マルコ博士のレッドブル離脱……背後にあった事情を検証する。そしてフェルスタッペンの将来など、今後どんな影響が及ぶのか?
ヘルムート・マルコ博士は、レッドブルと2026年末まで契約を結んでいたものの、今年限りで退任することになった。この裏には、どんな事情があるのか?
写真:: Mark Thompson / Getty Images
Power shift
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ヘルムート・マルコ博士が、今年限りでレッドブルを離れることが発表された。20年以上続いた時代が、幕を下ろした格好だ。
プレスリリースによれば、マルコ博士は自らモータースポーツ・アドバイザーとしての職を辞すことを決めたという。82歳という年齢を考えると、全く自然な流れだ。
レッドブルのオリバー・ミンツラフCEOはプレスリリースで、マルコ博士の退任を惜しむコメントを発表した。しかし実際には、この決断にはいくつかの要因があったと言える。
まずレッドブル・グループのオーストリア本社は、クリスチャン・ホーナーをめぐる社内の権力闘争をきっかけに、F1チームのオペレーションに対する管理を強化している。彼らはレッドブル、そしてレーシングブルズの安定と、組織の効率化を目指しているのだ。この傾向は他の部分でも顕著で、例えば広報部門は、ホーナーの退任と同時に、それまで責任者を務めていたポール・スミスも放出し、オーストリアのレッドブル本社が、公認の責任者を送り込む形になった。
■ドライバー決定権と広報上の懸念
Yuki Tsunoda, Red Bull Racing, Helmut Marko, Red Bull Racing
写真: Sam Bloxham / LAT Images via Getty Images
最近の出来事が、マルコ博士の立場を悪化させたようだ。そのひとつは、ドライバーの決定に関する問題だ。
マルコ博士はレッドブルのジュニアプログラムの責任者として、長きにわたって決定的な発言権を握ってきた。ただ最近のアービッド・リンドブラッドとアレックス・ダンの件で、問題が深刻化した。
リンドブラッドは、元々レッドブルが育成してきたドライバーあったため、来季F1に昇格させるという決定自体の懸念は少なかった。しかし一方でダンは、問題が少し深刻だった。
アイルランド出身のダンは、そもそもマクラーレンの育成ドライバーだった。しかし、マクラーレンでの将来に明確な道筋が見えないと感じたことで、同チームとの契約を解除。そこに目をつけたのがマルコ博士だった。マルコ博士は当時、『ダンはレッドブルに合っている』と語り、契約に向けて動いた。しかしレッドブル・グループの首脳陣はこのことを知らされておらず、さらにダンについての確証も持っていなかったとされる。
前述の通りマルコ博士は、長年にわたってドライバー決定に関する強力な権限を持っていた。そのため、彼が以前と同じようなやり方でダンをと接触したのは当然のことである。実際、過去にはそのやり方で成功を収めた実績もあるのだから。しかし、取り巻く組織は変化していた。
その観点からすれば、マルコ博士はアブダビGP終了後に「続けるには安心感が必要だ」と語ったことは、示唆に富んでいた。新たな現実の中で、相互の足並みは以前ほどは完璧ではなくなった。
それに加えマルコ博士は、常に率直に意見を述べる人物としても知られてきた。広報活動がますます管理的になるF1ににいて、彼は例外的な存在であり続けたのだ。彼に並ぶ古参は、故ニキ・ラウダくらいではなかっただとうか。
マルコ博士はパドックで常に親しみやすく、言葉を包み隠すこともなかった。他チームのリーダーたちとは異なり、広報担当者を同伴することも決してなかった。そのためレッドブル・グループの首脳陣は、メディアを通じてマルコ博士のコメント内容を初めて知る……そういうことも多かった。
そのことは、メディアや一部のファンにとっては歓迎すべきことであった。しかし一方で、レッドブル・グループ内部には、その状況を良しとしない人も多くいた。
最近の例では、カタールGPでマルコ博士が、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が故意にノリスに順位を譲ったと発言した件が挙げられる。これによりアントネッリにはSNS上を中心に、数多くの非難する声が浴びせられた。SNS上での炎上事案は、マルコ博士の発言とは関係ないと擁護する向きもあったが、それでもレッドブルは公式に謝罪することになった。
組織として一貫性を求める中では、広報面で連携することは理に適っている。そんな中でマルコ博士の存在は、陣営としても扱いにくいモノになっていたのかもしれない。
■フェルスタッペンの将来に影響は及ぶのか?
