porsche Team , Toyota Gazoo Racing
記事タイプ 速報ニュース