F1メカ解説|メルセデスを追え! フェラーリ”差を縮める”ための開発を加速
今季ここまで未勝利ではあるものの、フェラーリはメルセデスとの差を縮めるべく、様々な開発を続けている。
写真:: Glenn Dunbar / Motorsport Images
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
Analysis provided by Giorgio Piola
今シーズンはメルセデス勢が圧倒的な強さを見せ、開幕から実に8戦連続勝利。オーストリアGPではオーバーヒートに悩まされ、ついに連勝記録がストップしたが、その問題を解決してくるのは必至と思われる。
一方でフェラーリは今季ここまで、未勝利のまま。バーレーンやカナダ、そして今回のオーストリアではメルセデスに近いパフォーマンスを見せたものの、様々な要因によって勝利を逃してきた。
今季はマシンのレギュレーションが一部変更されており、例えばフロントウイングは幅が広くなった一方で、よりシンプルな形状になった。またブレーキダクトには、昨年まではウイングやフィンが多数取り付けられていたものが、大幅に規制……よりシンプルな形状になった。
フェラーリはその影響もあってが、マシンの基本的なパフォーマンスはメルセデスに劣っている。しかしチームは、その弱点を解決すべく、シーズン中も様々な開発を行っている。
今回ここでは、ブレーキのアッセンブリーの開発、そしてオーストリアで効果を発揮した空力の改善を振り返ってみよう。
■ブレーキアッセンブリーの改善
今季のフェラーリは、ブレーキに多数の変更を施している。これにより、フィーリングを改善し、ブレーキ自体の冷却性能を向上させ、そして重量を減らそうとしている。
重量を減らすという考え方は、フェラーリにとっては比較的新しいものだ。メルセデスやレッドブルは、従来からブレーキの軽量化を目指してきた。しかしフェラーリは堅牢な構造を好み、減速力に対処することを追求してきた。
しかしフェラーリは、高いレベルの剛性に達したと判断。その後はバネ下重量を減らすことでマシンの挙動を改善し、特に旋回時の反応性を高めるために、ブレーキシステムの軽量化に取り組むようになった。
■カナダGP仕様
ストップ&ゴーのレイアウトであり、ブレーキには最も厳しいコースのひとつでもあるカナダGPでは、ブレーキディスクの外周部に、7列の冷却用の開口部を設けてきた。この開口部は合計で1400以上である。
この冷却は、ディスク外側に取り付けられた筒状のパーツ、そしてディスク近くの下方に設けられた長方形の開口部と協調して機能しているようだ。
■フランスGP仕様
フランスGPの舞台であるポール・リカールは、急減速を必要とするコーナーは3つしかなく、そのうちひとつだけが非常に激しいブレーキングが求められる。そのため冷却性能はそれほど重要ではなく、限界まで軽量化が図られた。
またシステム全体を効率的に冷却するよう、キャリパーに気流を送るためのダクトも再配置された。
またハブの基礎部分には、凹凸が設けられ、その両方に円形の穴が設けられている。
ブレーキディスクには6列の開口部が空いたモノを採用。その外周部は、中心が深くえぐられた”スカラップ状”と言われる形状になっている。これは、メルセデスが長年採用してきたものである。
■オーストリアGP仕様
オーストリアGPで使われたディスクは、外周部の冷却用の穴は、フランス同様6列である。ただスカラップ形状の深さはフランス仕様と比べると約半分になっており、チームは妥協点を模索しているようだ。
興味深いことに、ハブはカナダGPと同じ仕様になっているようだ。これは高い剛性を実現すること、そして海抜700mと標高が比較的高いレッドブル・リンクで、ブレーキを効率的に冷やすことの両面を考慮したものであると考えられる。
■空力改善を求めた開発
フェラーリは空力パッケージの効率向上に対する答えを探し続けている。そしてオーストリアGPでは、新しいターニングベインのレイアウトを採用してきた。
フェラーリは今シーズン、ノーズ下に保守的なデザインを採用している。これは、メルセデスらが使うケープと呼ばれる地面と水平方向に設けられた板を備える現在のトレンドには反する格好だ。
しかしこの開発をフェラーリは追求。当初ノーズ下にマウントされていたターニングベインは、コクピット下に設けられる方がメインとなってきた。
近年のフェラーリは、ノーズ下とモノコック下の両方にターニングベインを設け、そのふたつを協調させる形で空力性能の向上を狙ってきた。オーストリアGPではノーズに取り付けられたメインのターニングベインの形状とサイズが変更され、モノコック側のターニングベインとの協調を向上。より効果的にダウンフォースを発揮することが目指された。
オーストリアGP
その一方で、オーストリアGPではモノコック側に取り付けられたターニングベインも改良。ノーズが取り付けられると、両者のターニングベインが協調しやすくなるよう、モノコック側のターニングベインの下端が前方に大きく伸びている。
旧仕様
フェラーリはオーストリアに旧仕様のターニングベインも持ち込んだが、こちらは下端が前方に向けて伸びていない。
この写真でよく分かるように、フロントウイングステーのスリット下に、前後方向に長いストレーキが取り付けられている。このストレーキにより、ピラーとその開口部の周辺を流れる気流を制御しているはずだ。これによって、この周辺の空力的欠陥を解決することを狙っているはずだ。
フランスGPで投入されたリヤウイングの変更は、オーストリアGPでもそのまま残された。これは注目に値する。
デザイナーは、下部に付けられたストレーキを完全に取り除くことを選択。またいずれのストレーキも僅かに短くなり、後部の切り欠きにも変更が加えられ、以前よりも若干高くなった。これにより、ディフューザーとリヤウイングの空力的な相互作用を変更することになった。
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