F1

コロナで母国へ帰れない……角田、中上、リカルドら、トップクラスの”レーサー”も悩んだホームシック

コロナ禍によって、故郷に帰ることができなかったレーシングドライバーは多くいる。それがレース活動に与えた影響は、決して小さくないはずだ。F1で活躍するダニエル・リカルド、角田裕毅、そしてMotoGPの中上貴晶らが母国から離れることについて語った。

Luke Smith

Luke Smith

編集: 2022/02/08 8:00

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Yuki Tsunoda, Takaaki Nakagami

 ここ数年、多くの人々がコロナ禍の影響で故郷に帰れない日々を過ごしたが、それは世界を転戦するF1ドライバーも同じであった。マクラーレンのダニエル・リカルドは以前、例え隔離措置によって2週間ホテルの天井を見つめることになってでも母国オーストラリアに帰りたいと語っていたが、まさにその隔離を含む長旅を終え、先日マクラーレンとの仕事を再開した。

 マクラーレンは早速、ウォーキングのファクトリーでマクラーレンMCL35Mの左前輪に立つリカルドの写真と共に「初日からオフィスでいたずらしている」をツイートした。リカルドはこれから、来たる2022年シーズンに向けて急ピッチで準備を進めることになる。

 もちろん、オフシーズンはドライバーが新しいシーズンに向けて爪を研ぐ重要な期間だが、ただそれと同時に、新型コロナの流行によるさまざまな渡航制限を長い間耐えてきたドライバーにとっては、故郷に帰って気持ちをリセットする貴重な機会でもあっただろう。

 F1に関わる者が直面するホームシックという課題は軽視されがちだ。ヨーロッパ以外で生まれ、地理的な困難を抱えながらも、ジュニアカテゴリーを駆け上がってプロとしての地位を確立したことはそれだけで賞賛に値する。ただ、彼らの故郷への思いがプロになったことで薄れるわけではない。

 リカルドは渡航制限の影響により、2020年6月以来、故郷の家族や友人には会っていなかった。だからこそ、隔離に2週間費やしてまでオーストラリアに帰りたいという思いに繋がったのだろう。彼は自分がホームシックになっていることを隠そうとはしなかった。

 ただ、そんなホームシックにより帰国したドライバーは、例年のように電話一本で飛行機に乗せて故郷から呼び戻すことができないのが現状。それがレース界にも大きな影響を与えた。

 リカルドはこう語る。

「それが走り自体に影響を与えるとまでは言えない」

「でも特にうまくいかない時は、家族からの愛や支えが欲しくなるものだから、間違いなく影響がある。うまくいかないと孤独を感じることもある」

Daniel Ricciardo, McLaren

Daniel Ricciardo, McLaren

Photo by: Zak Mauger / Motorsport Images

 昨年からマクラーレンに加入したリカルドは、シーズン序盤はなかなか軌道に乗ることができずにいた。これに関しても、家族や友達と過ごす時間があればもう少し早く復調できた可能性があると認めている。

「エネルギーや前向きなものを取り込むことが難しかったんだと思う」

「もちろんそれをいくらか取り込むことはできるけど、今まで以上に頑張らなければいけなかった。それ自体が負担になったと思う」

 故郷から遠く離れた地でのレース活動を強いられているのは、リカルドだけではない。レッドブルのセルジオ・ペレスは以前、10代で母国メキシコからヨーロッパに移住した際の苦悩を明かしており、今季からデビューするアルファロメオの周冠宇も、中国を離れてF1を目指すにあたって苦労があったという。

 これはもちろん、日本人ドライバーの角田裕毅(アルファタウリ)にも当てはまる。角田はホンダとレッドブルの期待を一身に背負い、2019年から渡欧。瞬く間にジュニアカテゴリーを駆け上がり、2021年にF1シートを手にした。しかしプレシーズンテストや開幕戦の好調とは裏腹に、その後は調子を落としてしまい、自信を失ってしまった。

