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コラム

”知将”ジジ・ダッリーニャ、最強ドゥカティの生みの親とは何モノか【連載:もっと知りたいMotoGPキーパーソン】

MotoGPの主役、それはライダーとバイクなのは間違いない。しかし彼らの走らせるバイクそのものを作り上げ、ライダーを支えているチームのスタッフたちもまた、この”グランプリサーカス”の主人公なのだ。

Gigi Dall'Igna, Ducati Corse General Manager, Ducati

Gold and Goose / Motorsport Images

 MotoGPファンであっても、ライダー以外についてはあまり知らない人も多い……motorsport.comではMotoGPパドックのスタッフ達がどんな人物なのか、そこにスポットライトを当てることにした。初回はドゥカティの”知将”ジジ・ダッリーニャだ。


 2010年代半ば以降のMotoGPの技術潮流……羽根のようなウイングレットから車高調整デバイスに至るまで、現在のMotoGPの革新的なトレンドのほとんどはこの人の脳内から生まれた、といっても過言ではない。イタリアンファクトリー、ドゥカティのアイディアマン、それがジジ・ダッリーニャだ。

■ドゥカティ改革の立役者、それがダッリーニャ/来歴

 彼がドゥカティへやってきたのは2013年秋。

 この時期のドゥカティは、2010年末にケーシー・ストーナーが離れて以降の長い低迷から抜け出せず、かなりの苦戦が続いていた。2011年にはバレンティーノ・ロッシがヤマハから移籍して大きな期待が集まったものの、彼の才能をもってしても好成績を収めることはできなかった。当時の開発リーダーだったフィリポ・プレツィオージは、ロッシのリクエストに応じる形で様々な変更をマシンに加え、バイクはストーナー時代から大きくかけ離れた仕様へ変わっていったが、それでも性能向上の兆しは見られなかった。

 結局、ロッシは2シーズンの苦労に懲りてヤマハへ舞い戻り、黎明期からマシン開発を牽引してきたプレツィオージもロッシ離脱のしばらく後に社を離れていった。

2014年/アンドレア・ドヴィツィオーゾと

2014年/アンドレア・ドヴィツィオーゾと

Photo by: Ducati Corse

 そのすっぽりと空いた場所を埋めるために、アプリリアから一本釣りのような格好で2013年秋に移籍してきたのがダッリーニャだった。つい最近にも思えるが、すでに8年半ほども前のことだ。若いMotoGPファンのなかには、彼がかつてアプリリアで辣腕をふるっていたことを知らない人も多いかもしれない。

 もともとは、1990年代のアプリリア躍進を牽引した技術者ヤン・ウィットベンの元でマシン開発に携わっていた。やがてウィットベンがアプリリアを去ると、ダッリーニャがプロジェクトを牽引し、ホルヘ・ロレンソ(2006/2007)の250cc連覇や翌2008年のマルコ・シモンチェッリのタイトル獲得に大きく貢献した。この2008年にはRSV4のプロジェクトリーダーに就任。このバイクで2009年からスーパーバイク世界選手権のファクトリー活動を開始し、2010年と12年にマックス・ビアッジが年間総合優勝を達成した。

■”名を捨てて実を取った”ダッリーニャ/哲学

 ドゥカティに参画した2014年から、ダッリーニャはさっそく大きなチーム改革をスタートさせた。

 このシーズンのMotoGPには、〈ファクトリーオプション〉と〈オープンカテゴリー〉という2種類の区分けがあった。大きな違いとしては、ファクトリーの場合だと各メーカーが自社製ECUソフトウェアを使用できるかわりに、年間エンジン使用基数は5基に制限され、シーズン中の開発も凍結される、という決まりになっていた。一方、前年度まではCRTと呼ばれていた、いわば市販車改造マシン区分の延長線上にあるオープンカテゴリーで参戦する場合は、ドルナが供給する公式ECUソフトウェアを使用しなければならないが、シーズン中のエンジン改良は自由。エンジン使用基数も、12基まで許容される。つまり、現在のコンセッションよりもさらに緩やかな規制を適用されていたと考えて差し支えない。だがこれは、ファクトリーとオープンカテゴリーの間にはそれだけ圧倒的なレベル差が開いていた、ということでもある。

