【F1分析】開幕2戦で露呈した“移籍組”の低調ぶり。なぜ彼らはここまで苦しんでいるのか?
2021年のF1は開幕2レースが終了したが、特にチームを移籍したドライバーたちの苦戦が目立っている。今、彼らに何が起こっているのだろうか?
Sergio Perez, Red Bull Racing RB16B, battles with Sebastian Vettel, Aston Martin AMR21
Charles Coates / Motorsport Images
2021年シーズンのF1はここまで2レースが終了したが、その中で露呈した事実のひとつに、今季新たなチームで開幕を迎えた“移籍組”のドライバーが軒並み適応に苦しんでいる、ということがある。
ここで言う“移籍組”のドライバーはセルジオ・ペレス(レッドブル)、フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)、セバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)、カルロス・サインツJr.(フェラーリ)、ダニエル・リカルド(マクラーレン)の5名。アロンソに関しては2018年にマクラーレンをドライブした後2シーズンのブランクがあるが、現在所属するチームで昨年のF1を走っていないという点では、他の4人と同じだ。
2021年シーズンが移籍組にとって厳しいものとなっている理由には様々な要因が考えられるが、テストプログラムの縮小も間違いなくそのひとつだろう。昨年は6日間行なわれていたプレシーズンテストも、今季はコスト削減策の一環として3日間に半減。ひとりのドライバーが走行できる時間はわずか1日半となってしまった。その他にドライバーが開幕前に新車をドライブできたのはプロモーションイベントを活用した撮影用の短いシェイクダウン走行のみであり、移籍組が新しい環境に適応する時間はかなり限られていたと言える。そんな中で、ベッテルのようにテスト中に技術的なトラブルが起きてしまうと、状況はさらに悲惨になる。
そして今季から、金曜フリー走行の時間も変更され、FP1とFP2が従来の90分から60分に減らされた。これにより、昨年まではFP3含めて4時間走行できたところが、3時間しか走行できなくなってしまった。レースウィークエンドのスケジュールが短くなったことで、各チームはマシンをいかに素早く仕上げるかに重点を置かざるを得なくなった。移籍組が新しいものを試すことなどに時間を使ってしまうと、ライバルに追い付くのは難しい。
彼らの苦戦ぶりがより顕著に表れたのが、イモラ・サーキットで行なわれた第2戦エミリア・ロマーニャGPだった。ここではトラックリミットが厳格に取り締まられたり、今季初のウエットコンディションとなったりと様々な要因があったが、結果的に上記の5人は誰もチームメイトの前でフィニッシュすることができなかったのだ。
彼らはこのレースウィークを通じて「マシンの限界を見つけなければいけない」「マシンに自信を持たなければいけない」などと揃って似たようなコメントを残していた。これも興味深い事実だ。ここでは5人の移籍組それぞれのエミリア・ロマーニャGPを振り返ってみよう。まずはペレスから。
ペレスは予選こそ素晴らしいパフォーマンスを発揮していた。僚友のマックス・フェルスタッペンを上回り、見事2番グリッドを獲得してみせたのだ。
しかし決勝ではスタートに失敗して順位を落とすと、セーフティカー先導中にコースオフし、その後も表彰台を狙える位置を走行しながらスピンを喫するなど精彩を欠き、結果は11位ノーポイントとなった。彼はまだ“当たり前の仕事”ができておらず、レッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコも、ペレスの11位という結果は「腹立たしい事この上ない」とオーストリアのテレビ局に語っている。
ペレスはレースを振り返って次のように話した。
「正直他の人たちがどうだったか見ることができていないけど、チームを移籍してから2戦目で、このようなコンディションを走るのは大変なんだ」
「かなり厳しいことだ。昨日(予選)は良いラップを刻んだけど、僕はそのレベルにはまだないと思うし、今日の僕がどれほど後れを取ったか、そしてどれほど複雑で難しいことが起こっていたかを見たと思う」
「僕は学んでいるところだと思う。良いステップを踏んでいるし、今日のことから更に学んでいければ良いね」
ペレスはまた、移籍直後にイモラでレースをすることは簡単ではないと認めた。
「正直、新しいマシンでやってくるには最悪の場所のひとつだ。予選でもレースでも、少しのミスが大きなロスに繋がるからね」
「レース中にも、自分だけじゃなくて多くの人がミスをするのを目の当たりにした。少し難しかった。でも言い訳はしたくないので、もっと頑張るだけだ」
Sergio Perez, Red Bull Racing,
Photo by: Glenn Dunbar / Motorsport Images
かつて2度F1ワールドチャンピオンに輝いたアロンソも、チームメイトのエステバン・オコンには押され気味だ。イモラではオコンがQ3に進出した一方でQ2敗退し、決勝もキミ・ライコネン(アルファロメオ)のペナルティによる繰り上がりで1ポイントを獲得するにとどまった。
アロンソは、今季新たなチームで戦う全てのドライバーが厳しい状況にあると認めたが、イモラでの週末は良い勉強になったと語った。
移籍組が現在苦戦している傾向にあることについて、アロンソはこう話す。
「おそらくイエスだね。そうだと思う」
「僕……というより僕たちは、1周する度により快適になっていくような感覚をなんとなく感じていると思う」
エミリア・ロマーニャGPはベッテルにとって最悪のレースになったと言える。彼はスタート前のレコノサンス・ラップでブレーキのトラブルに見舞われ、ピットレーンスタートを余儀なくされた。また、その際チームがスタート直前まで作業していたことがレギュレーション違反とみなされ、ペナルティまで受けてしまった。
