危険と隣り合わせなMotoGP、ライダー達の給与は案外安い? パンデミック影響でメーカーの姿勢に変化も
世界最高峰のモーターサイクルレースであるMotoGP。危険と身を隣り合わせにするライダー達だが、彼らの給料事情を改めて分析してみよう。
写真:: Dorna
MotoGP……モーターサイクルレースにおける世界最高峰とされるこのクラスは、僅か24名という一握りのライダー達が最速の座を求めて競い合っている。
多数のメーカーが参画し、大企業によるスポンサードを受けるこの世界は一見して綺羅びやかな印象を受ける。しかし新型コロナウイルスのパンデミックの影響もあり、彼らが危険と隣合わせの仕事で受け取る”給料”は、下落しつつある。
今回、MotoGPクラスのライダー達の給与事情が調査から見えてきた。
■下落傾向にあるMotoGPライダーのサラリー
まず端的にMotoGPライダー達の給与事情の大きな変化として、2018年から2022年にかけて、大幅な下落が見られる。motorsport.comがマネージャーやライダー、その他関係者に取材を重ねたところ、2018年にはグリッド上の給与総計が5800万ユーロ(約74億5千万円)であったものが、2022年には4700万ユーロ(約60億3千万円)まで20%も減少していることが分かった。
1000万ユーロ以上と大幅な下落を示している背景には、2020年から始まった新型コロナウイルスのパンデミックが影響している。メーカーは操業を停止し、バイクの売上は激減。世界選手権自体の開幕も2020年夏にずれ込み、総レース数も削減され露出が少なくなり、プロモーターやチームはギリギリの状態まで追い込まれた。
一方で、ダニ・ペドロサ、ホルヘ・ロレンソ、そしてバレンティーノ・ロッシ……高給取りの”エイリアン”達がMotoGPを去ったことも無関係ではない。
2022年に予想される給与総額は平均すればひとりあたり200万ユーロ(約2億6千万円)の給与に相当する額だ。これはMotoGPという危険に隣り合わせスポーツに対しては“リーズナブル“と見ることもできるだろう。
しかし多くのスポーツがそうであるように、実際にはライダー間でも大きな格差があり、実質的には無給でレースをしているようなライダーもいる。例えば2018年にホルヘ・ロレンソはドゥカティから1600万ユーロ(約20億円)を、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ)は1000万ユーロ(約12億円)、バレンティーノ・ロッシは600万ユーロ(約7億7千万)、ダニ・ペドロサは400万ユーロ(約5億円)を受け取っていた。
■2022年シーズンに挑むライダーたちの給与事情
Current riders are being paid less than in the pre-pandemic times of 2018, with a 19.45% drop overall
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
2022年、グリッド上で最も高給取りとなるのは6度のMotoGP王者であるマルケスで、1500万ユーロ(約19億円)という巨額を受け取ることになる。
次点は2020年に初王者となったスズキのジョアン・ミル。彼は650万ユーロ(約8億円)を受け取り、2021年王者のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)は400万ユーロ(約5億円)だ。”400万クラブ”にはスズキのアレックス・リンスも加わっている。
そして中間層に100~200万ユーロのライダーが9人おり、残る11人は数十万ユーロレベルとなる。HRCはマルケス以外の契約ライダー3名で合わせて約300万ユーロ、アプリリアは総額400万ユーロ(約5億円)、KTMは4人で360万ユーロ(約4億6千万円)だ。
この点でヤマハはコストを減少させることになったはずだ。チームを離脱したマーベリック・ビニャーレスは800万ユーロ(約10億円)の契約だったが、後任のフランコ・モルビデリは150万ユーロ(約1億9千万円)以下と目されているためだ。
高給取りとそれ以外がはっきりと分かれている現在のライダーズマーケットだが、中でもドゥカティは新型コロナウイルスのパンデミックを機に、資金の使い道に関して大きく舵を切った。
ドゥカティは2018年、ホルヘ・ロレンソとアンドレア・ドヴィツィオーゾに合わせて1700万ユーロ(約21億8千万円)を支払い、さらにドヴィツィオーゾには賞与として300万ユーロ(約3億8千万円)を払っており、グリッド上の総額の1/3以上におよぶ巨額予算となっていた。
しかしそれ以降、彼らのライダーに対する支払いは大きく減少に転じる。ロレンソは契約を延長せず、さらにドヴィツィオーゾも2021年に、450万ユーロ減額となる基本給250万ユーロ(約3億円)のオファーを受けなかったのだ。
そして2021年、ドゥカティはライダーに対する給与を300万ユーロ以下に抑えている。これにはファクトリーチームのフランチェスコ・バニャイヤとジャック・ミラー、そしてプラマックの2名、アビンティアのエネア・バスティアニーニが含まれている。2022年には若干増額され、380万ユーロとなる見込みだが、それでもかつての大予算とは比較するまでもない。
■マシン開発にシフトするメーカーの投資
Marquez remains the best-paid rider in MotoGP
Photo by: Gold and Goose / Motorsport Images
前述のようにドゥカティはライダー予算が減少したが、彼らはライダーよりも、投資をバイクに集中させ、デスモセディチGPをライダーにとって最も魅力的なバイクにすることを選択した。
その効果はすでにリザルトにも現れていると見ていいだろう。ドゥカティは2021年にコンストラクターズタイトルを獲得。バニャイヤが4勝、ミラーが2勝、ホルヘ・マルティンが1勝で計7勝をマーク。最終戦バレンシアGPでは初となる表彰台独占も果たしている。
マシンへの投資戦略により、ドゥカティはお金よりも結果を求めている有望な若く才能あるライダーを揃えることにも繋がった。今やドゥカティのマシンは”乗りたい”と若手に思わせるモノとなっており、2022年にはグレシーニもドゥカティのマシンを使用し、全8台がドゥカティ勢という状況に至った。
パンデミックは、世界全体や多数のスポーツと同じくMotoGPの世界にも打撃を与えていることは間違いない。レースビジネスの運用モデルや組織に直接影響を与え、ライダーのメンタリティにも影響を与えている。彼らは勝利が結果的に給与に繋がることを認識しつつも、今ではレースに勝つことにより集中するようになったのだ。
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