 実際に、当時のドゥカティはホンダ・ヤマハの両巨頭に大差をつけられて、まったく勝てない状態が続いていた。ロッシが離脱した2013年には、表彰台にすら一度も上がっていない。この勝てない現状を打破するためにダッリーニャの選んだ方法が、ファクトリーとしてのプライドを捨てて開発の自由度を優先する、という「名を捨てて実を取る」オープンカテゴリーの選択だった、というわけだ。

Andrea Dovizioso, Ducati Team
Andrea Dovizioso, Ducati Team

「かつてドゥカティ内部では、どこかにある大きな原因を究明してそれを変えれば全体が改善する、と皆が思い込んでいた。現実はそうではない。ここをさわってあそこをよくして、と小さな修正を積み重ねていった結果、ようやく少し前進できる」

「私は人生のすべてをレースに費やしてきて、ひとりのライダーの方向性のみに従うようにしないことが大切だ、と学んだ。だから、複数名でバイクを開発していくことが肝要だと考えている」

 これは、2014年開幕前のセパンテストの際に、ドゥカティのゼネラルマネージャーとして初めてメディアと向かい合ったときのダッリーニャの言葉だ。ダッリーニャといえば、思いもよらない目から鼻に抜ける卓抜なアイディアと戦略的行動に注目が集まりがちだが、上記の台詞の中には、粘り強くひたすら地道な努力を続ける彼の一面がよく現れている。ちなみにこの2014シーズンには、ダビデ・タルドッツィがファクトリーチームのマネージャー、スポーティングディレクターにパオロ・チアバッティ、という現在のマネージメント態勢ができあがっている。

 ほどなくウィングレットという飛行翼のような空力パーツを導入したが、安全上の理由から翌年以降の使用禁止が決定。

 その2016年夏、翌年以降の開発方向についてダッリーニャに訊ねると、「ほかのことに予算を使うくらいなら、もっと空力の研究開発に金を使いたい」という言葉が返ってきた。

 この返事には思わず笑ってしまったが、技術者としての執念には感心もした。その探究心がカウルとウィングを一体化させるというアイディアを生み出し、彼のエアロダイナミクス追求に他陣営もすべて追随していったのは周知のとおり。

 ここ1~2年の話題では、ホールショットデバイス等の車高調整機構も、ダッリーニャのアイディアが広がって全陣営が採用するメガトレンドへ発展した例、といっていいだろう。

■強さを取り戻したドゥカティと「”少しづつ”の繰り返し」

 弱小ファクトリーに堕していたドゥカティは、ダッリーニャ参画3年目の2016年に、ようやく6年ぶりの優勝を達成する。以後は徐々に強さを取り戻し、やがてトップ争いの常連となって、昨年後半戦には最も強力なバイクと見なされるまでになった。

 2021年シーズン終了後、もっとも戦闘力が高いバイクへ成長した理由を尋ねたときのことだ。

「なにか特定の事柄を改善して良くなったわけではなく、いろんな要素が関係している。ここ、と特定することはできなくて、細かいことの積み重ねで少しずつ良くなってきた。サーキットによっては進入がまだダメだし、今後も改良していかなければならない部分はたくさんある。私がドゥカティに加わったときから旋回性はずっと大きな課題で、毎年少しずつよくなってきた。昨年のものは一昨年のものよりも詰めていくことができた、今年は去年よりもさらに少し良くなった。それでもまだ満足のいく水準には達していない」

 2014年の就任当時の言葉と比べてみると、発言内容と方向にほとんど変化がない。それはブレのなさ、といってもいいかもしれないし、技術者としての粘り強い執着心のあらわれ、ともいえるだろう。

 ダッリーニャの「特産品」といえば、近年の成果物であるフロント用ライドハイトデバイスは、来シーズンからの禁止がすでに決定している。第4戦アメリカズGPでもヨハン・ザルコ車に搭載され、実戦開発が継続していたことは確認できていた。今後はひょっとしたら、あっと驚くようなソリューションでこの技術が継承されてゆくのかもしれない。あるいは彼のことだから、誰も思いもよらない突飛な新技術を導入し、MotoGPの次のメガトレンドを作り出してみせるのかもしれない。

 
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