F1王者アロンソから直々の依頼「かなりの挑戦だった」アストンマーティンが明かす世界38台限定車ヴァリアントの制作秘話

アストンマーティンが発表したスペシャルなマシン、ヴァリアント(Valiant)。2度のF1チャンピオンであるフェルナンド・アロンソの個人的な依頼がキッカケで生まれたこの1台ついてプロジェクト主任に話を訊いた。

Sam Bennet, Head of Q Special Project Sales, Aston Martin Valiant

Sam Bennet, Head of Q Special Project Sales, Aston Martin Valiant

写真:: Kan Namekawa

 アストンマーティンは6月、公道走行が可能ながらもサーキット走行に重きを置いた世界38台限定生産のスペシャルマシン、ヴァリアント(Valiant)を発表した。

 このヴァリアントは、アストンマーティン創立110周年を記念して制作されたヴァラー(Valour)をベースに、ビスポークサービス部門であるQ by Aston Martinが制作した。

 最高出力745PSの5.2リッターV12ツインターボエンジンに6速マニュアルトランスミッションを組み合わせ、オールカーボンファイバー製ボディワークやマグネシウムホイールの採用、走りを重視したインテリアへの変更などによって95kg前後の軽量化に成功した。

 またヴァリアントはヴァラーから空力も大きく異なり、フロントスプリッターやエアロディスク、大型の固定式リヤウイングも目を引く。ダウンフォース増加のためのCFDや材料化学という分野では、F1チームとも強い繋がりを持つアストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズ(AMPT)が開発に携わった。

 そんなヴァリアントが誕生したキッカケは、2023年からアストンマーティンF1でドライブする2度のF1世界チャンピオン、フェルナンド・アロンソの個人的な依頼だった。

「フェルナンドはクルマに関して非常に興味深いバックグラウンドを持っていて、個人のミュージアムもある。スーパーカーやハイパーカーだけでなく、あらゆるモノに興味を持っている」

 そう語るのは、ヴァラーやヴァリアントのプロダクトマネージャーを務め、現在はQ by Aston Martinのアジア環太平洋地域主任を務めるサム・ベネットだ。

「彼の市販車への関与には驚かされる。アストンマーティンF1だけでなく、ブランドとしてのアストンマーティンにも非常に興味を持っている。彼は引退してもアストンマーティンに留まり、一緒に仕事をするつもりだと公言している」

Aston Martin Valiant

Aston Martin Valiant

写真: Kan Namekawa

「彼は本当に、色々な意味でアストンマーティンをホームだと感じているんだ」

「だから、ほぼ夢のようなクルマ作りに関われることに彼はとてもワクワクしていた。フェルナンドはワクワクしながら開発プロセスに関わっていた」

「ただ彼はとても忙しく、世界中を飛び回っている。そのため、彼がクルマの方向性を指し示すというモノだった。レーシングドライバーは非常に明確な指摘が上手いし、我々のテストチームのドライバーも全てル・マンやF1といった経歴を持っている」

「フェルナンドも深く関わっているし、開発プロセスでテストドライブも行なったが、多くの作業はアストンマーティンのチームが行なった」

「フェルナンドは明確に『これが良い』『こういう感触にしてほしかった』と伝えてくれるから、彼との仕事は非常にやりやすい。彼は他のクルマでの経験も豊富だからね」

「正直に言って楽しかった。彼も楽しんだし、チームも楽しんでいた。彼の指示はかなり強気で、95kgの軽量化はかなりのモノだった。しかしチームはなんとか彼の要望を実現することができた」

 

 また、2度のF1王者からの依頼や指摘はかなりの挑戦だったのではないか? と尋ねると、ベネットはこう答えた。

「(プロジェクトに)ワクワクしているだけでなく、非常に辛口な人からのリクエストとなると、かなりのチャレンジだよ!」

「辛口だけど、それが彼らの仕事だからね。もし彼が厳しい評価を下せず『これは嫌いだ』と言えない人なら、あのポジションにはいなかっただろうね」

「しかしチームとして、そしてアストンマーティンというブランド、エンジニアリング企業としても、彼らは挑戦が大好物だ。アストンマーティンで働いていて楽しいのが、誰も『ノー』と言わないことだ」

「誰かが『◯◯はできないか?』と言うと、ほとんどの場合、『やってみよう』という答えが返ってくる。ヴァルキリーのようなクルマを見れば、アストンマーティンが非常にユニークなフィロソフィーを持っていることが分かるはずだ」

 なおヴァリアントに関してベネットは、ヴァラーが「90%を公道走行にフォーカスし、残る10%をサーキット走行に当てた」のに対して、ヴァリアントは「90%をサーキット走行にフォーカスし、残る10%を公道走行に当てた」と説明。1990年代のスーパーカーのような、手ごわさを意識して設計されたという。

「(ヴァリアントの)トラクションコントロールは完全にオフにすることはできる。個人的には、これをオフにするのはとても勇気のいることだと思うけどね!」とベネットは言う。

「我々はプレイステーションのゲームをしているような感じにはしたくなかった。1990年代のクルマのように、ただ飛び乗るだけでは壁に激突する……そういう要素を持つように設計したのだ。顧客には乗り込んで、どうドライブすべきかを学んでもらいたい」

Aston Martin Valiant

Aston Martin Valiant

写真: Kan Namekawa

「後輪駆動のMT車としては膨大なパワーだ。あまり安全にし過ぎたくなかった。現代のライバル車のように、非常に低いスキルでもすぐに飛び乗れるといったことはできないよ」

 そしてベネットはこうも語った。

「彼ら(顧客)は、このクルマはそういうモノだと伝えられるはずだ。ただ、この種の車を購入する人々のほとんどは経験豊富だ」

「彼らもかなりのレベルのチャレンジであることを理解してくれるだろう。正直に言うと、初めて乗った時から、(ヴァリアントは)リスペクトを払わなければいけないモノだと感じることができるはずだ」

 ヴァリアントの価格は公表されていないものの、motorsport.comの姉妹誌であるMotor1.comによるとその価格は200万ポンド(約3億8000万円)前後。ベネットはその数字自体を認めなかったものの「様々な報道の推測がある」と匂わせた。

 既に38台のヴァリアントは、日本を含め世界各地の顧客に割り当て済み。アロンソもそのうちのひとりであり、アストンマーティンからのプレゼントではなく実際に購入しているという。

 アロンソ仕様は納車が完了するまでは非公開だが、ビスポーク部門が送り出すヴァリアントは、ひとつとして同じクルマは無く、38台それぞれに顧客に合わせたカスタマイズが行なわれるという。

 

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