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2年前にはキャリアの岐路に。サインツJr.が名門フェラーリのシートを勝ち取った要因

2018年、ルノーを離脱することとなったカルロス・サインツJr.はキャリアの岐路に立たされているように見えたが、それから2年後、彼はどのようにして名門フェラーリのシートを手にしたのだろうか?

Carlos Sainz Jr., McLaren

Carlos Sainz Jr., McLaren

Steven Tee / Motorsport Images

 2020年5月14日、新型コロナウイルスの影響によって2020シーズンのF1開幕戦も行なわれていない中で、スクーデリア・フェラーリは2021年からセバスチャン・ベッテルの後任としてカルロス・サインツJr.を起用することを発表した。サインツJr.は25歳にして名門F1チームのシートを射止め、シャルル・ルクレールと共に同チームの歴史の中でも稀に見るフレッシュなラインアップを完成させた。

 約2年前、サインツJr.は近年で最も大きなドライバー市場の変動に巻き込まれ、F1でのレースシートを失うリスクもあった。しかし2021年シーズンに向けた今回のストーブリーグにおいて、サインツJr.は完全なる勝者であり、今日の中団チームではほとんど得られない“勝てるチャンス”を得ることになった。彼はそのチャンスを得るために辛抱強く働いてきたのだ。

■2年前、彼はどのチームにとっても“第1希望”ではなかった

Carlos Sainz Jr., Renault Sport F1 Team R.S. 18 locks up

Carlos Sainz Jr., Renault Sport F1 Team R.S. 18 locks up

Photo by: Jerry Andre / Motorsport Images

 2018年の初夏、サインツJr.は移籍市場において動きがあると予想される若手ドライバーのひとりに過ぎなかった。

 2015年にトロロッソ(現アルファタウリ)からデビューしたサインツJr.は2017年のシーズン終盤、ジョリオン・パーマーの後任としてルノーに移籍した。しかしながら実は、ルノーは2018年シーズンの早い段階で、サインツJr.を2019年のドライバー候補から外すことを決めていた。

 というのも、ルノーは2019年にニコ・ヒュルケンベルグのチームメイトとしてダニエル・リカルドを獲得することを目標としていた。仮にリカルド獲得が失敗に終わった場合は、財政面に問題を抱えていたフォース・インディア(現レーシングポイント)からエステバン・オコンを引き抜くことを考えており、サインツJr.はせいぜい3番目のオプションといったところだった。

 そんな中、サインツJr.と彼のマネジメントチームは2019年シーズンに向け、マクラーレンを含めた様々な選択肢を模索していた。その中には、彼が当時も傘下に入っていたレッドブルへの移籍も含まれていた。仮にリカルドがレッドブルを離れてルノーに移籍するならば、マックス・フェルスタッペンのチームメイトとしてサインツJr.がレッドブル入りをする可能性も考えられたからだ。フェルスタッペンとサインツJr.は2015年にトロロッソでコンビを組んでいたが、先にトップチームへ昇格したのはフェルスタッペンの方だった。

 一方、マクラーレンが2019年シーズンの布陣として望んでいたのは、ワールドチャンピオン経験者のフェルナンド・アロンソをチームに留め、ルーキーのランド・ノリスとコンビを組ませることだった。そんな中で第2、第3、第4のオプションとして、リカルド、オコン、そしてサインツJr.と話をしていた。

 このような流動的な状況が生まれたことにより、多くのドライバーがリスクにさらされた。特にその筆頭と言えたのが、オコンとサインツJr.だった。

 仮にルノーがオコンと契約を結び、リカルド、アロンソがそれぞれレッドブルとマクラーレンに残留していれば、サインツJr.は2019年のレースシートを失っていたかもしれない。リカルドが移籍した場合でも、レッドブルは既にファミリーの手を離れたサインツJr.よりも、トロロッソに所属する若手ドライバーによって空席を埋めることを最優先しただろう。

 いずれにせよ、ルノー、マクラーレン、そしてレッドブルにとって、サインツJr.は第一の選択肢ではなかったのだ。

Alan Permane, Renault Sport F1 Team Race Engineer and Esteban Ocon, Racing Point Force India F1 Team

Alan Permane, Renault Sport F1 Team Race Engineer and Esteban Ocon, Racing Point Force India F1 Team

Photo by: Simon Galloway / Motorsport Images

 一方のオコンは需要が高く、ルノーとマクラーレンと交渉の席についていた。オコンはリカルドがレッドブルを離脱して移籍市場に並ぶ可能性を知っていながらも、ルノーとの交渉に一本化し、マクラーレンとの真剣な交渉を行なわなかった。その結果、リカルドがルノーに移籍することを決定したことで、オコンは2019年のレースシートを失ってしまった。

