特集

使用禁止になった”画期的”デバイス3:抜群の安定感を実現させた『マスダンパー』

2000年代中盤に成功を収めたルノーF1チームだが、その成功の一因となったのが『マスダンパー』という秘密兵器。FIAによって禁止されるまで、他のチームもこぞって追随した。

Renault R25 mass damper banned

ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】

Analysis provided by Giorgio Piola

 ルノーは2006年シーズン、R26に『マスダンパー 』と呼ばれるデバイスを導入した。これは非常に効果的に機能し、ルノーが2年連続のダブルタイトルを獲得する原動力となった。

 ルノーは効果的にダウンフォースを発生させるため、フロントウイングをできるだけ地面に近付けようとしていた。そのため、フロントスプリングはかなり硬く設定する必要があった。

 しかしながら、これらはチームが空力のパフォーマンスを追求するにあたって悩みの種となるものだった。スプリングを硬くしてしまうと、マシンが縁石やバンプに乗った際に跳ねてしまう。これを打ち消す方法を見つけるため、様々な試みを行なった。その結果生まれたのがマスダンパーだった。

 この時代のマシンは、現在のマシンと比較して最低重量制限をクリアすることが比較的容易であったため、足りない重量をバラストを積むことで調整……特にフロントに荷重を寄せていた。よってルノーがマスダンパーを追加で取り付けることも、それほど難しいことではなかったのだ。

 重りとバネからなるマスダンパーは、ノーズコーンの中に吊り下げられており、マシンにかかる縦方向の力に応じて作用した。これにより、マシンが跳ねたり沈んだりした際にもマシンの重心やダウンフォース量が変化しにくいようにしたのだ。

 バラストは通常、マシンの最も低い場所に搭載されるため、マスダンパーの搭載場所は欠点のひとつと見られていたが、一方でテストの結果ではラップタイムの向上が見込まれることが既に確認されていた。チームは2005年頃からマスダンパーの開発に取り掛かり、2006年シーズンからマシンに搭載した。

 ルノーのマシンはマスダンパーを搭載したことにより、縁石をより攻撃的に使うことが可能となり、より安定したドライビングが可能となった。特に2006年マシン『R26』はマスダンパーの利点が最大限活かされており、フェルナンド・アロンソは開幕から9戦連続で1位ないし2位でフィニッシュするなど、安定感のある走りを見せた。

 この時代のF1ではブリヂストンとミシュランによるタイヤ戦争が勃発しており、ルノーはミシュランタイヤユーザーであったが、それはさらに好都合だった。ミシュランタイヤはマスダンパーの動作により適した構造にあったのだ。

Renault R26 2006 exploded overview

Renault R26 2006 exploded overview

Photo by: Giorgio Piola

 ルノーはマシン後部にもマスダンパーを追加するなど、このデバイスをさらに充実させた。マスダンパーはルノーが最初に導入したものと考えられているが、ライバルチームたちもすぐそれに追随した。これにより開発競争が勃発し、デバイスはますます複雑化していった。

 そんな中、FIAは2006年シーズン途中に、マスダンパーが『可動式空力デバイス』にあたるとして、使用を禁止した。同年はフェラーリとミハエル・シューマッハーの追い上げにも屈せずダブルタイトルを獲得したルノーだったが、翌2007年シーズンはアロンソの離脱もあり、タイトルコンテンダーから脱落してしまった。

 

Read Also:

Be part of Motorsport community

Join the conversation
前の記事 鈴鹿サーキットとツインリンクもてぎ、臨時休業を当面延長
次の記事 マクラーレンCEO「カスタマーカーは“無償で”提供されるべき」と主張

Top Comments

最新ニュース

バスティアニーニ、地元戦3位は「素晴らしいこと」雨の難コンディションに”乗り換えが正解か?”と疑心あったと明かす

バスティアニーニ、地元戦3位は「素晴らしいこと」雨の難コンディションに”乗り換えが正解か?”と疑心あったと明かす

MGP MotoGP
Misano Official Testing
バスティアニーニ、地元戦3位は「素晴らしいこと」雨の難コンディションに”乗り換えが正解か?”と疑心あったと明かす
F3ランク2位のミニ、マグヌッセンの代役でF1参戦のベアマンに代わり”ひと足早く”F2昇格「来季に向け絶好のチャンスになる」

F3ランク2位のミニ、マグヌッセンの代役でF1参戦のベアマンに代わり”ひと足早く”F2昇格「来季に向け絶好のチャンスになる」

F2 FIA F2
Baku
F3ランク2位のミニ、マグヌッセンの代役でF1参戦のベアマンに代わり”ひと足早く”F2昇格「来季に向け絶好のチャンスになる」
いざ母国・日本戦へ。トヨタ、WEC富士に向け意気込み語る。小林可夢偉「ここでは10戦9勝。その記録を更新することが目標」

いざ母国・日本戦へ。トヨタ、WEC富士に向け意気込み語る。小林可夢偉「ここでは10戦9勝。その記録を更新することが目標」

WEC WEC
いざ母国・日本戦へ。トヨタ、WEC富士に向け意気込み語る。小林可夢偉「ここでは10戦9勝。その記録を更新することが目標」
ヒョンデ代表、2026年以降のWRC参戦は未確定事項と明かす。ヌービルとの1年契約が撤退の噂加速させるも「今発表できるのがそれだけなんだ」

ヒョンデ代表、2026年以降のWRC参戦は未確定事項と明かす。ヌービルとの1年契約が撤退の噂加速させるも「今発表できるのがそれだけなんだ」

WRC WRC
Rally Greece
ヒョンデ代表、2026年以降のWRC参戦は未確定事項と明かす。ヌービルとの1年契約が撤退の噂加速させるも「今発表できるのがそれだけなんだ」

Sign up for free

  • Get quick access to your favorite articles

  • Manage alerts on breaking news and favorite drivers

  • Make your voice heard with article commenting.

エディション

日本 日本