特集|なぜ女性F1ドライバーがいないのか? クルサードの新育成機関が目指す未来とは
motorsport.comは、女性レーシングドライバーにF1を目指す道筋を創る野心的なプログラムを立ち上げた元F1ドライバーのデビッド・クルサードと彼のビジネスパートナー、カレル・コマレックにインタビューを実施。彼らが進めるプロジェクトの真意について話を聞いた。
写真:: Alpine
Motorsport Business
Covers any motorsport business related content
デビッド・クルサードは、30年以上に渡るモータースポーツキャリアの中で多くの功績を成し遂げてきた。
運送業を営む裕福な家に生まれ、彼はモータースポーツの道へ進んだ。そして彼の妹であるリンゼイも同じように幼少期からチャンスを与えられ、カートレーサーとして活躍した。
デビッドは様々なカテゴリーで勝ち上がり、世界チャンピオンこそ手が届かなかったもののF1キャリアの中で13勝、85回の表彰台を獲得した。しかしその一方で、リンゼイは多くの女の子と同じように、F1へ進む道はないとして10代でキャリアを止めてしまった。
F1で最もよく聞かれる質問のひとつにこういうモノがある。
”なぜ女性のF1ドライバーはいないのか?”
1950年のシルバーストン・サーキットで始まったF1世界選手権は今年で72年目を迎え、2019年の中国GPで1000レース目を迎えた。数多くのドライバーがF1を走り、彼らの出生も世界各国様々……しかし、決勝レースを走った女性ドライバーはたった2名に留まっている。入賞はそのふたり目のドライバーであるレラ・ロンバルディが1975年スペインGPで掴んだ0.5ポイントだけだ(6位入賞も事故によりレース打ち切りでハーフポイント)。
この疑問を解決するために、この10年の間に多くの取り組みが始まった。FIA主導の「ガールズ・オン・トラック」プログラムから、クルサードが創設パートナーを務める女性限定フォーミュラカテゴリー「Wシリーズ」まで、取り組みの数は年々増え続けている。
しかし、F1への道を切り開く最初の一歩……つまり早い段階での才能の発掘と、F1へのステップアップに必要な資金援助や専門的なサポートについては、これまであまり触れられてこなかった。モータースポーツは総じて一般的な”習い事”としては非常に高額な部類にあり、外部のサポートが必要になるケースがほとんどだ。
ルイス・ハミルトンからランド・ノリスまで、ほとんどの有名男性F1ドライバーは、何らかの形で幼少期より資金援助や専門的なサポートを受け、下位カテゴリーを戦いF1まで辿り着いている。
妹リンゼイ、そして若い女性ドライバーを取り巻く実情を知るクルサードは、友人であるチェコの実業家カレル・コマレックと提携し、フィットネス、ドライバーコーチング、心理学、スポンサーシップなどドライバーのキャリア形成に必要なあらゆる分野の専門家を集めた非営利の育成機関「More than Equal」を立ち上げた。
このMore than Equalは、初め10年間の期限付きで運営される予定となっている。
デビッド・クルサードとカレル・コマレック
Photo by: Alpine
コマレックは、ヨーロッパ各国でナショナルロト(国営宝くじ)を経営しており、最近では彼の会社であるオールウィン・エンターテイメントはイギリスのナショナルロトのライセンスを獲得した。
彼は共産主義時代のチェコスロバキアで育ち、西側とのビジネスネットワークから遮断された世界にいたというバックグラウンドを持ち、それは女性ドライバーを取り巻く現状に通じるモノがあると語る。
「国は鎖国状態で、我々は旅行することも、競争することもできなかった。この25年間で、私は多くのことを学んだ」とコマレックは言う。
「同じことが若い女性ドライバーにも当てはまる。10歳から12歳の時、最初に才能を見極め、才能があるかどうか、他の男性ドライバーと競争できるかどうかを確認するチャンスすらなければ、似た結末になる」
クルサードは、F1ドライバーのトレーナーを多く抱えるHintsa Performanceなどの一流企業の協力を得て、業界最高レベルのパフォーマンスコーチング、メンタル強化施設をプログラムのために用意するとしている。
アドバイザーには、かつてF1ホスピタリティ・エクスペリエンスディレクターを務めたケイト・ビーバンや、ハイネケンからジュリア・ジョージ、ハミルトンの父アンソニーなどの名前が並んでいる。
「私のF1での経験や、カレルのビジネスの経験と献身、そしてやる気のある良い仲間を集めれば、素晴らしいチームになる」