「ここは素晴らしいコースだから、何か間違ったことをすると“やられて”しまうんだ」とベッテルは言う。
「あともう少し自信が必要なんだ。新しいチームに入ったドライバーは余計に苦しいかもしれない。僕は1周のアタックで全てを出し切ることに苦しんでいたけど、そこは最終的に自信の問題だと思う」
「このような日が続くのは確かに良くない。ただ、今回何が悪かったのかを振り返ってみても、今日のレースをどうにかできたとは思えないし、これ以上悪くなることはないと思う」
「今回のコンディションを見たときには、うまくいく可能性があると思ったし、気分も高揚していた。でも僕たちはレースがスタートする前から後手に回ってしまったんだ」
こういったベッテルの不運には、チーム代表であるオットマー・サフナウアーも同情している。
「(昨年まで乗っていたマシンと)哲学が異なるのであれば、時間はかかるものだ」とサフナウアーは言う。
「我々のところからレッドブルに行ったチェコ(ペレス)とも話したんだ。レッドブルのマシンは我々のマシンと哲学が違うからね。すると彼も同じようなことを言っていて、マシンの性能を最大限引き出すための絶妙な感覚を掴むためには時間がかかると言っていた」
またサフナウアーは、テスト機会が不足していることが移籍組に影響を与えていると認めた。
「ああ、そうだと思う。そして我々の最大の後悔は、冬の間に本来あるべき信頼性がなかったことだ」
「そしてセブ(ベッテル)は1日半ある走行時間の大半を失ってしまった。だからもう少しテストできていれば、もう少しマシンに乗れていれば、彼の学習段階は今よりも先の段階にあっただろう」
Sebastian Vettel, Aston Martin AMR21
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
このサフナウアーの主張に関しては、マクラーレンのアンドレアス・ザイドル代表も同意している。今季からマクラーレンに加入したダニエル・リカルドは、開幕から2戦ともチームメイトのランド・ノリスの後ろでフィニッシュしている。
「驚いたとは言わない。これまでと違うマシンに乗って1日半しかテストできていない状況では、簡単にいかないのは分かっている」
そうザイドルは語った。
「(ひとりあたり)1日半しかないテストに文句を言っても仕方ない。コストを削減するためにテストを1回しか実施しないということは、昨年全チームで合意したことだからだ」
「しかし今のマシンは複雑だ。最後にコンマ2、3秒の差を生むのは、感触が良くない時でも限界までプッシュできるかどうかだ。しかしそれは時間がかかる。だから驚くようなことじゃない」
当のリカルドは、チーム間の格差がさらに小さくなっている今季においては、チームメイト同士の差に例年以上にスポットが当てられるだろうと語った。
「コンマ1秒が重要なのはもちろんだけど、今年はなおさらなんだ」
「コンマ数秒でもタイムを落としてしまうと、Q2でノックアウトされてしまうかもしれないし、トップ3からトップ8に落ちてしまうかもしれない」
「このコースでは余計にその危険性がある。だからこそ、マシンに好感触を持っていて、かつ自信を持って限界まで攻められるようにしないといけない。バーレーンよりも今週末の方が、そうするのに時間がかかった」
Carlos Sainz Jr., Ferrari SF21, Daniel Ricciardo, McLaren MCL35M
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
これまでF1キャリア6年でトロロッソ、ルノー、マクラーレンと3チームを渡り歩いてきたカルロス・サインツJr.は今季、名門フェラーリに移籍した。そして彼もここ2レース、チームメイトのシャルル・ルクレールを上回る結果を残せていない。
フェラーリ3年目を迎え、自信に満ち溢れ、絶好調といった印象のルクレールに対し、サインツJr.は主に予選のペースで後れを取っているように見える。ルクレールが4番手を獲得したエミリア・ロマーニャGPの予選でQ2敗退に終わったサインツJr.は次のように語っていた。
「彼が予選のエキスパートであることは分かっている」
「彼はQ2やQ3のようなハイグリップなコンディションにおけるフェラーリの挙動を熟知しているようなんだ。それに彼は本当に優れたドライバーだ」
「でも同時に、この2戦で分かったことがある。それは、僕がどのコーナーにおいても彼に負けていないということだ。だから周回を重ねていけば上位に食い込めると思っている」
サインツJr.はまた、ルクレールに差をつけられてしまった要因について興味深い話をしていた。
「今日(予選日)は縁石の乗り方が違っていたんだと思う。縁石に乗る角度によって、マシンの反応も違ってくる。僕はシケインの縁石に何度か違う角度で乗ってしまい、ポジションを落としたんだろう」
「そういった縁石の後には大抵長いストレートがあるので、僕はコンマ1〜2秒遅れたと思う」
「要するに、どの角度でマシンがどう反応するかを理解して、アタックの際には超精密に角度を調整する必要があるということなんだ」
「稼いだタイムをそこで失う訳にはいかない。まだまだ分析する必要があるけど、どこでラップタイムを落としているか、どうすればマシンの限界を引き出せるかはハッキリしている」
こういった彼らのコメントを見るに、今回のイモラでの“クレイジー”なレースは、移籍組が学びを深めるにあたって大きな役割を果たしたに違いない。彼らはここから続くポルティマオ、バルセロナでのレースを経て、モナコへとやってくる。モナコはどのサーキットよりも限界ギリギリの走りが求められるため、マシンに対して確固たる自信を持っている必要がある。
経験豊富な5人の移籍組がモナコでチームメイトを打ち負かす事が出来るのか、とても興味深い。
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