【コラム】チャンピオンがいるってこういうこと……フェルスタッペンの母国、オランダ人記者に聞くその意味。日本でF1人気がもっと高まるために必要なことは?
F1日本GPを取材するために来日したオランダの記者に、オランダという国・国民にとってフェルスタッペンという偉大なるチャンピオンが存在することの意味を訊いた。
Max Verstappen, Red Bull Racing
写真:: James Sutton / Formula 1 / Formula Motorsport Ltd via Getty Images
今年のF1日本GPの際、オランダから新聞の記者が取材に訪れていた。その時私は、彼から今の日本におけるF1の状況を色々と尋ねられた。しかし私の回答は、彼にとっては驚きだったようだ。
オランダでは今、空前のF1ブームになっている。マックス・フェルスタッペンという稀代のチャンピオンを輩出する国ならば、それも当然であろう。
そして昨年、そのフェルスタッペンのチームメイトを務めたのが日本の角田裕毅であった。しかも角田がドライブしたのは、トップチームのレッドブルのマシン。それにより、日本の世間一般でもF1人気が高まっただろうと、どうも彼は考えていたようで、そういう回答を期待していたようだ。
確かに我々モータースポーツメディアは連日F1のニュースをお届けし、日本GPの際には鈴鹿サーキットが満員のお客様で膨れ上がる。グランプリ開催期間の盛り上がりたるや、世界一と言われるほどだ。
しかし一般的なF1の認知度が高いとは、まだまだ言えない。テレビのニュースでF1の話題が報じられることはなく(フジテレビさんでは今年かなり報じられているが)、F1ドライバーが街中を歩いていても、気付かれたり囲まれるようなことは少ない……だからこそ、F1ドライバーたちは日本GP前後に日本観光を存分に楽しめるのだ。私はオランダの記者に、そう回答した。
そのギャップは、よく考えればたしかに不思議だ。海外の人たちにとっては、理解し難いだろう。
オランダと日本の違い、それはF1チャンピオンを輩出しているかどうかというところが一番大きいだろう。
ヨス・フェルスタッぺン(ベネトンB194/1994年)
写真: Motorsport Images
かつてオランダを代表するF1ドライバーと言えば、ヨス・フェルスタッペンだった。1994年にミハエル・シューマッハーのチームメイトとしてベネトンからデビューすると、その年に2度の3位表彰台を獲得した。しかし、これが最高成績。途中参戦しなかった年も含めて2003年までF1に挑んだが、デビュー年以降は表彰台には届かなかった。
とはいえこれが、オランダ人F1ドライバーとして最も成功した事例であった。2位はおろか、優勝したドライバーはいなかったのだ。日本と似た状態だったと言える。しかしそれは、彼の息子であるマックス・フェルスタッペンが登場したことで変わった。
そのマックス・フェルスタッペンは2016年のスペインGPで初優勝を遂げると、2019年から2022年にかけて4年連続でF1チャンピオンに輝いた。今ではどのグランプリにもオレンジ色の応援団(読売巨人軍の応援ではない)が駆けつけ、オランダでのグランプリも復活した(今年までではあるが)。
Fan of Max Verstappen, Red Bull Racing
写真: Peter Fox / Getty Images
オランダにおけるF1人気はどんなモノなのだろうか? 日本GPの際、私に日本のF1事情を尋ねてきた、AD Sportwereldのティム・ハートマン記者に逆取材した。
「マックス・フェルスタッペンは現在、オランダで最も偉大なアスリートだ。彼は世界的なスターであり、オランダには彼のようなスターは滅多にいない」
ハートマン記者はそう語った。
「オランダ人はとても愛国心が強く、同郷のアスリートが活躍すると、熱烈に応援する。でもその功績によって、多くの国で知られるようになるアスリートは稀だ。かつてのヨハン・クライフ、そして現在のフレンキー・デ・ヨングやフィルジル・ファン・ダイクといったオランダ人のサッカー選手は、オランダ以外でも知られている。しかし、サッカー以外で世界的にこれほどの知名度を獲得したオランダ人は、フェルスタッペンの他に例がない」