クルサードはそう続ける。
「我々がポジティブな影響を与えられず、将来に向け才能のある人たちをサポートし維持出来なければ、一体誰ができるんだ?」
「F1チームは自分たちがやっていることで精一杯なんだ。率直に言って、彼らはそのレベルのサポートには興味がない。我々がやるのは才能のあるドライバーを生み出しサポートすること……そして若手ドライバープログラムへ参加できるように選出すること。違いはそこにある」
「我々は変化をもたらすことができると信じているからこそ、それは我々にとって嬉しいことなのだ」
「誰もやらなければ、何も起こらない。Wシリーズがその一例だ。賛否両論あるかもしれないが、多くの女性がスポットライトを浴びていることに間違いはない」
「これは金銭的に何かが得られるかということではない。持続的な財政プラットフォームを構築するためのモノだ。初期段階では我々がサポートしていく必要があるが、自分たちのブランドを越えたパートナーを見つけたいと思っている」
「我々は長期的にこの事業に取り組んでいきたいと思う。つまり、我々が生きている間はこのプログラムをサポートしたいのだ」
More than Equalの発足会は、F1イギリスGPに先立って行なわれたが、そのニュースはネルソン・ピケのハミルトンに対する人種差別的発言など一連の騒動でかき消された。続くオーストリアGPではサーキットを訪れたファンの中で、人種差別や性的な冷やかしなどハラスメントが横行した。
モータースポーツはあらゆる面で多様かつ包括的になるべく少しずつ歩みを進めているが、旗振り役となるべきF1がそういった現状にあるということからも、それが困難な道のりであることは火を見るより明らかだ。
ザウバーでF1テストドライバーも務めたタチアナ・カルデロン。現在はFIA F2に参戦中。
Photo by: Manuel Goria / Motorsport Images
More than Equalでは、データや調査を通じて「強さがない、攻撃性が足りない、危険な状況に身を置きたがらない」といった女性ドライバーに対する誤解を解くことを目指している。こうした誤解は女性ドライバーの”障壁”となってきた過去がある。
しかし、クルサードは2012年と2016年のオリンピック女子ボクシング・フライ級で金メダルを獲得したニコラ・アダムスや、アフガニスタン紛争に従軍した女性戦闘機パイロットチームなどを例に挙げ、性別を問わずレーサーであればマシンに乗る時にケガをすることは考えないとして、それが女性と男性では異なるという指摘を否定している。
クルサードは1994年、サンマリノGPで亡くなったアイルトン・セナの後任としてウイリアムズからF1デビュー。当時の体験を例に挙げ、厳しい心境の中でのドライブについて語っていた。
「思いもよらないことだ」とクルサードは言う。
「私がどのようにしてF1に入ったか、アイルトンのことを思い出してほしい。文字通り3週間後、僕は同じマシンに乗っていたんだ」
「私はマシンをテストしていて、イモラで彼より先にシェイクダウンをした。知っての通り同じシャシーだった。レースの神様の悪戯としか言いようがない」
女性F1ドライバー誕生に大いに役立つのは、有名ドライバーの”二世”であることだろう。
ニコ・ロズベルグやセバスチャン・ベッテル、ファン・パブロ・モントーヤといったドライバーには娘がいるが、彼女たちはモータースポーツを勧められてはいない。しかしミカ・ハッキネンの娘エラはカートに乗っておりそろそろ10代に入るかという年齢だ。
マクラーレンでチームメイトだったクルサード曰く、「ミカはそれに関して熱心だ」という。
More than Equalの詳細については、www.morethanequal.comをチェック。
Be part of Motorsport community
Join the conversationShare Or Save This Story
Subscribe and access Motorsport.com with your ad-blocker.
フォーミュラ 1 から MotoGP まで、私たちはパドックから直接報告します。あなたと同じように私たちのスポーツが大好きだからです。 専門的なジャーナリズムを提供し続けるために、当社のウェブサイトでは広告を使用しています。 それでも、広告なしのウェブサイトをお楽しみいただき、引き続き広告ブロッカーをご利用いただける機会を提供したいと考えています。
Top Comments