分析

ホンダが2026年にF1正式復帰するなら、もっとも理想的なパートナーはアストンマーチン……アストンマーチン・ホンダは実現するか?

まだ2026年以降のF1参戦について態度を明確にしていないホンダ。しかし、もしホンダがF1に復帰することとなれば、最適なパートナーはアストンマーチン……ということになるかもしれない。

Fernando Alonso, Aston Martin AMR23, Lance Stroll, Aston Martin AMR23

 motorsport.comのイタリア版では今週、ホンダが2026年から、アストンマーチンにF1パワーユニット(PU)を供給するのではないかと報じた。

 ホンダは2026年以降のPU製造者登録を、HRC(ホンダ・レーシング)名義で既に済ませているが、現時点でもまだF1に本格復帰を果たすかどうかは不透明なままという状況だ。

 ではこのアストンマーチンとホンダの提携は、実際にはどれほど信憑性のあるものなのだろうか?

 ホンダは2021年限りでF1活動を終了させたが、2022年以降もHRCを通じて、レッドブル・パワートレインズにPUを供給。そのPUをレッドブルとアルファタウリが使っている。

 2026年からはF1のPUに関するレギュレーションが一新され、MGU-Hの排除、そしてカーボンニュートラル燃料の使用が義務付けられることになっている。その新時代のF1には多くのメーカーが興味を示しており、現在のメルセデス、フェラーリ、ルノーに加え、アウディもPUマニュファクチャラーとしての新規参戦を表明。また、レッドブル・パワートレインズはフォードと手を組み、独自のPUを作る予定だ。

 これに加え、前述の通りホンダもPU製造者登録を済ませているが、参戦するかどうかの態度は明らかにしていない。にもかかわらず、ホンダ/HRCには複数のF1チームからコンタクトがあったのも事実。これは、HRCの渡辺康治社長も今年の2月に認めている。

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 すでにレッドブルは、フォードと手を組むことを決めているため、ホンダがF1に”復帰”することとなれば、新たなチームをパートナーに迎え入れなければならない。新規参入チームがない限り、現実的な選択肢と言えるのは、マクラーレン、ウイリアムズ、そしてアストンマーチンの3チーム。いずれも、現在はメルセデス製PUを使うカスタマーチームである。

 ウイリアムズは、2026年以降のPUについて「現時点では、チームが利用できるすべてのオプションを、確実に理解している過程」だと、チーム代表のジェームス・ボウルズが語っている。しかしボウルズは、最近までメルセデスの戦略担当エンジニアだった人物。「メルセデスに縛られているわけではない」と語っているが、関係性の近さは疑うべきもないだろう。

 マクラーレンは、1980年代に黄金時代を築いたコンビながら、2015〜2017年のパートナーシップは不調に終わり、契約を早期に終了させたという経緯がある。再び手を組むのは、そう簡単ではないはずだ。

 またマクラーレンの今季の新車MCL60の発表イベントで歴代の伝説的なドライバーを紹介するコーナーがあったが、そこでアイルトン・セナの代表的マシンとして紹介されたのは、ホンダエンジンを搭載したチャンピオンマシンではなく、フォードエンジンを搭載し、奮闘するもチャンピオンには手が届かなかったMP4/8だったというのも、深読みしすぎかもしれないが、マクラーレンとホンダの関係が近くないことを示す一例であるように見える。

 そう考えると、アストンマーチンが最も理想的なパートナーであるように思える。アストンマーチンのオーナーであるローレンス・ストロールは、チャンピオン獲得に挑戦するという野心を隠さない。実際チームには確かな投資が行なわれており、今季は開幕3戦を終えた時点でコンストラクターズランキング2番手と躍進。巨大な新ファクトリーも稼働し、独自の風洞もまもなく完成する予定である。トップチームになるための階段を、確実に登っている。

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 ただ、足りないものがある。それはワークスPUだ。過去を振り返っても、カスタマーエンジンを使ったマシンでチャンピオンに輝いたドライバーはほとんどいない。1980年代前半までは、フォード・コスワースDFVが隆盛を誇り、チャンピオンを獲得していたが、1983年以降を見ると、ワークスではないチームのドライバーがチャンピオンに輝いたのは、2009年のジェンソン・バトン(ブラウンGP)のみと言える。