そしてフェルスタッペンが勝ち始めたことで、国内におけるF1人気は飛躍的に高まったという。
「マックス・フェルスタッペンが勝ち始めて以来、オランダにおけるF1人気は飛躍的に高まった。アヤックスやフェイエノールトなどのサッカーチームのシャツを着ている人が多かったが、今ではレッドブルのシャツを着ていたり、キャップを被っている人もたくさんいる。オランダGPが開催されるようになったのも、フェルスタッペンのおかげだ」
「これらのことにより、全く新しい世代がF1に魅了されるようになった」
ただ今年に関して言えば、レッドブルが苦戦しフェルスタッペンが勝利を争えていないことで、オランダ国内におけるF1人気は若干下火になっているという。
「残念ながら今年はフェルスタッペンが勝てていないため、注目度はやや下降傾向にある」
「オランダ人は自国至上主義的な傾向がある。だからオランダ人が優勝すると誰もが喜ぶが、それが終わるとすぐにその熱は冷めてしまう」
これは日本も同じような傾向にあるのかもしれない。野球やサッカーは恒久的な人気があるが、その他の競技はオリンピックやワールドカップで大いに注目されたとしても、その後はまったく報じられなくなってしまう……ということも多いように思える。
そういう意味では、日本でF1人気が定着するためには、勝ち続ける日本人ドライバーの登場が必要だということかもしれない。
Max Verstappen, Red Bull Racing
写真: Alastair Staley / LAT Images via Getty Images
さらにハートマン記者は、今年フェルスタッペンが勝てないのは、新レギュレーションのせいだと考えるオランダ人が多いという。
「オランダの多くのファンは、フェルスタッペンが勝てないのは、新しいレギュレーションのせいだと考えている。現在のF1はもはやかつてのF1ではないという点で、フェルスタッペンに同情する人も多いね」
「その点において、フェルスタッペンはオランダの世論にも大きな影響力を持っている。もちろん、フェルスタッペンの成績に関係なくF1を追い続けるファンも依然としてたくさんいるが、新しいファンはフェルスタッペンが勝てない現状に慣れる必要がある」
「彼らはまだ、この状況に慣れることができていないのだ」
Fans
写真: Steven Tee / LAT Images via Getty Images
またオランダのF1ファンは、フェルスタッペンがホンダと共に黄金期を築いたことで、ホンダや日本に親近感を感じているらしい。ハートマン記者はこう説明する。
「マックスがホンダと共に成功を収めたことで、日本のモータースポーツ界における成功が、オランダの多くの人たちに認識されるようになった。角田裕毅も、フェルスタッペンのチームメイトだったしね」
「そのため近年、鈴鹿でのレースはフェルスタッペンにとって、ある意味ホームレースとして位置付けられてきた。しかしフェルスタッペンとホンダの結びつきが弱まるに連れ、オランダにおけるホンダおよび日本全般への関心は徐々に低下していくことになると思う」
「でもオランダ人にとって日本は、訪れてみたいと思う国のひとつだ。日本人は親切で礼儀正しいと評判だし、国自体も美しく清潔だと思われている。ただ日本に行くのをためらう人も多いのは、物価が高いというイメージがあるからだ」
実際に日本を訪れたハートマン記者は、実感した印象に関してこう語った。
「私が日本を訪れた経験から言えるのは、日本は素晴らしい国であり、オランダの多くの人が想像するよりもずっと物価が安いんだ」
「また訪れたいね」
海外の皆さんが日本に訪れやすい、日本を訪れたいと感じることは、非常に良いことであるのは間違いない。しかし物価が「想像よりもずっと安い」のは、円安が進んでいるからに他ならない。
歓迎はしつつも、喜んでばかりはいられないということも浮き彫りになった逆インタビューであった。
Special Thanks to Tim Hartman / AD Sportwereld
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