 レッドブルはそんな角田を、レッドブルの拠点があるイギリスのミルトンキーンズから、アルファタウリの拠点があるイタリアのファエンツァに引っ越しさせた。角田は、引っ越し以前の自分が「怠け者」で、ゲームなどに明け暮れた結果レースへの準備に十分な時間を割けておらず、それがレースで後手に回る原因のひとつだったと分析している。

 これは角田にとって必要な気付きであった。彼はヨーロッパに来てまだ3年しか経っていないのだ。

Yuki Tsunoda, AlphaTauri

Yuki Tsunoda, AlphaTauri

Photo by: FIA Pool

 2019年にフランスに移住した当初の暮らしについて、角田は「僕にとっては初めての一人暮らしで、しかも外国。少し不安でした」と振り返る。

 また角田は、フランスでは毎食自炊をしていたという。

「レストランに行って、フランス語を話す勇気はありませんでした」

「だからスーパーで食材を買ってくるんです。毎日料理をしていました」

 奇妙なことのように思えるかもしれない。しかし一見些細とも見えるモノが、パフォーマンスに影響を与えることもある。最高のパフォーマンスを引き出すために集中しようとするなら、快適さを保ち、そしてできるだけ落ち着いた日々を過ごす必要があるのだ。

 角田は拠点をファエンツァに移したことで、快適な毎日を送っているようだ。

「僕はここが好きなんです」

 角田はそう語っていたこともあった。

「ここの天気が好きですし、食事もとても楽しんでいます。またレース後には毎回ファクトリーに行き、それぞれのセッションを見直したり、自分自身の改善に繋げることができます。そういうことは、間違いなく良いことです」

 その角田の気持ちに共感できるのは、LCRホンダのライダーとしてMotoGPに参戦中の中上貴晶であろう。中上はMoto2への参戦をスタートさせた2012年にイタリアに移住。その後はスペインに転居し、現在に至っている。

「最初は全てが新しく、全てが印象的でした」

 中上はイタリアに移り住んだ時のことについて、そう語った。

「僕はそこに住むしかなかったし、日本に戻るわけにはいきませんでした。だから、その環境に適応しようとしたんです。それから僕は、イタリアという国とその文化、そして美味しい料理について知っていきました。それは素晴らしい思い出です」

 イタリアに適応しようとした中上。しかし、重要なのは”白米”の存在だったという。

「僕は日本から、炊飯器を持っていきました」

 そう中上は言った。

「そして、日本のお米です。これはとても重要なんですよ! ヨーロッパで白米を買ったことはありません……いつか試してみたいと思っていますけどね。でも僕は日本食が大好きですし、日本人はいつも白米を食べます。それは良いエネルギーをもたらしてくれます。その日本スタイルは、続けています」

Takaaki Nakagami

Takaaki Nakagami

Photo by: Motorsport.com / Japan

 前出のリカルド同様、中上と角田も、新型コロナウイルスに感染拡大に伴う日本の水際対策により、帰国するのに苦労した。中上は夏休みも、例年のように日本に帰ることはできなかった。

「日本に帰るのは、簡単なことではありませんでした」

 そう中上は語った。

「でもとにかく、僕はヨーロッパの友達たちと過ごすのを楽しんでいます。それはまた別の状況ですが、とにかく常に、自分の人生を楽しむようにしています。それは今のところ、かなりうまく行っています」

 しかし中上も角田も、この冬には日本に帰ることができた。中上は神宮外苑で行なわれたレッドブル・レースデイに参加。角田も、ホンダで行なわれた会見に出席したりした。しかしプライベートな時間も満喫することができたようだ。

 新型コロナウイルスは、今度はオミクロン株が世界中で蔓延。規制が緩和されている国もあるものの、まだまだ以前のように世界中を飛び回るわけにはいかない。そんな難しい状況が、ドライバーやライダーのパフォーマンスにさらなる悪影響を及ぼさないことを願わずにはいられない。

 しかしたとえ世界トップクラスのレースに参戦する才能あふれた選手であっても、母国から遠く離れているという課題に直面しているということも、理解しておく必要があるだろう。

 

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