今季初実施のF1予選スプリントレース……チームやドライバーにとって何が”挑戦的”なのか?
今年のF1イギリスGPで初めて行なわれる予定の予選スプリントレース。その実施に向け、各チームのエンジニアは、すでに影響について懸念を抱いている。
写真:: Zak Mauger / Motorsport Images
この数年間、F1は土曜日に予選を行ない、日曜日に決勝レースを戦うため、フリー走行1回目〜3回目で準備を整えるというルーティーンに従ってきた。
この形が崩れたのは、天候が悪化した時。ただ昨年のエミリア・ロマーニャGPでは、輸送時間に関する問題があったため金曜日の走行セッションが組み込まれず、土曜日にフリー走行と予選を行ない、日曜日の決勝レースに挑むという形になった。
この週末のスケジュールは、予選スプリントレースが実施された時のヒントになる。この時はフリー走行では各車ともに1発アタックの準備に集中。レースペースのチェックは少しだけ行なわれるという形だった。
予選スプリントレースが実施される週末では、金曜日にフリー走行1回目を行ない、その後にこれまでと同様の形での予選が行なわれる。また土曜日には2回目のフリー走行が行なわれ、その後で予選スプリントレースが戦われる。つまりタイヤの制限の範囲内ではあるが、金曜のフリー走行では1発アタックに焦点を当て、土曜のフリー走行ではレースペースに集中する……そういう戦い方になるだろう。
各チームは、予選スプリントレースが実施された時に向け、その影響が実際にどうなるのか、それを理解することに懸命に取り組んでいる。
マクラーレンのテクニカル・ディレクターであるジェームス・キーは、次のように語っている。
「我々のチームのシミュレーション担当者は、これがどのように機能するのか、そのアイデアを考えてきたため、このレギュレーションを検証してきた」
そうキーは語る。
「週末の、これまでとは異なる形式に素早く適応する方法を考える以外、実際には何も変わらないよ」
「技術面で最も大きな違いになるのは、そのフォーマットと時間の面だと思う。だから、週末ではこれまでとは別の形を試してみる必要がある」
James Key, Technical Director, McLaren, on the pit wall
Photo by: Steven Tee / Motorsport Images
キー曰く、予選スプリントレースが実施されるグランプリは、新たなパーツを持ち込むのに適していないという。1回目のフリー走行はその日の午後に行なわれる通常の形式の予選に向けた準備に集中しなければならず、新パーツの比較をするための時間を確保するのは難しいというのだ。
「バルセロナで、新しい空力パーツを使って何をしたのかということを考えれば、スプリントレースの週末に同じことをするのは、非常に難しいことだ」
「だからその週末は、技術的な観点で言えば、これまでとは違ったやり方をこなすことになると思う」
「セットアップに関する準備の作業は、これまでよりもさらに増えるだろう。そしてスプリントレースが様々なシナリオにどう影響し、それにいかにうまく対処できるかということを解明するために、事前のシミュレーション作業がさらに増えることは間違いない」
ただ問題になる可能性があるのはモンツァだ。モンツァは超高速コースとして知られているため、各チームはダウンフォースを極限まで削った、特殊な空力セットアップを施してグランプリに挑む。つまり、2020年の結果からある程度の効果を推測できるものの、事前に試す時間が限られることになるのだ。
しかしキー曰く、それは重圧を感じるような原因になるとは思っていないようだ。
「チームは、モンツァのパッケージからどんなことを期待できるのか、十分に理解していると思う」
「いくつかの思いがけない展開があるかもしれない。ディフューザーが弱かったり、ローダウンフォースのウイングによって、悩まされるかもしれない。そして多くの場合、金曜日はその問題を見つけるのに役立つだろう」
「だから1回限りだったり、モンツァのような特殊なケースでは、非常に優れた準備のケースになると思う。ドライバー間で、明確なテストプログラムを行なうんだ」
「一方のドライバーがパッケージに関する仕事を行ない、もう一方のドライバーはタイヤに関する作業に集中する可能性もある」
シミュレーション作業は、週末を迎える前だけでなく、週末の間にも大きな役割を果たしている。ドライバーとエンジニアがサーキットで働いているだけでなく、時を同じくして各チームのファクトリーも稼働し、シミュレータドライバーが夜遅くまでシミュレータでドライブし、セッティングに関するチェックなどを行なって、サーキットにいるスタッフたちにフィードバックをもたらしている。
