特集
eSports 企画『eスポーツを知る』
企画『eスポーツを知る』第4回:“二刀流”選手が語るリアル・バーチャルそれぞれの魅力
新型コロナウイルス禍の中、日本のモータースポーツ界でもバーチャルレースが盛んに行なわれている。その中でも特に精力的に“eレーシング”に参画している山下健太、野尻智紀に話を聞き、プロドライバーならではの視点からリアルレース、バーチャルレースについて語ってもらった。
大串 信
編集: 2021/05/17 6:54
Copy link
Viberでシェア
Google検索でmotorsport.comをお気に入り登録

新型コロナウイルス蔓延に伴う外出自粛の中、家庭内にいながらインターネット回線を介してレースができるeレーシングが注目を浴びている。その結果、リアルのレースイベントが延期になって闘争心のやり場をなくしているリアル・レーシングドライバーたちがeレーシングに続々と流入してレースを行なっている。
F1グランプリがバーチャルシリーズを開催しているのはご存じの通り。日本国内でも5月には『TGR e-Motorsports Fes』、『スーパーフォーミュラ・バーチャル・シリーズ』など本来スーパーGTやスーパーフォーミュラで戦うはずだったリアルのトップ選手たちが顔を揃えてバーチャルレースを戦った。リアル・レーサーたちは、バーチャルレースをどのような思いで戦っただろうか。
■山下健太「ハンドルとペダルを用いるのは同じ。バーチャルも参考になる」
山下健太(KONDO RACING)
Photo by: Masahide Kamio
トヨタ系の注目選手が山下健太である。昨年はスーパーフォーミュラ、スーパーGTで優勝を記録、FIA 世界耐久選手権(WEC)にも進出し、ますます活躍の場を拡げている。彼は以前からバーチャルレーシングにも熱心で、昨年グランツーリスモSPORTの大会が茨城国民体育大会の文化プログラムとして開催された際には、ゲーマーたちを含む全国約15000人の参加者の中で予選上位に食い込み、一部で話題になったほどの実力の持ち主である。
山下は、リアルとバーチャルの違いについてこう語る。
「現在たくさんのレースゲームがあり、それぞれ挙動や操作感に個性がありますが、どのソフトも一周のラップタイムがほぼ実車と重なるので、コーナーを曲がるスピード、最高速などについては参考になります。ただ、例えば路面のギャップの拾い方、アンダーステア、オーバーステアの出かたなど、様々な面で実車と異なる面があります。だからバーチャルなシミュレータに慣れていないリアルドライバーがシミュレータ内で速く走るには、それなりの練習が必要です」
大湯都史樹 TCS NAKAJIMA RACING, 山下健太 KONDO RACING
Photo by: JRP
リアルとバーチャルの“走らせ方”について山下はこう比較する。
「リアルは体力的な部分で大きなGが掛かるので、それに耐えながら操作する必要があります。また、本物とゲームでは恐怖感が格段に違います。例えば初めてゲームをした場合、スピードを出しすぎて、すぐコースアウトしてしまう方が多いです。逆に実車で初めてサーキットを走る場合、ストレートでアクセル全開にするのすら躊躇し、コーナーのはるか手前でブレーキを踏み始める方が多いです」
このようにバーチャルとリアルの間には差があると山下は言う。だからといってリアル・レーサーにとってバーチャルのレースは参考にならないかというとそうではないようだ。
「練習にはなります。ハンドルやペダルを使用するのは実物と同じだからです。実車と比べると様々な点が異なっており、たとえばタイムを狙う場合には少し特殊な走り方が必要になります。でもその走り方をいち早く見つけ、それをハンドルとペダルを用いて実行するという過程は、実車でも同じなんです。だから練習になります」
今年も、かごしま国体ではeスポーツ選手権が開催され、山下も参加したが、ラップタイムでコンマ1秒及ばず予選落ちを喫した。さらに前述した『TGR e-Motorsports Fes』、『スーパーフォーミュラ・バーチャル・シリーズ』にも出走、どちらでも上位争いを展開した。まさにリアル・バーチャル“二刀流”選手の第一人者と言えるだろう。
■野尻智紀「バーチャルレースは間口の広い"モータースポーツ"であって欲しい」
野尻智紀(#8 ARTA NSX-GT)
Photo by: Masahide Kamio
