【完全図解】F1ステアリングホイール進化史:後編〜究極の操作性を目指して〜
F1のステアリングホイールは、年々進化を続けてきた。そんな進化の歴史を、ジョルジョ・ピオラのイラストと共に振り返っていく。今回はその後編。
Red Bull Racing RB15, steering wheel Max Verstappen
Giorgio Piola
モータースポーツにおいて、ドライバーがマシンを操舵するステアリングホイールは極めて重要なパーツであると言える。このステアリングホイールは技術の進歩と共に、目覚ましい進化を遂げてきた。各チームはより快適なもの、より良い機能が備わったものを開発し、ライバルよりも少しでも優位に立とうとしたのだ。
近年のF1では、各チームがふたりのドライバーに対して基本デザインが同じステアリングホイールを与えるケースが多いが、それぞれ微妙に仕様を変えるなどして、扱いやすさと機能性をできる限り向上させようとしている。
■わずかな違いが大きな差を生む?
Red Bull RB7 Vettel's steering wheel, rear view
Photo by: Giorgio Piola
レッドブルが2011年に投入したRB7のステアリングは、セバスチャン・ベッテルとマーク・ウェーバーとで下部のパドル(赤で強調されている部分)の形状が異なっていた。
■アロンソの加入によりカスタマイズされたステアリングホイール
Ferrari F10 steering wheel
Photo by: Giorgio Piola
2010年にフェラーリに加入したフェルナンド・アロンソ。フェラーリは彼がコックピット内でより快適にドライブできるようにステアリングホイール上部、下部の不要な部分を削り取り、グリップの形状、ダイヤルやボタン、パドルなどの配置も彼好みにカスタマイズしている。
ちなみに、ステアリングホイール上部にあるディスプレイは全チーム共通のもので、回転数のランプやセーフティカーライト、ギヤインジケーターにラップタイムのデルタなどが表示されるようになっている。
■ステアリングの位置もパフォーマンスに影響する
Ferrari F10 steering wheel differences (Alonso vs Massa)
Photo by: Giorgio Piola
2010年シーズンを戦ったフェラーリのアロンソ(写真左)とフェリペ・マッサ(写真右)の例に見られるように、ドライバーの好みを反映するのはステアリングホイールの形状だけにとどまらない。
コックピット内のドライバーとステアリングホイールの位置関係は、それぞれのドライビングスタイルによって調整されることが多い。アロンソは肘を大きく曲げステアリングホイールを自分に近付けるスタイルを好むが、一方のマッサはその逆で、肘をあまり曲げない方が好みであるため、ステアリングホイールを体から遠ざけていた。
■ドライバーの手に合わせた複雑な形状
BMW Sauber F1.09 steering wheel Nick Heidfeld
Photo by: Giorgio Piola
ステアリングホイールのデザインは、人間工学と機能性、そのバランスをうまくとりながら行なわれてきた。つまりドライバー、デザイナー、そしてエンジニアは、パフォーマンスを向上させるためにそれぞれの要求を天秤にかけなければいけない。
左のイラストはニック・ハイドフェルドがBMWザウバー時代に使用したステアリングホイールだが、グリップの形状がいかに複雑となっているかがよく分かる。グリップの各箇所が波打つような形状となっており、ハイドフェルドの手の位置に合わせて完璧にフィットするようになっている。
■“パワーユニット時代”の突入により、ステアリングホイールも大きく進化
Mercedes W05, Hamilton's steering wheel, front view
Photo by: Giorgio Piola
F1は2014年にハイブリッドシステムを搭載した内燃機関、いわゆる“パワーユニット”の時代に突入した。それに合わせてマクラーレン傘下のマクラーレン・アプライド・テクノロジーズは、『PCU-8D』と呼ばれるステアリングホイールの液晶スクリーンを新開発し、各チームに供給した。
液晶スクリーンの登場により、ドライバーはより多くの情報を得られるようになったが、同時にステアリングホイール上の多くのスペースをこのスクリーンに奪われる形となった。そのため各チームは、これに対応するためにステアリングホイールのデザインを慎重に変更する必要があった。
