マクラーレンからの放出が噂されるリカルド。彼が2年間苦労している理由
ダニエル・リカルドは、今シーズン苦戦を強いられており、契約期間を前倒しして今季限りでマクラーレンを放出される可能性が取り沙汰されている。ではなぜリカルドは苦戦してしまうことになったのだろうか?
写真:: Steven Tee / Motorsport Images
マクラーレンのダニエル・リカルドは2022年シーズン前半、非常に厳しい戦いを強いられ、チームメイトのランド・ノリスに大きな差をつけられてしまっている。そのため、今シーズン限りでチームを追われる可能性が高いのではないかという噂も根強い。なお後任には、アルピーヌのレギュラーシートを”蹴った”形となった、オスカー・ピアストリの加入が確実視されている。
レッドブル時代にはセバスチャン・ベッテルを苦しめ、さらに昨シーズンはマクラーレンに9年ぶりの勝利をもたらしたリカルドが、なぜこれほどまでに苦労することになったのだろうか?
リカルドはルノー在籍時の2020年、まだシーズンが開幕する前の5月に、翌シーズンからのマクラーレン加入を電撃的に決めた。そして2021年、マクラーレンに加入した当初は苦労したものの、徐々にマシンの特性に慣れ、イタリアGPではついに勝利を手にした。このイタリアGPでの勝利は、マクラーレンにとっては2012年ブラジルGP以来となる1勝だった。
ただリカルドの苦労は、2022年になるとさらに深まった。2021年には苦労していたように見えたものの、13戦を終えた段階で9回の入賞を果たし、56ポイントを手にしていた。一方で今季は、5回の入賞&19ポイント獲得にとどまっている。ノリスが76ポイントを獲得しているのとは、雲泥の差だ。
ではなぜリカルドは、この2年間マクラーレンのF1マシンに苦戦することになったのだろうか?
ここでひとつ重要なのは、2022年からはF1のテクニカルレギュレーションが一新され、マシンのコンセプトが大きく変わったものの、マクラーレンのマシンの特性まで変わったわけではないということだ。
今季のマシンMCL36は、昨年型のMCL35Mと同じように、高速コーナーでのパフォーマンスには優れているものの、中速域では苦労しているということだ。
昨年末の段階で、マクラーレンのテクニカルディレクターであるジェームス・キーは、弱点を解消し、白紙の段階からそれを説明できるようにしたいとの願望を語っていた。しかしマシンの弱点はしっかりと受け継がれているようで、リカルドは引き続き苦戦することになった。
リカルドは夏休み前に行なわれたインタビューで、「レーギュレーションによってマシンのフィーリングは変わっているが、マシンのDNAは今季もとても似ている」とmotorsport.comに対して語っていた。
「昨年苦労したことのいくつかは、まだこのクルマにも残っている。それが何かを、よく理解し始めていると思う。僕はそれを説明しようとしていた。それがエアロなのか、ジオメトリの問題なのかを本当に理解するために……僕が言っていることが分かるかな? 僕らはそれが何かを理解し始めている。ランドも、それについては文句を言っているんだ。彼はただ、それに慣れているだけだと思う」
Daniel Ricciardo, McLaren MCL36
Photo by: Steven Tee / Motorsport Images
ノリスも、今季のマクラーレンは、これまでのマシンと同じような癖を持っていると認める。
「今の僕のマシンは、自分のドライビングスタイルに完全に適合したマシンではない。僕には合っていないんだ」
ハンガリーGPの週末に、ノリスはそう語っている。
「でもそれは悪いことじゃない。それはそれだし、僕はそのマシンに適応しなければいけないんだ」
「今年の僕は、自分が望んでいるモノでも、好きなモノでもないマシンに適応するという、妥当な仕事をしたと感じている」
これが、今年のノリスとリカルドの違いを示している。ノリスはMCL36の特性を把握し、乗りこなすことができたが、リカルドは昨年と同じように苦労した。リカルドはマシンを信頼することができれば、アグレッシブに攻めることができるドライバーである。しかしこの2年のマクラーレンは、彼にそのチャンスを与えることはなかった。
リカルド曰く、今季のマシンには新たな問題が発生したため、さらに苦労することになったと語る。
「苦労や困難と呼べるもののいくつかは、昨年からの持ち越しだ。そして、新しいモノもいくつかあるかもしれない」
「それは感覚に関することだ。まだまだ読みにくく、レースで一貫性を構築するのに苦労している。僕のラップタイムの変動は、かなり大きいかもしれないけど、本来ならばそれは僕の特徴じゃない」
「不意をつかれるとか、そういうことなんだ。『あのコーナーで、クルマがあんな動きをするとは思わなかった』とか、そういう簡単な言葉で表現することになる。動きはまだ、少し読みにくいんだ」
「『なんてロックアップしたんだ? 僕はそうなるようなドライビングは何もしていないのに……なんでそんなことが起きたんだろう』というようなことがあると、僕はフラストレーションが高まっていくんだ」
ただこういう状況で自信が失われることはないと、リカルドは言う。
「ある日には、(ノリスから)0.8秒遅れている時もある。そんなことが起きるなんて、信じられないよね?」
「グリッドを見渡して、それがグリッドでの最高のドライバーであっても、セカンドドライバーよりも0.8秒も速いわけじゃない。だから、これはものすごく大きなギャップだ」
「僕はまだ、マシンの面で学ぼうとしているところがたくさんある。それを理解するのは簡単じゃない。でも僕は、少しずつ近づいてきていると思う」
Daniel Ricciardo, McLaren MCL36, Esteban Ocon, Alpine A522
Photo by: Alastair Staley / Motorsport Images
リカルドは、色々なことがうまくいくはずだと、常に自信を持っている。昨年のような勝利を再現するのは難しいかもしれないが、現状から抜け出すのは決して遠いことではないと彼は考えている。
「僕らは明らかに、多くのことを試した」
そうリカルドは語った。
「今年はさらに理解できたと思うし、その理解の一部には、昨年の経験が引き継がれている。僕はこれまでに大成功を収めたわけじゃないし、すぐに勝利を手にできるとは言わない。でも、そういう時がいつか来るように感じている」
「そのことは確かに、僕のモチベーションを維持してくれる。チームの、僕の周りの人たちがやっていることを見ても、モチベーションが高まる。彼らもそれを信じている。彼らは、僕が聞きたいことを話しているだけじゃないんだ」
ただリカルドには、そのブレイクスルーを待つまでの時間は残されていないかもしれない。前述の通りマクラーレンは、ピアストリを獲得することを決めたようだからだ。チームとしては、勝利経験者であるリカルドを手放しても、ピアストリのような若い才能を確保することの方がメリットがあると考えたのだろう。
リカルドはこれまで、F1で8回の勝利を手にしている。しかもその全てが、グリッド上で最速ではないマシンを操って手にしたもの……つまりリカルドには、マシンが本来持っている以上のパフォーマンスを引き出す能力があると示していると言えよう。ただそれでも、ドライバーとマシンの組み合わせがうまくまとまらないこともある。そういう事態に追い込まれたのは、何もリカルドだけではない。
リカルドが次にどこに移籍したとしても、彼にとっての目標は自身の魅力を再確認し、その評判を再構築することだ。彼が乗りこなすことができるマシンを手にすることができれば、その時は意外にも早く訪れるかもしれない。
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