



















F1復帰4年目のシーズンを迎えたホンダ。今季からはパートナーにトロロッソを迎え、新たなスタートを切った。
そのホンダのF1プロジェクトを現場で率いるのが、田辺豊治だ。田辺は昨年まではインディカーのエンジン開発などを担うHPD(ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント/アメリカ)でシニア・マネージャーを務めていたが、今年の1月からホンダR&DヨーロッパU.K.に異動し、F1テクニカル・ディレクターに就任した。
「HPDには4年以上いました。私がいなくなった後のことも考えて、ずっと組織を作ってきました」
そう田辺は語る。
「インディカーでも2021年頃から新しいエンジンになるということで、そこに向けてさくらの研究所との連携を強化しました。燃料は違いますけど、F1もインディも直噴ターボですから、似たようなところはあります。そのあたりの技術交流をもっと活性化させるように働きました」
その田辺が今年から扱うF1のパワーユニット。インディカーとは決定的に違う点がある。それは回生システムが含まれているか否かという点だ。
「電気の部分は私にとっては初めてです」
しかし田辺は、HPDに行く前にホンダのF1プロジェクトを担当していた。その際、KERSの開発に携わっていた。
「一時、2009年に向けて開発をしていましたが、今のシステムは当時とは違うところもあります。ですから、私にとっては全く新しいモノです」
KERSを搭載したマシンを走らせたのは、F1ではホンダが最初だった。しかし2008年限りでホンダがF1から撤退したため、そのシステムが実戦で使われることはなかった。
F1に参戦し続けることの意義
2015年からF1に復帰したホンダ。しかし、なかなか好成績を残すことができずにいる。その理由について尋ねると、田辺テクニカルディレクターは次のように語った。
「やはりスタートが遅かったということがあると思います。それから(2008年限りで一度撤退したが)続けていればよかったということもあります。F1に関わり続けるというのは、重要です」
「メルセデスさんは相当早くから燃焼コンセプトなどを単気筒でテストしていたと聞きます。フェラーリはそこから1年遅れだったので、それを取り戻すのに時間がかかったのだと思います」
現在のエンジンに求められること、それは出力と燃費の両立だと田辺は語る。
「我々のエンジンもまだまだ開発途上ですが、出力と燃費を両立するのが大切です。それには、燃焼が一番(影響を与える部分が)大きいと思います。ライバルのエンジンの中身を見ていないので分かりませんが、今の現状を考えると、彼らは一歩先に行っていると思います。それに追いつくために、エンジン単体ではなく、電気の部分も含めて開発を続けています」
「今は燃料の規制が入っていて、電気エネルギーも回生して使います。そのバランスについて、21戦全部のサーキットをカバーするためにどういう仕様が必要なのか……3年やっていると、どこで何が必要なのという部分も見えてくる。1年目や2年目にすぐ変えられるモノではありませんが、開発を進め、情報の欠如を補いながら進んできたと思います」
市販車にも活かせるF1での開発
今のF1のパワーユニットは、市販車技術に通じるところがどのくらいあるのか? これについて問うと、田辺は次のように語った。
「量産技術と一番違うのは熱回生だと思います。ホンダとしてはハイブリッド車を世に出していますけど、同じ回生でもレース用だと違う部分があります。でも、熱回生の部分は我々にとっては新しい挑戦になります。そういう意味でも、F1でのハイブリッドというのは、挑戦しがいのある開発だと思います」
ハイブリッドの市販車は、いずれも運動エネルギーを回生する形だ。つまり、F1でいうMGU-Kである。市販車では熱回生システムを搭載したクルマはないが、将来的には市販車に熱回生が活かされる可能性もあると田辺は考えている。
「運動エネルギーの回生は、大枠のくくりで言えば、すでに量産でやっている技術ですよね。でも、熱エネルギーも、我々は(市販車に活かせる)可能性があると思ってやっています」
最低限、信頼性を確保するのが今年の目標
今シーズンはここまで3戦。トロロッソ・ホンダは開幕戦と第3戦はうまくいかなかったものの、第2戦バーレーンGPでは4位入賞(ピエール・ガスリー)という望外とも言える成績を残した。
ここまでの評価について田辺テクニカルディレクターに尋ねると、次のように語った。
「今年はとにかく新しいチームと組む、そしてF1としてはフレッシュなドライバーと組むということですから、とにかく信頼性を最低限確保した状態で走るというのが、オフシーズンからの目標のひとつでした。そういう意味では、開幕戦でトラブルが出てしまいましたけど、まずまず良い線に来ているかなと思います」
「これからは、不足している部分も含めて、さくらの方で信頼性とパフォーマンス両方の開発していきます。それを見極め、現場で投入していくというのが、課題だと思います」
昨年まで苦しんだ信頼性については、次のように語った。
「今年はパワーユニットは年間3基、エナジーストアなどは2基しか使えません。3基で1年間と言えば、1基あたり5000km以上の信頼性を確保しなきゃいけません。かなりの距離です」
「パッケージとして、どこが弱いというようなことがないようにしなければいけません」
「どのマニュファクチャラーに対しても、レギュレーションはある意味平等です。その中で3基という使用制限も一緒ですので、それをクリアするのが我々の目標です」
田辺はトロロッソ・ホンダを表彰台に上げることができるだろうか。
この記事について
シリーズ | F1 |
ドライバー | ブレンドン ハートレー , ピエール ガスリー |
チーム | アルファタウリ・ホンダ |
執筆者 | 赤井邦彦 |