F1はコロナ危機を乗り越えられるのか? 投資格付けムーディーズ評価は“B2”
新型コロナウイルスの影響によって開幕が遅れているF1。彼らが2020年に財政的な痛手を受けることは間違いないが、シーズン全体がキャンセルとなった場合でも生き残ることはできるのだろうか?

F1の2020年シーズンは新型コロナウイルスの世界的流行の影響を受け、3月に予定されていた開幕戦から6月初旬までの8戦が中止または延期という措置を受けた。
現時点では14レースが開催カレンダーに残っているが、延期されたグランプリが今後どういった日程で組み込まれるかは依然として不明だ。
F1のCEOであるチェイス・キャリーは、今シーズン中に15〜18レースを行なう可能性はまだある、と語っていたが、時間の経過とともにその現実味は薄れつつある。
F1がいったいどんな困難な状況に向かっているのかを読み解くことは、ウォールストリートのアナリストが居なくとも可能だ。F1の契約収入の大部分は“実際にグランプリが開催されるか”という要因に依存しているためだ。
フォーミュラ・ワン・グループの収入は2019年ベースでは20億2200万ドル(約2200億円)だ。彼らの収入は3つの主要収入源に分けることができ、レース開催権料(30%)、放映権料(38%)、スポンサーシップ(15%)が大部分を占める。その他にパドッククラブのホスピタリティやF2/F3事業の収入となっている。
当初、2020年のF1は増収となることが予想されていた。年間のレース開催数が22戦に増加したためだ。しかしCOVID-19によって開催が不可能となれば、1戦あたり3000万〜5000万ドル(約32億〜54億円)の収入を失うような状況にあるのだ。
開催権料は前もって支払われているが、中止となった場合に返金されるのか、それとも2021年シーズンの前払いという形でF1が保持できるかという疑問も生じる。
中止による開催権料の損失は直接的な影響に過ぎない。グランプリの中止はそれ以外の収入源にも影響を及ぼすためだ。
放送局はF1のフルシーズンを放送するために放映権料を支払っているため、グランプリ全体の数が縮小すると、彼らは広告主や視聴者との契約の間に妥協を見出すことになるはずだ。
さらに今シーズンのレースが15戦を下回った場合(奇しくもキャリーCEOが示したレース数の最小の数だ)、放送局はその数に応じて部分的な払い戻しを受けることになっている。最終的にシーズン全体のキャンセルとなり何も放送するモノがなかった場合、F1は放送権料の支払いを期待することは非常に難しい。
ハイネケン、DHLそしてエミレーツ航空といったF1の主要スポンサーとの契約にどのようなキャンセル条項が存在するかは不明だ。ただ結局のところ、シーズン全体が中止になるようなことを誰が予想できただろうか。
しかし完全なレーススケジュールでブランドを宣伝できない場合には、放送権料と同じように完全な支払いは期待できないはずだ。
■どうなる、フォーミュラ・ワンの未来/投資格付けムーディーズの予想

Chase Carey, Chairman, Formula 1
Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images
それでは2020年シーズンの開催カレンダーが縮小する中で、F1の商業的な見通しはどういったものになるのだろうか?
債権の格付けなどの財務情報を提供するムーディーズ・インベスターズ・サービスは、F1について興味深い評価内容を発している。そのなかでムーディーズは、F1はいくつかの条件こそあるものの、この“嵐”を乗り切る能力があるとした。
ムーディーズが2日に発行したレポートの中で、F1(正確には持株会社のAlpha Topco Ltd.)に対して「B2」という評価を与えた。これはある程度のリスクを伴う格付けだ。
彼らによるF1の当面の見通しはこうだ。
「新型コロナウイルスの急速な拡大、グローバル経済の見通し悪化や原油価格の急落、資産価値の減少は多くの地域やマーケットで深刻で広範な信用ショックをもたらしている」
「これらの複合的な信用への影響は前例のないものであり、レースカレンダーの混乱によりF1に悪影響を及ぼしている」
「現段階では2020年シーズンの帰結を予想することは不可能であり、15〜18戦のシーズンから、全て中止されるという結果まで、様々な帰結が考えられる」
そしてムーディーズはその影響を「2020年はレースカレンダーの混乱の結果、収益とキャッシュフローの創出が弱まり、レバレッジはより高く、流動性は低下することが予想される」と記している。
平たく言うと、F1は2020年を乗り越えるためには貯蓄を切り崩し、より多くの借入をしなければならないと予想されているのだ。
またムーディーズは2021年以降のコンコルド協定を締結する必要があること、主要な放送契約が2020年に切れるなど、F1が多くの課題に直面しているとも指摘している。
しかしそれでもムーディーズはF1がこの状況を乗り越えることができると、そして仮に2020年シーズンが完全に中止され、収入が全滅したとしても2021年以降に回復することは可能だと見ている。
その根拠を彼らは次のように説明している。
「F1は2020年シーズンの深刻な活動縮小が起きたときも、管理するための強力な流動性や十分に柔軟なコストベースを持っており、ムーディーズは彼らが完全な中止を支えることが可能だと考えている」
「2019年12月31日時点で、F1は事実上約9億ドル(975億円)の猶予を手にしている。これは4億ドル(約430億円)のキャッシュと5億ドル(540億円)の信用枠によってなる物だ」
「ムーディーズは、2020年シーズンが中止された場合でも、プロモーターやスポンサー、放送局への払い戻し、チームへの支払いやその他間接費などの生じる可能性のあるキャッシュフローを吸収するこのに十分な額だと予想している」
「完全なシーズン中止というシナリオにおける信用枠の評価は複雑であり、流動性が十分ではないリスクは残るが、ムーディーズはこのリスクは低いと考えている」
ムーディーズは借入における制限条項などのリスクも警戒すべき問題はあるとしているが、全体としてはF1は2020年を無事に乗り切ることが可能だと考えている。
F1の年間コストで最も大きな物は、各チームへの支払いだ。ただ収入がゼロに向かうにつれて、支払い総額も縮小していく。バーニー・エクレストン時代よりは大きな賃金総額があるものの、輸送や旅費などのレース関連のコストも大幅に削減される。
加えてレースの大半やTV、スポンサーとの契約は2021年以降に向けて行われているため、論理的には、長期的な収入が保証されていると言える。
これらの事によりムーディーズは「F1は契約収入の性質や、強力なフランチャイズ、大規模なファンの基盤そして高いキャッシュ変換に裏打ちされていることにより、コロナウイルス危機後の回復に向け比較的適切な位置につけている」と結論づけた。
「F1は2021年には放送契約の更新や、弱含むマクロ経済を背景に収益面で課題に直面する可能性がある」
「しかしF1フランチャイズの強さと魅力はより広い放送市場でのある程度の保証を提供している」
こうした予想どおりにF1が2020年を乗り越えることができるかは、F1に参戦する10チーム全てにもかかっている。彼ら全チームが2020年を乗り越え、新たなコンコルド協定を結ぶことができなけば、F1の魅力は大きく弱まってしまうだろう。

The sun rises over the paddock.
Photo by: Sam Bloxham / Motorsport Images
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