ホンダ系若手ドライバーの実力派である野尻智紀選手も、バーチャルレーシングに熱心な二刀流選手のひとりである。彼の特徴は、後付けのステアリング&ペダルがセットになったハンドルコントローラ、いわゆる“ハンコン”を使わず、ゲーム機標準のコントローラを使っている点だ。これについて野尻は「特別な設備を使わず、ゲーム機そのままでもバーチャルレースが楽しめることを知ってもらいたいから」と語る。
「グランツーリスモは以前から所持しており、モータースポーツを気軽に楽しめるツールとして使用しています。オンライン上でたくさんの方と一緒に走れるというのは、すごくいいことだと考え、以前から楽しんでいました」
オンラインレースの機能を使えば、一般ファンとレーシングドライバーが同じレースを闘って交流を深めることができるのはバーチャルレースの魅力のひとつである。野尻は二刀流選手であると同時にバーチャルレース伝道師でもあったのだ。
野尻自身は、リアルとバーチャルを比較するとその挙動や操作感は異なると断言する。
「ひとつの要素が異なれば、繋がっている全てが異なってくるので、やはり全体的には違ってくるという印象です。だからこの先、もっとリアルさが追求されることを望んでいます。まだ表現し切れていないんじゃないかなと思います。バーチャルで練習したことが、100%直結して実車でも感じられるといいですね」
野尻智紀 TEAM MUGEN
Photo by: JRP
その違いの中、バーチャルからリアルのモータースポーツへ挑戦する選手が増えつつある。そういう選手がまず身につけるスキルはどういうものになるだろうか。
「起きる現象を理論からしっかり理解し、それに合わせてドライビングを変化させることでしょうか。ドライビングを変化させるという点では、eスポーツのトップ選手は私以上に繊細な対処ができるのではないかと思います。メーカーやチームがバーチャルで速い人を即戦力で迎え入れるような将来になると夢が広がりますね。そのためにもリアルとバーチャルを限りなく近付けて欲しいと思います」
違いはあるが、リアルとバーチャルそれぞれに魅力があると野尻は言う。
「リアルはやはりそこにある物、架空ではないものが走って戦う点が魅力です。これに対してバーチャルは、リアルと比較したら敷居が低くて、オンライン上でたくさんの方とレースができる点が魅力ですね」
野尻は、今回のコロナ騒動で外出自粛が要請される中、積極的にオンライン上でバーチャルレースイベントを催し、参加者を募って公開している。
「こんな状態ではありますが、少しでもモータースポーツが盛り上がってくれたら嬉しいと思って。プロ同士はいつもレースをしていますから、バーチャル上では、レースファンのみなさんとたくさん走りたいと思うんです。ハンドルやペダルなどを準備しないでも楽しめますからぜひ多くの方に来ていただきたいです。バーチャルレースは、敷居の低い、間口の広い"モータースポーツ"であって欲しいと思います」
二刀流ドライバーが活躍することで、リアルとバーチャルの垣根はますます低くなり、新しいモータースポーツの世界が拡がるのだとすれば、新型コロナ騒動も悪いことばかりではないのかもしれない。
Read Also:
- 野尻智紀が“あえて”コントローラーパッドでSFバーチャル戦に参加した理由
- 企画『eスポーツを知る』第3回:eレーサーはリアルレーサーと相反する存在なのか?
- eスポーツ王者から“リアル”の頂点へ。“日の丸戦士”フラガ「F1日本GPに出たい」
- 企画『eスポーツを知る』第1回:今さら聞けない“eレーシング”の世界
- 企画『eスポーツを知る』第2回:急速に進む4輪モータースポーツとの“融合”
あなたの意見が聞きたい!
Motorsport.comで何を見たいですか?
5分間のアンケートにご協力ください。
- Motorsport.comチーム
コメントを読んで投稿する
関連ニュース :
記事をシェアもしくは保存
Copy link
Viberでシェア
前の記事 MotoGPバーチャル・ミサノ:アレックス・マルケスが兄下し2勝目。ロッシ地元表彰台
次の記事 F1バーチャル第6戦モナコ|ラッセルが約40秒もの大差をつけ2連勝をマーク
Top Comments
コメントはまだありません。 最初のコメントを投稿しませんか?
View More & Comment
More from
大串 信

