手強い、しぶとい。インパルの総合力の裏に、“参謀”星野一樹の存在あり「僕が全体を見渡せるように」
昨年スーパーフォーミュラでチームタイトルを獲得し、今季もダブルタイトルを目指すTEAM IMPUL。安定して強さを見せるチームの総合力の秘訣を探った。
写真:: Masahide Kamio
昨年のスーパーフォーミュラでは未勝利に終わったものの、関口雄飛と平川亮がコンスタントに上位フィニッシュを記録してチームタイトルを獲得したcarenex TEAM IMPUL。今季はここまで5戦を終えて、関口は少々苦戦気味となっているが、平川は2勝を挙げて野尻智紀(TEAM MUGEN)とのタイトル争いに絡んでいる。チームランキングもトップだ。
手強い、そしてしぶとい。近年のTEAM IMPULを表す言葉として、これ以上のものはないように思える。21世紀に入って以降、国内トップフォーミュラでチームランキングが5位を下回ったことが一度もないという事実にも驚かされるが、今季の決勝レースで見せている力強さも印象的だ。
今季ここまでの5戦で4度ポールポジションを獲得しているポイントリーダーの野尻とは対照的に、ランキング2番手の平川は1度もポールを獲っていない。むしろほとんどのレースで中団グリッドに沈んでおり、平均予選順位は9.4番手なのだ。にも関わらず、決勝では平均5.8ポジションアップを果たし、優勝2回、2位1回、7位2回を記録。シリーズポイントは野尻81、平川64と17点の差がついているが、予選ボーナスポイントを除いて決勝で獲得したポイントに限定すると野尻69、平川63であり、いかに平川が決勝で強さを見せているかが分かる。
これにはもちろん、平川のレース巧者ぶりが大きく寄与していることは間違いないが、それを支える“サポーティングキャスト”の働きも大きいだろう。その筆頭とも言えるのが、ピットウォールに陣取る星野一樹だ。
「正式な肩書きはないのですが、周りからは『テクニカルアドバイザー』などと言っていただいています」と語る星野。実際にレースではどんなことをしているのか?
Kazuki Hoshino, carenex TEAM IMPUL
Photo by: Masahide Kamio
「ドライバーの観点で見れるということで、エンジニアとの間に入ってできることをしています」
「僕もレースを走っていた身なので、作戦面で『ドライバーならこういう情報が欲しい』というのが分かります。例えばアンダーカット(ライバルより早くピットインして逆転すること)やオーバーカット(ライバルより遅くピットインして逆転すること)を狙うにしても、自分たちの前後以外にも戦っているドライバーはいます。ただエンジニアも自分の担当するクルマの近くを見るので精一杯だったりするので、僕が全体を見渡せるように手伝っています」
星野を“橋渡し役”としたインパル陣営の連携がうまくハマったレースのひとつが、平川が8番グリッドからスタートし優勝した第4戦オートポリスだ。
このレースで平川は、序盤の混乱を切り抜けて野尻、牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に次ぐ3番手に浮上。程なくして牧野を抜いて2番手に上がった。そして10周終了時には、その牧野が上位陣でいち早くピットインすると、野尻はアンダーカットされることを警戒してか、その5周後にピットに入った。
首位に立った平川は、野尻や牧野をカバーして早めにピットインすることを選ばず、レース折り返しの20周目までピットインを遅らせた。結果的にはその戦略は成功し、平川のオーバーカットを狙っていた“見えないライバル”からの追撃も交わして優勝を手にすることになる。
星野はこのレースを次のように振り返る。
Ryo Hirakawa, carenex TEAM IMPUL
Photo by: Masahide Kamio
「野尻選手が牧野選手のアンダーカットをカバーにして早めに入った中で、平川は引っ張りました」
「平川自身は自分のタイヤが垂れているので、先に入られた野尻選手にペースで上回られていると思っている訳です。ただその条件でもウチの方が速かったので、全然オーバーカットできるよと伝えました」
「なんなら、三宅(淳詞/TEAM GOH)選手とサッシャ(フェネストラズ/KONDO RACING)選手がピットインを引っ張って平川をオーバーカットすることを狙っていたので、そちらのケアをする必要がありました」
「タイヤのライフのオフセットという部分はすごく重要で、(お互いにタイヤ交換を終えた状態で)10周のライフの差を作られちゃうと、特にオートポリスのようなデグラデーション(性能劣化)の大きいコースでは命取りになります。だからなるべく引っ張ってあげたかったんです」
「そのためには、野尻選手とウチにどのくらいラップタイムの差があって、ウチが入らないといけないのか、逆にその後ろを見ないといけないのか……そういうことを考えないといけません。エンジニアも自分のクルマで精一杯なので、僕が見渡せるように。偉そうなことを言っている僕だってもちろん見落とすこともありますが、今はそういうところを頑張っています」
まさに“参謀”としてチームを支える星野だが、彼は自身の父でありインパルの創設者でもある星野一義監督と、その監督を長年支えてきた高橋紳一郎工場長が作り出すチームの緊張感も、強さの秘訣だと語る。
「チーム全員が、全てに対して妥協をしないです。重箱の隅をつつくとはよく言いますが、本当に重箱の隅のゴミひとつまで取るような高い意識でやっているので、結果に表れるんだと思います」
「よくインパルは緊張感があるとか、ピットに近寄りがたいと言われます。もちろん和気あいあいとしているのが一番楽しいですが、勝つためにはある程度緊張感も必要です。それは星野一義監督が現役の時からそういう意識をチームに植え付けているからこそだと思いますし、工場長の高橋さんから来ている部分もあると思います」
2018年末の合同・ルーキーテストでの一コマ。チームを長年支える高橋工場長(左)には、星野一義監督も全幅の信頼を置いているという。
Photo by: Masahide Kamio
「高橋工場長は、『そんなところまで』という部分まで気を遣って、クルマを速くしようとしてくれています。直接パフォーマンスに関わる部分以外でも、クルマの掃除ひとつとっても徹底して若手に教え込んでいるからこそ、ひとりひとりの意識も高いと思いますし、サーキットに入ってからのピリピリ感もすごいんです」
「ドライバーの高い意識にチームが引っ張られることもあれば、チームがドライバーを引っ張ることもある。まさに相乗効果ですね」
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