Red Bull Racing RB18 with Honda logo

Red Bull Racing RB18 with Honda logo

Photo by: Giorgio Piola

 そういう意味では、アストンマーチンとしてはワークスPUは喉から手が出るほど欲しいモノだろう。それが現チャンピオンPUのホンダとなると、なおさらだ。

 ただ、それが簡単ではない理由もある。アストンマーチンは現在、リヤサスペンションとギヤボックスをメルセデスから購入している。つまりホンダと組むことになれば、これらを自前で用意しなければならないわけだ。ただ、同様にフェラーリのギヤボックスを使っているザウバー(現アルファロメオ)は、アウディと組むにあたってギヤボックスを自社製とすることを選んだ。そういう意味では、アストンが同じ道筋を辿るのは不可能ではない。

 テクニカルディレクターのダン・ファロウズは昨年12月、メルセデスのパーツの使用量を減らす計画は現時点ではないものの、将来に向けてすべての選択肢を捨ててはいないと語った。

「このチームが、メルセデスとの関係から得たモノは計り知れない」

「でも将来についてはすべての選択肢が可能だ。ローレンスはこのチームに対する野心について非常にオープンであり、競争力を高めるために役立つ、次のモノは何なのか、常に評価する必要がある」

 ホンダにとっても、アストンマーチンは理想的な提携候補だと言える。マクラーレンに関しては、前述の通り契約を解消せざるを得なかった過去があるし、ウイリアムズは今後2年でトップチームにまで成長できるかどうか、不透明な部分もある。しかしアストンマーチンは実際に大きく成長して見せ、設備も十分。さらに優秀な技術スタッフも揃いつつある。

 そしてもうひとつ大きいのが、マーティン・ウイットマーシュの存在だ。

Martin Whitmarsh, Team Principal, McLaren

Martin Whitmarsh, Team Principal, McLaren

Photo by: Andrew Ferraro / Motorsport Images

 ホンダが2015年にF1に復帰した際、マクラーレン側の交渉の窓口となったのがウイットマーシュだ。ウイットマーシュはその後、ホンダのF1復帰を待たずにマクラーレンを離れ、2021年の9月からアストンマーチン・グループのCEOに就任した。

 そのウイットマーシュはアストンマーチンに加入する前、マクラーレンとホンダのパートナーシップについて、次のように語っていた。

「妥当な解決策だったと思う」

「競争力のある優れたワークス契約など、滅多に実現しない。しかし、それを手に入れなければならない。毎年勝ちたいし、長期的な視野でも勝利を手にしなければいけない。ただそのためには、痛みも負わなければいけないこともある」

 ウイットマーシュは、前述の通りホンダのF1復帰を待たずにマクラーレンを去った。つまり、契約解消に至ったその場には彼はいなかったため、ホンダとの間に軋轢は無いと言っていいはずだ。そしてホンダのことを高く評価していた。

「彼らはレースという文化を持っている。おそらく、どのメーカーよりも強くそれを持っている」

 ウイットマーシュはかつてホンダについてそう語っている。

「(1980年代に)ホンダと関わり始めた最初の頃、本田(宗一郎)さんはまだご健在だった。そして彼らホンダは、今もそのレースの文化を持ち続けている。究極まで徹底して追求し、そして誇りを持っているんだ」

「F1で勝ったエンジンを振り返ってみると、それは通常、慣習を洗練することによって成し遂げられてきた。大きなイノベーションによるものではなかったんだ。イノベーションに挑むメーカーや個人は、混乱するものだ」

「誰もが教訓を得て、そしてそれをコントロールするようになる。だからホンダは遅かったんだろう。しかしロン(デニス)のアグレッシブな運営に移行し、その時点で関係性は終了した。彼はその状況をマネジメントするのではなく、叩きのめすことにしたんだ」

Honda F1 logo

Honda F1 logo

Photo by: Autosport

 なお、ひとつ気がかりなのはフェルナンド・アロンソの存在だ。アロンソはマクラーレン・ホンダで苦労。当時、ホンダPUのことを「GP2エンジン」と揶揄したことはあまりにも有名だ。アロンソとホンダの関係性については、修復する必要があるかもしれないが、アロンソはのちに、ホンダを叱咤激励するための言葉だったと説明しており、大きな問題にならない可能性もある。もちろん、アロンソが2026年まで現役を続けていれば……の話だが。ちなみにアロンソは2026年には45歳になる。

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 東京・青山にあるホンダの本社。その目の前の通り、青山通りを挟んだ向かい側には、アストンマーチンの日本の拠点が存在している。両者がF1で手を組むことは、果たしてあるのだろうか? ただレッドブルとホンダが手を組んだ2019年、レッドブルのタイトルスポンサーを務めていたのがアストンマーチンだったため、すでに両者はF1を”共に戦ったことがある”という間柄でもある。

 
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