“F1候補生”岩佐歩夢、自身を育てた鈴鹿サーキットを語る「ここはドライバーのメンタルを弄ぶ不思議なコース」
2019年以来3年ぶりとなるF1日本GP。来る開催に向けてF1の登竜門であるFIA F2にDAMSから参戦している岩佐歩夢選手に、その舞台となる鈴鹿サーキットの攻め方について訊いた。
岩佐歩夢、鈴鹿サーキットを語る
2022年、F1直下のカテゴリーであるFIA F2にDAMSから参戦している岩佐歩夢。鈴鹿サーキットから世界へ羽ばたいていった彼に、サーキットの攻め方について訊いてみた。
“モータースポーツ一家”に生まれた岩佐は、幼少期から鈴鹿サーキットへ通い、四輪デビュー以降もFIA F4やFORMULA REGIONALへスポット参戦をしつつSuper FJにフル参戦し、鈴鹿サーキットを走ってきた。2019年には「鈴鹿サーキット・レーシングスクール(SRS/現ホンダ・レーシングスクール)」のスカラシップを獲得……鈴鹿から世界へ羽ばたくヨーロッパ行きの切符を掴んだ。
2020年にフランスF4へ挑戦した岩佐はここでチャンピオンに輝くと、翌2021年にFIA F3、そして今年はF2へとステップアップし、今季はここまで1勝をマーク。表彰台も複数回獲得していることでランキング上位につけている。現状はあと1ラウンドを残して9番手だが、前戦モンツァでの失格がなければ4番手に浮上していたところだった。
今回は、そんな “鈴鹿育ち”の岩佐にインタビュー。3年ぶりに開催を迎えるF1日本GPの舞台となる鈴鹿サーキットについて熱く語ってもらった。
Ayumu Iwasa, Dams
Photo by: Red Bull Content Pool
―まず鈴鹿サーキットの魅力とは?
僕が走ってきた中では、一番大好きなサーキットです。難しいからこその楽しさがありますし、人生で今まで100点のラップを刻めたことがないというのが鈴鹿サーキットなんです。その点に関しては、いつ走っても、どのクルマで走っても面白いのが鈴鹿サーキットだと思います。
(他のサーキットだと)もちろん100点じゃなくても、それに限りなく近い走りができて『このラップは決まったな』と思える時はあるんです。でも、鈴鹿サーキットだと『あそこはもう少し行けたな』とか『もうちょっとこうできたな』ってほぼ毎周思います。常にそう感じるので、そこが他のサーキットとは違うと思います。
―なぜ鈴鹿サーキットでは100点満点を取るのが難しいのでしょうか?
分かっていたら、もっと簡単に走れていると思います(笑)。
例えば130Rまでに完璧に決められたラップだったら、間違いなくシケインでミスすると思うんです。逆にS字で小さいミスをすると、その後は完璧に決めてリカバリーできたりするんですよね。鈴鹿サーキットは本当に不思議なサーキットですし、全てのキャラクターを兼ね備えているというのが難しさのひとつだと思います。そしてドライバーの精神的な面でも、サーキットがドライバーのメンタルを”弄んでいる”というイメージなのが鈴鹿サーキットです。
毎回同じブレーキングポイントのはずなのに、ミスをしてしまうことが多々あります。間違いなく鈴鹿サーキットでは一周全てにおいて完璧なマシンセットアップを組むことはまず無理ですし、そのあたりも一周をまとめる難しさになっていると思います。
―その難しい鈴鹿サーキットで”速いマシン”とは?
もちろん、『よく曲がって、トラクションも良くかかって、リヤが安定しているクルマ』が完璧なマシンだと思います。ただ僕が思うに、アンダーステア傾向のマシンは鈴鹿サーキットの1周のラップタイムでは若干劣るんじゃないかなと思います。
というのも、ターン1〜2とS字に関しては、特に旋回性が大事になってきます。クルマに良い旋回性がないとアクセルも踏んでいけないですし、立ち上がりに対してのアプローチも遅れるため、よく曲がるクルマでないと1周のタイムは中々出にくいんじゃないかと思います。
―つまり、セクター1がタイムに一番影響するということでしょうか?
もちろんそれはタイヤによって変わってくると思います。後半セクターでは特にスプーン・カーブがかなり重要になってくるので、1周でタレてしまうようなタイヤを履いた時にスプーンでタレていると、バックストレートに対してスピードも乗らないので大きな影響が出ると思います。ただ、Super FJだったり、タイヤで1周をあまり気にする必要のないカテゴリーであれば、やはりS字などはかなり重要になってくると思います。
もちろん細かいデータを見て、シミュレーションをしてみないと分からないですが、ピレリタイヤのFIA F2、FIA F3を走らせるとなると、正直ドライビングに関しては変わってくるんじゃないかなと思います。例えば、ブレーキングでのリヤタイヤのロックアップ……身体では感じられないけどもデータには現れる細かい”マイクロ・ロッキング”でタイヤに負荷をかけてしまうと、ピレリタイヤは表面の温度が一気に上がって、オーバーヒートしてしまいます。そうすると、ヘアピンなどでのロックアップが誘発されます。スプーンでリヤタイヤの表面温度がオーバーヒートしてしまい、トラクションがかからずリヤがフラフラするという状況になってしまいます。
ブレーキングのかけ方というところに関しては、細かい調整が必要になってくるんじゃないかなと思います。
Super FJ時代の岩佐歩夢
Photo by: Mobility Land
―ではドライバーとして、鈴鹿サーキットで重要になるモノとは?
