ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】
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ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】

メルセデスは、シーズン後のテストを活用するため、アブダビGPを犠牲にした?

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メルセデスは、シーズン後のテストを活用するため、アブダビGPを犠牲にした?
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協力: Matthew Somerfield

最終戦アブダビGPでレッドブルのマックス・フェルスタッペンに完敗を喫したメルセデス勢。しかし彼らは将来のため、この1戦を犠牲にしたのではないかという疑念が生じている。

 2020年シーズンは、メルセデスがまさに席巻した1年となった。17戦中実に13勝。コンストラクターズポイントでは、2位レッドブルに250ポイント以上の差をつけた。

 しかし最終戦アブダビGPでは、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンに太刀打ちすることができず、約16秒の差をつけられて敗れることになった。

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 たしかにメルセデスは、最終戦でパワーユニットの走行可能距離の残りに懸念を抱えており、出力を落としていたと言われる。しかし予想外に大差での敗北となったことで、他にも要因があったのではないかとも言われている。

 メルセデスは、2021年に向けた開発に集中するため、2020年用マシン”W11”の開発を早々に終了させている。同チームは元々、短期的な競争力を求めるよりも、長期的な利益を優先する傾向にある。アブダビGPでも、そのアプローチが機能していた可能性があるというのだ。つまり、アブダビGPのすぐ後に行なわれた若手ドライバーテストを最大限に活用するため、最終戦を”捨てた”可能性が指摘されているわけだ。

Car of Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1

Car of Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1

Photo by: Giorgio Piola

 実はメルセデスは、以前にも同様のことをしている。テストで走らせることができるマシンは、基本的にはレースで走行したのと同仕様。そのため過去2年間、フロアにピトー菅を追加し、最終戦とその後のテストを走行した。

 ただこのピトー管は、テストでデータを収集するには最適であるものの、最高のパフォーマンスを発揮するためには、余計なパーツであるはずだ。

 メルセデスは2019年の最終戦でマシンにいくつかのコンポーネントを追加し、翌年に向けて様々なことを一歩進める計画を立てたのかもしれない。そしておそらく今季も、同じことをしたのだろう。2021年用のマシンは、多くの部分で今季のマシンを継続使用することになる。そのため、2020年マシンの実走行データを収集することは、来季に向けて大きなメリットにつながる可能性がある。

Mercedes F1 W11 anti-roll bar comparison

Mercedes F1 W11 anti-roll bar comparison

Photo by: Giorgio Piola

 新型コロナウイルスの感染防止対策により、2020年シーズンはマシンを間近で観察するのが難しかった。しかしmotorsport.comのテクニカルイラストレーターであるジョルジョ・ピオラは、W11のフロントサスペンションが変更されているのに気付いた。

 上の図で示されているように、ロッカーを接続するアンチロールバーに変更が加えられた。これは、数シーズン使われてきたものより小型化されている。

 この変更は、今後のレギュレーション変更と、ピレリが来季導入する予定の新構造のタイヤに関係している可能性がある。構造が異なるということは、タイヤの形状が異なるということを意味するだけでなく、タイヤの内部温度やトレッド面のゴムをマネジメントする方法も変わるということになる。

Mercedes AMG F1 W11 tyre check

Mercedes AMG F1 W11 tyre check

Photo by: Giorgio Piola

 なお2021年用のタイヤは形状にも変更が加わるため、メルセデスはフロントサスペンションにさらに変更を加える必要があるかもしれない。メルセデスは、アップライトの上に角状のパーツを取り付け、そこにアッパーウイッシュボーンを取り付けている。2021年用のタイヤはサイドウォールが若干丸みを帯びているため、この角状のパーツは、そのままでは干渉してしまう可能性があるのだ。

 これに備え、メルセデスは新しいタイヤをテストする際に、ウイッシュボーンの端をポリスチレンで作られたカバーで覆った。これによって、タイヤとウイッシュボーンをどれだけ近づけることができるのか、それを明確に確認することができた。

 アブダビGPのFP2では、2021年のタイヤを履き、各車とも最低でも8周の計測ラップをこなすことが義務付けられた。しかしメルセデスの2台は、より多くのデータを手にすることを目指した。そして、レース後に行なわれたテストでの2020年タイヤでの走行と比較分析を行なったと思われる。

 通常のレースに向けた準備時間まで使い、週末の残りの時間にも新しいサスペンションを使うことを選択したということは、次のタイヤの性能を受け入れる準備ができていたということだろう。

Lewis Hamilton, Mercedes F1 W11

Lewis Hamilton, Mercedes F1 W11

Photo by: Glenn Dunbar / Motorsport Images

 一方で、サクヒールGPの際にバルテリ・ボッタスのマシンでテストされた、実験的なレイアウトのラジエターも、アブダビGPで使っていたと考えられている。車体後部のデザイン、そして冷却用の開口部が、サクヒールの時と同様だったことから、そのことが見て取れる。このレイアウトは、メルセデスが来季導入を予定している新しいパワーユニットと関係した変更であると考えられる。

 前述の通り、メルセデスはアブダビGPでパワーユニットの出力を落としていたと言われているが、これは信頼性に懸念があったからというだけではなく、これら来季に向けた開発に伴ったものだった可能性も考えられる。

Mercedes W11 radiator detail

Mercedes W11 radiator detail

Photo by: Giorgio Piola

Nyck de Vries, Mercedes F1 W11

Nyck de Vries, Mercedes F1 W11

Photo by: Mark Sutton / Motorsport Images

 今シーズン終盤、レッドブルは開発を続けた結果、メルセデスとの差を一気に縮めることになった。ただこれは、メルセデスが2021年と、新レギュレーションが導入される2022年に向けた開発に焦点を当てるため、レッドブルとの戦いに集中しなかったからだという可能性もある。

 メルセデスは、過去数シーズンにおいても、最終戦とその後のテストを一連で活用するというプログラムを採ってきた。これは長期的なメリットを見通し、短期的な痛みを受け入れる……そんな事例が他にもあったのかもしれない。

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シリーズ F1
執筆者 Giorgio Piola