『PCU-8D』は実に100ページもの情報を表示することができ、その全てがカスタマイズ可能となっている。チームとドライバーは豊富な情報を手に入れることができ、エネルギー回生に関する様々な情報や、タイヤ温度などのデータを常に監視することができるようになった。
■繊細なクラッチ操作を実現するための工夫:メルセデス編
Mercedes AMG F1 W08, steering wheel Lewis Hamilton
Photo by: Giorgio Piola
2015年、FIAはスタート操作におけるドライバーの自律性を高めるために、クラッチが繋がる“バイトポイント”を見つけ出してクラッチミートを容易とするようなシステムを禁止した。これにより、ドライバーはクラッチのスリップ量を自分でコントロールしなければいけなくなり、毎回完璧な発進をすることが難しくなった。
その変更に対応するため、いくつかの解決策が生まれた。メルセデスのルイス・ハミルトンは、クラッチパドルを操作する時にできるだけ多くの感触を得るために、クラッチパドルに指をはめるソケット(赤い矢印)を追加した。
■繊細なクラッチ操作を実現するための工夫:フェラーリ編
Ferrari SF16-H steering wheel (shows wishbone clutch paddle arrangement)
Photo by: Giorgio Piola
一方でフェラーリは異なるアプローチをとっていた。彼らはバイトポイントを感じ取りやすくするため、クラッチパドルを1本の長い“ウィッシュボーン型”に変更。キミ・ライコネンはこのデザインを採用したが、ベッテルは自らの理想を追求し、何度も試行錯誤を重ねた。
ベッテルはその中で、ライバルであるハミルトンが採用していたフィンガーソケットのアイデアを踏襲し、使用していたことがあった。しかしながら2017年のシンガポールGPでのスタート失敗→クラッシュが契機となり、彼は最終的にウィッシュボーン型に戻している。
■フェラーリのコンビ、ルクレール&ベッテルの対照的なクラッチ操作
Ferrari SF90 steering Charles Leclerc
Photo by: Giorgio Piola
Ferrari SF90 steering wheel Sebastian Vettel
Photo by: Giorgio Piola
興味深いことに、2019年からフェラーリでコンビを組んでいるシャルル・ルクレール(写真左)とベッテル(写真右)ではクラッチの好みが異なっている。ベッテルは左手でウィッシュボーンクラッチのパドルを調節しており、右手側には指一本分ほどしかない小さなパドルが備わっている(青い矢印)。一方のルクレールは右手でクラッチを操作している。
■メルセデスのハミルトン&ボッタスコンビにもクラッチ操作に違い
Mercedes AMG F1 W10, steering wheel Valtteri Bottas
Photo by: Giorgio Piola
Mercedes AMG F1 W10, steering wheel Lewis Hamilton
Photo by: Giorgio Piola
メルセデスのバルテリ・ボッタス(写真左)とハミルトン(写真右)は、共にフィンガーソケットの備わったクラッチパドルを使用している。ただ、現在のハミルトンは右手のパドルだけでクラッチを操作するという方法に移行している。
これにより左手が空くハミルトンは、スタート時にその左手をステアリングホイールの左上端に置いている。つまり彼はてこの原理を利用して、発進の瞬間に少ない力でステアリングホイールを安定させているように見える。
■汎用性、柔軟性に優れたフェルスタッペンのステアリング
Red Bull Racing RB15, steering wheel Max Verstappen
Photo by: Giorgio Piola
こちらがレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが現在使用しているステアリングホイール。パドルは6つ装備されているが、スペースが大きく空いているのが特徴的だ。彼はこのスペースを利用して、ステアリングセットアップの汎用性、パドル配置の柔軟性を高めているようだ。
一方チームメイトのアレクサンダー・アルボンは、このフェルスタッペンと同じレイアウトを使用したり、かつてピエール・ガスリーが使用していたソケット付きクラッチパドルなど、様々なバリエーションを試しているというのも興味深い。
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