鈴鹿サーキットでは間違いなく、リズム感がすごく大事になってくると思います。
S字セクションに関しては、S字コーナーひとつ目からが重要だと言われることがあると思うんですけど、僕はターン2の立ち上がりから始まっていると思っています。ターン2の旋回と向きの変えるポイントがズレると、S字ひとつ目に対してもズレていると思っています。アプローチなど全てにおいてリズムがすごく大事になってくるのではないかなと思います。
―鈴鹿サーキットを攻める上で、岩佐選手が参考にしているドライバーは?
僕がよく見ていたのは、スーパーフォーミュラの野尻(智紀/TEAM MUGEN)さんのオンボードですね。野尻さんの走らせ方は、アグレッシブというよりも、スーっとクルマを走らせている見え方をすると思うんですよ。でも、しっかりと理解した上で見てみると、コントロールしつつも、とにかくマシンを縦に進めていて、1周回ってくるととにかく速いというドライビングをしていると思います。
クルマを縦に進めるということは、クルマの向きが変わっていないといけません。おそらくクルマに関しても、しっかりと曲がるクルマになっていながらも、それを(野尻が)上手くコントロールしているように見えます。リヤを滑らせ過ぎず、アンダーステアも出さず……本当に繊細なドライビングで、クルマを綺麗に前へ前へ進めています。ダウンフォースを上手く使いながら、ボトムスピードも落とさずに高い旋回スピードで曲がっているのかなと思います。
そこに関しては、少し前までは僕にとっても大きな課題だったので、すごく参考にはなりました。少し前までは若干クルマを振り回し過ぎてリヤが流れ、自分では速く走れているように感じていてもタイムが出ないということもありました。今はもちろん、その感覚や方法も掴めていますが、その点はすごく参考になりました。
―来るF1日本GPで岩佐選手が注目しているドライバーはいますか?
もちろん、F1に関してはクルマの差がすごくあると思います。ただ僕からすると、研究・勉強している中では、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)はいくつもの引き出しを持っているようなイメージで、結果的にどこへ行っても強いと思います。
彼は時にはアグレッシブにドライブすることもあれば、とてもクリーンにアタックしていることもあります。間違いなくフェルスタッペンは、鈴鹿に対してのアジャストも完璧に行ない、必ずポールポジションや上位に来るのではないかなと注目しています。
あとは、鈴鹿サーキットを走った経験が豊富なガスリー選手(ピエール・ガスリー/アルファタウリオ/2017年にスーパーフォーミュラ参戦)であったり、角田(裕毅/アルファタウリ)選手というところもすごく気になります」
―岩佐選手がF1昇格となれば日本GPを戦うことになります。鈴鹿サーキットでF1を走らせるのは、目標のひとつですか?
もちろん、そこはひとつの大きな目標であり夢でもあります。それに関してすごく考えている訳ではないですが、頭の片隅には置いています。やはり、F1で鈴鹿に戻って、優勝なんてできたら大きなことだろうなと考えるとワクワクする気持ちもあります。
そこはひとつの目標として置くことで、今のF2で優勝を目指して戦うというモチベーションにも繋がるとも思います。
Alex Albon, Red Bull RB15
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
―番外編その1:岩佐選手オススメの観戦エリアは?
間違いなく良いのは、ストレートから1コーナーにかけてのグランドスタンドになると思います。グランドスタンドの上方からは、おそらくS字のマシンも若干見ることができるので、F1マシンがものすごいスピードで駆け上がっていくのが見られますから、一番良いと思います。
あとはシケインでは、F1マシンのブレーキングのすごさも見られるんじゃないかなと思います。
―番外編その2:岩佐選手オススメの鈴鹿グルメは?
間違いなく焼き肉ですね。鈴鹿で色々な焼き肉屋さん行きましたけど、まずひとつ前提として美味しい焼肉屋さんが多いんです。正直、どれが一番というのも決めづらいですが、イオンの近くにある大関屋というお店や、一升瓶、家族亭など鈴鹿には美味しい焼き肉屋さんがたくさんあります。
焼き肉以外で言うと、鈴鹿市では無いですが亀八食堂は美味しいですね。あそこはスクール時代も生徒みんなで行って食べたりした記憶はあります。当時はあれくらいの距離なら遠いと感じていなかったので……でもSRSの時も、ルーニースポーツからSuper FJやっていた時でも、基本的には焼き肉ばかりでした。
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