Max Verstappen, Red Bull Racing
写真: Erik Junius
ではマルコ博士が退任したことで、フェルスタッペンの将来にどんな影響を及ぼすことになるのだろうか?
マルコ博士はフェルスタッペンをF1にデビューさせるなど、彼のF1キャリアにおいて極めて重要な役割を果たしてきた。
かつてフェルスタッペンは、メルセデスとレッドブルの間で取り合いになった。メルセデス側はこの時、2015年にGP2で1年間走ることを提案したが、レッドブルがフェルスタッペンに即座にトロロッソ(現レーシングブルズ)のシートを与え、契約に成功した。その中心にいたのがマルコ博士だった。
フェルスタッペンとマルコ博士の信頼感は、その後どんどん高まっていった。2024年のサウジアラビアGPの際、ホーナーとの権力闘争によってマルコ博士の立場が脅かされた時、フェルスタッペンはマルコを擁護する立場を取り続けた。「ヘルムートが去らなければいけないなら、僕も去るよ」とまで言った。
このことは、マルコ博士が離脱したことが、フェルスタッペンの将来にも直接的な影響を与える可能性を示唆しているように思える。しかし関係者によれば、現実はもう少し複雑だという。
オーストリアのレッドブル・グループ本社、そしてタイの共同オーナー家は、フェルスタッペンを全面的に支援することを再確認している。彼がレッドブルというブランドにとって計り知れない価値を持っていることを考えれば、これは驚くべきことではないだろう。
フェルスタッペンは日曜日、今のチーム内部の雰囲気に満足していると語った。さらに昨年チャンピオンに輝き、今年はそれを逃したにもかかわらず、アブダビGPでは1年前よりも良い感触だったとも語っている。つまり2024年シーズンを終えた時点でフェルスタッペンは、チームに大いに不満を抱えていたということだろう。
その後、ホーナーの跡を継いでチーム代表に就任したローレン・メキーズと、ミンツラフCEOは、安定性を組織として優先しようとしている。それが成功するかは未知数ではあるものの、徐々にその方向には進んでいるようだ。
フェルスタッペンにとって、全ては依然としてふたつの要素にかかっている。2026年のコース上でのパフォーマンスと、F1の新しいレギュレーションを気にいるかどうかだ。
チームのパフォーマンスが低ければ、彼は移籍先を探すことになるだろう。新しいレギュレーションに満足できなければ、F1から去る可能性も否定できない。
フェルスタッペンのマネージャーであるレイモンド・フェルミューレンは最近、2026年はフェルスタッペンの将来にとって重要な年になると語った。マルコ博士が退任したことで、契約にあったとされる”マルコ条項”は無効になった。しかし、パフォーマンス条項は今後も残り続けるはずだ。つまり来季のレッドブルのパフォーマンスに、全てがかかっていると言える。
レッドブルは来季から、自社(レッドブル・パワートレインズ)製パワーユニットを使うことになっている。その出来が、大きく左右することになるだろう。
レッドブルがマルコ博士抜きでどんな組織を作ろうとしているのか、そして誰が今後の若手ドライバープログラムを担うことになるのかは、依然として不明だ。しかしチームは長期的に持続可能な構造を模索しており、この冬の間により多くの変更が行なわれる可能性がある。
マルコ博士はこれまでの間に、輝かしい功績を残した。レッドブル在籍中に8回のドライバーズタイトルと6回のコンストラクターズタイトル獲得、そして130回の優勝に貢献した。そしてセバスチャン・ベッテルとフェルスタッペンのふたりのチャンピオンの他にも、数多くのF1ウイナーを見出してきたのもマルコ博士だ。
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