 アロンソが2019年はF1から離れることを決め、リカルドはルノー移籍が決定。オコンとの交渉がまとまらなかったマクラーレンは、サインツJr.をチームに迎えることにした。アロンソがチームを離れることを発表した2日後、サインツJr.の加入が発表された。契約期間は2年で、彼のキャリアの中で初の複数年契約だった。

■チャンスはいつやってくるか分からない

Carlos Sainz Jr, McLaren celebrates his third position on the podium with the McLaren team

Carlos Sainz Jr, McLaren celebrates his third position on the podium with the McLaren team

Photo by: Steven Tee / Motorsport Images

 サインツJr.はかねてより複数年での契約を望んでいた。レッドブルの育成プログラムからも完全に離れたサインツJr.は2019年、マクラーレンで自身の将来を心配することなく、パフォーマンスを発揮することだけに集中できる環境が整った。

 迎えた2019年は中団チームの争いが一層激しくなり、シーズンを盛り上げた。そんな中でサインツJr.は常に中団争いの主役であり続けた。安定して上位フィニッシュを続け、96ポイントを稼いでドライバーズランキング6位。仮にメルセデス、フェラーリ、レッドブルの3強チームを除いた“F1中団選手権”が開催されていたならば、サインツJr.は大差でチャンピオンに輝いたことになる。ハイライトは何と言っても、最後尾グリッドから自身初の3位表彰台を獲得したブラジルGPだ。

 サインツJr.の活躍もあり、マクラーレンは2012年以来最高順位となるコンストラクターズランキング4位を獲得。チームメイトのノリスとも良好な関係を築いた。

 当然のことながら、マクラーレンは2020年以降もサインツJr.と契約を結ぶことを望んでいた。サインツJr.本人も2月の時点で「急ぐ必要は全くない」としながらも、「マクラーレンにとても満足している。このプロジェクトと成功への道のりを信頼している」とコメントしていた。

 マクラーレンは長期的なプロジェクトに焦点を当てていることを明らかにしており、サインツJr.の存在はそのプロジェクトにおける大部分を占めていただろう。さらに今後予算上限が設定されトップチームと中団チームの差が縮まる可能性があることを考えれば、彼にとってもマクラーレンは悪い場所ではなかったはずだ。

Carlos Sainz Jr., McLaren MCL34

Carlos Sainz Jr., McLaren MCL34

Photo by: Steven Tee / Motorsport Images

 しかしそんな中でベッテルのフェラーリ離脱という大きな“爆弾”が落ち、様々な計画を大きく狂わせた。そしてフェラーリにひとつ空席ができるという最も重要なタイミングで、サインツJr.はその後任リストに名を連ねることができたのだ。

 彼のベストリザルトは3位1回。まだF1で勝てる力があることを完全に証明したとは言えないが、フェラーリが今求めているのはエースではなく、チームのニュースターであるルクレールの引き立て役であるということもまた事実。リカルドの方がサインツJr.よりもビッグネームであり、勝てる力があることも証明済みだが、今回フェラーリが求めているものに合致したドライバーではなかったと言える。

 サインツJr.のフェラーリ移籍劇は、ひとえに彼の2019年シーズンの活躍によるものだ。F1の世界で起きた出来事は、すぐに忘れられてしまう。巡ってきたチャンスをモノにできるかどうかが、直近のシーズンの活躍次第というのは、あながち間違いではない。

 こういったケースにはいくつかの先例がある。2012年にザウバーで表彰台を獲得しマクラーレンに抜擢されたセルジオ・ペレス、2018年にトロロッソで奮闘してレッドブル昇格を決めたピエール・ガスリーは、共に短期間でチームを離れることになったが、一方でキミ・ライコネン、アロンソ、ルクレールらは1年の印象的なシーズンによってトップチームに移籍した後、見事に定着してみせた。

 一方でトップチーム入りを果たせないままフェードアウトしていくドライバーも多くいる。ニコ・ヒュルケンベルグはまさに、適切なタイミングで適切な場所にいることができなかった典型例とも言える。

 近年で中団から“Aクラス”入りのチャンスを掴んだ最大の成功例はバルテリ・ボッタスであると言える。彼はニコ・ロズベルグが突如引退を発表した2016年シーズンで印象的な活躍をしていなければ、今とは大きく違ったキャリアを歩んでいたかもしれない。

 2年前にサインツJr.がフェラーリをドライブすることになると予想した人はほとんどいなかっただろう。彼はフェルスタッペンとのレッドブル昇格レースに敗れた後、ルノーからも見放された。しかしそんな中でも、彼は悩みを捨て、自分自身の才能を示すことだけに集中して戦い続けた。その結果、多くのドライバーが夢見るようなチャンスに巡り会えたのだ。

 

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