予選スプリントレースが行なわれる週末には、1アタックのパフォーマンスについて、シミュレータドライバーが仕事をこなせる時間は、FP1と予選の間のみと非常に限られている。しかし予選終了後からはレースペースに集中することができるため、シミュレータドライバーはここから日夜問わず働くことになる。
一方でサーキットでは、各チームはフリー走行が2回になることにより、完全に新しい週末のプランを策定する必要があるだろう。
「予選セッションもかなり早い段階で行なわれることになる。その準備には、本当に1時間しかないんだ」
キーはそう語る。
「ふたつやるべきことがある。それは日曜日のレースに向けて、燃料を多く積んだ状態でタイヤを機能させること、そしてもうひとつは燃料搭載量を減らした状態で新品タイヤを履き、マシンのフィーリングを確認することだ」
「つまり技術的な観点から言えば、準備、シミュレーション、そして時間を賢く使うことが重要だと思う。それは、我々全員が学ばなければならないモノだ。でも、しっかりと準備を整えてくるだろう」
Toto Wolff, Team Principal and CEO, Mercedes AMG, and colleagues on the pitwall
Photo by: Steve Etherington / Motorsport Images
ウイリアムズのビークルパフォーマンス責任者であるデイブ・ロブソンは、土曜日のFP2が、興味深いセッションになるだろうと考えている。ロブソン曰く、予選に向けた準備はしなくていいものの、燃料搭載量が比較的少ない予選スプリントレース用のセッティング、そして燃料を満タンにした決勝レース用のセッティングの両方に向けた準備を行なわなければならないからだ。
「何の準備をするのか、そしてそのためにどのタイヤを使うのかという観点で言えば、FP2がどうなるのか、まだ少し分からない部分もある」
そうロブソンは語る。
「それが、現時点で最大の難問だと思う。でも、金曜日のフォーマットは良さそうだ」
「土曜日の、予選スプリントレース自体は素晴らしいと思う。非常に面白そうだ。だからFP2のセッションが何を意味するのか、それを正確に理解する必要があると思う」
予選スプリントレースは100kmということになるため、シルバーストンは17周、モンツァなら18周ということになるはずだ。この周回数をソフトタイヤで走り切れるのか? あるいはミディアムタイヤを投入せざるを得ないのか? これも重要なポイントになる。
周回数はほとんど同じであるとはいえ、シルバーストンとモンツァは、特性が異なるため持ち込まれるタイヤも異なる。シルバーストンにはC1〜C3が、モンツァにはC2〜C4が用意される……つまりタイヤにかかる負荷という面では、シルバーストンの方が厳しいのだ。
「それは良い質問だ」
ピレリのマリオ・イゾラはそう語る。
「どんなアプローチが可能なのかを理解するために、いくつかのシミュレーションを行なう必要があるだろう」
「モンツァにはC2(ハード)、C3(ミディアム)、C4(ソフト)を持ち込む予定だ。しかしモンツァは、タイヤに厳しいサーキットではない。ダウンフォース量も少ない。だからモンツァとシルバーストンでの状況は異なると思う」
「シルバーストンでは、C3(同レースではソフトになる)を使って予選スプリントレースを戦おうとする場合、それはかなりアグレッシブな選択だと言える。短いスプリントレースでも、デグラデーションが起きるということを考慮しておかなければいけない」
「サーキットの厳しさという点では、モンツァとは大きく異なるだろう」
セーフティカーが出動することを期待して、シルバーストンでの予選スプリントレースでソフトを選ぶことは、ひとつの選択肢になるだろうか?
「チームにとっても、戦略担当エンジニアにとっても新しいものになるため、明確な答えはない」
そうイゾラは語る。
「先ほども申し上げたように、ソフトタイヤを選択するならば、デグラデーションがあることを考慮しなければいけないことを明らかだ。このデグラデーションにより、ミディアムタイヤを選んだドライバーたちは、レースの終盤でソフトタイヤ勢をオーバーテイクできる可能性が生じると思う。彼らは、レース終盤に大きなアドバンテージを持つだろう」
「100kmと言えばグランプリの1/3の距離だが、セーフティカーが出動する可能性もある。しかしセーフティカーが出なければ、タイヤの選択がアグレッシブすぎると、レース全体にダメージを受けることになる」
今年から新たに実施される予選スプリントレース。ドライバーにとってもチームにとっても、そしてファンにとっても、”新しいモノ”を目にすることになるだろう。まずはシルバーストンで行なわれるが、これだってただひとつのサンプルにすぎない。その1戦のみでは、その全体像が分からない可能性の方が高いと言えるだろう。
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