ヘイローが周冠宇の命を救った一方……完全破壊されたロールバーには改善の余地ありか
F1イギリスGPでは周冠宇の大クラッシュが発生した。これについては、事故で完全に破壊されたロールバーが調査の焦点になるかもしれない。
ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
Analysis provided by Giorgio Piola
F1イギリスGPのスタート直後には、アルファロメオの周冠宇のマシンが裏返しとなり、そのままランオフエリアを滑走した末にデブリフェンスに激突するという大きなアクシデントが発生した。FIAはこれまでにも大きな事故が発生した際には、ドライバーを助けた要因や改善が必要な領域を確かめるために調査を実施してきたが、今回の事故も間違いなく調査の対象となるはずだ。
その中でも綿密に調査されることになるとみられるのがロールバーである。これは事故後のマシンの写真では、完全に破壊されてしまっているように見える。
事故の写真や映像を見る限り、周のマシンのロールバーは最初に横転した時点から壊れてしまっており、周の頭部を保護したのは、ヘイロー(HALO)やその他の安全構造物であったことが分かる。
The accident involving Zhou Guanyu, Alfa Romeo C42 at the start of the race
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
FIAが調査したいのは、クラッシュの中でどのような力が働き、ロールバーにどのくらいの衝撃がかかったのか、という点だろう。
ひとつ要因として考えられるのは、今季のアルファロメオが半円型や三角形のものではなく、“ブレード型”と呼ばれるロールバーを使用していることだ。アルファロメオが1本の構造物からなるブレード型を採用したのは、2019年以来のことであった。
Valtteri Bottas, Alfa Romeo C42, in the garage
Photo by: Jerry Andre / Motorsport Images
このブレード型はかつて、2010年のメルセデスや2011年のフォースインディア、ロータスなどでも見られたデザインだ。
Mercedes W01 airbox comparison, full blade design used at this race, rather than compromises inset
Photo by: Giorgio Piola
2010年にメルセデスが初めてこの方式を採用した訳だが、柔らかい地面でマシンが裏返しになった際にこの細長いロールバーが刺さってしまうという懸念もあった。そこFIAは対策を講じ、レギュレーションでブレードの幅を広げることを決定した。
Force India VJM04 side pods comparison
Photo by: Giorgio Piola
ともあれ、このブレード構造は空力的にも重量的にも利点が多く、従来の半円型ロールフープよりも好まれてきた。特に今季はレギュレーションが刷新されたことで各チーム最低重量に近付けることに苦労しており、ブレード型は魅力的だったはずだ。
今回の事故を受けて、FIAはGセンサーやテレメトリーデータ、そして実際のパーツを調べることで、ブレード型のロールバーがオーソドックスなロールフープとは異なる結果を呼んだのか、精査していくことになる。
ただひとつ重要なのは、アルファロメオのこのデザインはFIAによるクラッシュテストを合格しているということだ。
Roll hoop test
Photo by: Giorgio Piola
ロールバー構造は、横方向に60kN(約6トン)、前後方向に70kN(約7トン)、そして垂直方向に105kN(約11トン)という荷重に耐えることが要求される。全てのチームはこのテストを経て、初めてマシンをF1で走らせることができる。
今回の周のケースでは、複数の異なる衝撃が複合的にかかったとみられる。
マシンが逆さまになったことにより、ロールバーには垂直方向に大きな力がかかった。そしてその後マシンがコース上を滑走していったことにより、前後方向への荷重が継続的にかかっていった。おそらく、ロールバーは最初の衝撃で完全にその“仕事”を果たした格好となり、それ以降はヘイローに依存する形になったと言えるだろう。今後はロールバーとシャシーの接合方法なども見直されることになるかもしれない。
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