ホンダ有望若手を預かる“先生兼お父さん”。スーパーGTの大ベテラン高木真一が言動で示すプロドライバーの心得
近年はホンダの有望若手ドライバーとコンビを組んでスーパーGTを戦っている高木真一。GT300で随一の実績を誇るベテランは、“プロ1年生”の若手に何を伝えているのか?
#55 ARTA NSX GT3(高木真一/福住仁嶺)
Masahide Kamio
2021年シーズン、スーパーGT(GT500)とスーパーフォーミュラという日本の2大トップカテゴリーにホンダ陣営から参戦している福住仁嶺と大湯都史樹。ふたりはスーパーフォーミュラにおいて目まぐるしい成長を見せ、日本を代表するトップドライバーに名を連ねた。そんなふたりには共通点がある。スーパーGTでの1年目をGT300クラスのARTAで過ごし、高木真一とコンビを組んだという点だ。
高木と言えば、GT300で20年以上のキャリアを誇り、積み上げた勝利数は21。チャンピオンも2度獲得した経験を持つ大ベテランだ。ARTAが参戦車両をホンダNSX GT3にスイッチした2019年以降、高木はホンダの有望若手である福住、大湯をチームメイトとして戦い、彼らを1年でGT500へと送り出した。
今季もホンダ育成ドライバーである佐藤蓮とコンビを組む高木。若い彼らにはどんなアドバイスをしているのか?
「フォーミュラからGTに来たドライバーが速く走れるのは間違いありませんが、スーパーGTはGT500とGT300という異なるマシンが混走する特殊なレースなので、一歩引いて状況を見極める力が重要になってきます」
「若いドライバーはこれまで『とにかく前に行くんだ』というレースをしてきたと思いますが、GTでは一歩引いてクルマの状況やポテンシャルを見ることが大事です。様々なメーカーが参戦していて、タイヤ開発もある中で、自分のクルマが速くないのに速いクルマを抜こうとしたら必ずぶつかっちゃう。色んなシチュエーションがあるので見極めが必要だと思います」
実際、高木と共に2019年のGT300タイトルを獲得した福住は、高木が言及した“一歩引いての見極め”をはじめ、多くのことを吸収したという。
「クルマのセットアップの持っていき方とか、レースをしながらどうやって戦略を立てていくかなどは、とても勉強になりました」と福住は語る。
「高木さんのような方と組むことで、僕は冷静さを失わずにレースができ、そのおかげもあってチャンピオンを獲らせていただきました。長年努力を続けながら、レースをしているのはすごいなと思います」
#55 ARTA NSX GT3
Photo by: Masahide Kamio
そんな福住が、高木のアドバイスを吸収し、成長していく様を間近で見ていたのが、当時ARTA55号車のチーフエンジニアを担当し、現在はTEAM UPGARAGEで手腕を振るう一瀬俊浩エンジニア。彼は当時のことを振り返り、次のように語った。
「高木さんは福住選手に『クルマが現状抱える一番の問題は何か』について説いたり、コメントの仕方についてのアドバイスをしてあげていました」
「そのおかげで、福住選手も日に日にコメントがうまくなっていきました。シーズンの最初の方は高木さんにセットアップをやってもらっていましたが、もてぎでの最終戦では福住選手にもセットアップをやってもらいました」
「高木さんがあの年齢で現役を続けている理由は、単に速いだけではなく、後輩も育成できる点、クルマのことをよく理解している点にあると思います」
高木とは20年来の付き合いであるARTAの鈴木亜久里監督も、高木を「面倒見が良く、先生タイプのドライバー」と評する。鈴木監督曰く、高木は若手ドライバーに率先して走行機会を与え、新品タイヤを履いての走行も若手ドライバーに譲ることが多いという。
また、高木が教えを説くのはドライビングだけではない。私生活やスポンサー対応などの面でも、気になる部分があれば指導は厭わない。
スーパーGTは今や多くの企業がスポンサーとして参画しており、その市場は大きくなっている。福住や大湯、そして今季の佐藤にとって、スーパーGTでのルーキーイヤーは、いわば“社会人1年生”だ。
そんなルーキーたちに高木は、プロのレーシングドライバーには速く走ること以外にも必要なことがあると伝えているという。
Shinichi Takagi, #55 ARTA NSX GT3
Photo by: Masahide Kamio
「フォーミュラで結果を残したホンダの有力選手が来ている訳なので、スピードはありますし、ある程度は完成されています。ただ、これからはホンダだけじゃなく、クルマにステッカーを貼っているたくさんのスポンサーさんがいる。特に今のGTはフォーミュラの選手権よりもスポンサーが多くなっているように感じます」
「皆ヨーロッパでのレースを経験しているとはいえ、まだ二十歳前後の子供です。だから、誰がお金を出しているのか、などといったスポンサー関係のことはあまり真剣に考えたことはなかったと思います」
「何が当たり前なのかも分からないと思うので、スポンサーへの対応など、ダメなところはダメとハッキリ言うようにしています」
そんな高木を「尊敬している」と語るのが、昨年コンビを組んだ大湯だ。大湯はスーパーGTでのデビューシーズンを通して、高木が関係者の誰からも愛される理由を肌で感じたようだ。
「チームへの溶け込み方や接し方だとか、人として『この人すごいな』と思います」
「どうすればチームから求められるドライバーになるのかなど、ドライバーとして一人前になるために必要なことを高木さんの姿を見て学びました。高木さんはみんなから好かれていて、信頼されています」
「ファン対応にも驚かされました。オートサロンの時も、ファンひとりひとりに丁寧に対応していました。応援してくれている人、関係している人全てを大事にしているというのを感じました」
大湯都史樹、高木真一(#55 ARTA NSX GT3)
Photo by: Tomohiro Yoshita
これからの日本のレース界を担う若手の成長を見守る高木。彼らにとって自分はどんな存在でありたいかを改めて高木に聞いた。
「お父さんみたいな存在、ですかね。年齢差もありますし」
「彼らが速いこと自体は分かっているので、あとはしつけじゃないですけど、そういう面もマネージャーなどと協力しながらやっていかないといけません。良い環境を作って、彼らの100%の力を引き出せるような仕組みを作ってあげればいいのかなと思っています。目一杯サポートして、どんどんトップカテゴリーに押し上げていきたいです」
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