ブレーキ進化の歴史が物語る、”走る実験室”モータースポーツで培われるレース技術と量産技術の関係性
F1
F1
カナダGP
2021/06/13
ブレーキ進化の歴史が物語る、”走る実験室”モータースポーツで培われるレース技術と量産技術の関係性

試練を乗り越え待望の開幕。現場で感じたスーパーGTの”スゴさ”
スーパーGT
スーパーGT
第1戦 富士
2020/07/20
試練を乗り越え待望の開幕。現場で感じたスーパーGTの”スゴさ”

企画『eスポーツを知る』第5回:グランツーリスモが見据える、“次のステージ”
eSports
eSports 2020/07/14
企画『eスポーツを知る』第5回:グランツーリスモが見据える、“次のステージ”

More from
山下 健太

au TOM'Sの黄金時代続く。前人未到のシリーズ3連覇達成……坪井&山下「この環境にいられることを感謝」と口を揃える
スーパーGT
スーパーGT
第8戦:もてぎ
10 ヵ月前
au TOM'Sの黄金時代続く。前人未到のシリーズ3連覇達成……坪井&山下「この環境にいられることを感謝」と口を揃える

もてぎで速さを見せるトヨタ勢。スーパーGT最強コンビ坪井翔&山下健太は2週連続で主役に?|スーパーフォーミュラもてぎ
スーパーフォーミュラ
スーパーフォーミュラ
第3戦・第4戦もてぎ
2025/04/18
もてぎで速さを見せるトヨタ勢。スーパーGT最強コンビ坪井翔&山下健太は2週連続で主役に?|スーパーフォーミュラもてぎ

テストからの好調をSF開幕戦2位につなげた山下健太。今年はイケる?「いや、まだトンネルの中です」と本人は飄々
スーパーフォーミュラ
スーパーフォーミュラ
第1戦:鈴鹿
2024/03/11
テストからの好調をSF開幕戦2位につなげた山下健太。今年はイケる?「いや、まだトンネルの中です」と本人は飄々
最新ニュース

自分でも驚きだ! ノリスがキャリア最高アタックでポールポジション獲得。角田裕毅は15番手、アストンマーティン・ホンダはQ1敗退|F1スペインGP予選
F1
F1 F1
スペインGP
1 時間前
自分でも驚きだ! ノリスがキャリア最高アタックでポールポジション獲得。角田裕毅は15番手、アストンマーティン・ホンダはQ1敗退|F1スペインGP予選

F1スペインGP予選速報|角田裕毅悔しいQ2敗退15番手。ポールポジションは全力を絞り出したノリス! アントネッリ、フェルスタッペンが続く
F1
F1 F1
スペインGP
1 時間前
F1スペインGP予選速報|角田裕毅悔しいQ2敗退15番手。ポールポジションは全力を絞り出したノリス! アントネッリ、フェルスタッペンが続く

逆転タイトルへ邁進! マルク・マルケス、レース完全コントロールしてスプリント連勝|MotoGPサンマリノGP
MotoGP
MGP MotoGP
サンマリノGP
3 時間前
逆転タイトルへ邁進! マルク・マルケス、レース完全コントロールしてスプリント連勝|MotoGPサンマリノGP

「ついに勝てたよ」宮田莉朋がFIA F2初優勝! 初開催マドリンクで逃げ切りV。ランク首位のツォロフはリタイア……王者争い混沌|FIA F2マドリード戦スプリントレース
FIA F2
F2 FIA F2
マドリッド
3 時間前
「ついに勝てたよ」宮田莉朋がFIA F2初優勝! 初開催マドリンクで逃げ切りV。ランク首位のツォロフはリタイア……王者争い混沌|FIA F2マドリード戦スプリントレース
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。
次の 2 つのオプションがあります。
- サブスクライバーになります。
- 広告ブロッカーを無効にします。
購読中 すでに購読していますか? ここからサインインします
広告ブロッカーを無効にしましたか?
ページをリロード
お知らせの管理
登録