F1界の”鬼才”エイドリアン・ニューウェイ渾身の新ハイパーカー、レッドブル『RB17』の知っておきたい9つのこと
レッドブルが発表した”ルール無用の”ハイパーカー『RB17』。数々のチャンピオンマシンを輩出してきたエイドリアン・ニューウェイが贈る渾身の1台について、現時点で分かっている情報をまとめた。
写真:: Red Bull Content Pool
数々のチャンピオンF1マシンを手掛けてきたレーシングカー・デザイナー、”空力の鬼才”ことエイドリアン・ニューウェイ。彼はF1マシンを制作する傍ら、高性能ロードカーの制作にも携わってきた。
そしてレッドブルは6月28日(火)、新たにニューウェイが手掛けるハイパーカー『RB17』のプロジェクトを発表した。
レッドブルはこれまで、アストンマーチンと共同で『ヴァルキリー』プロジェクトを行なっていた背景を持つが、今回が初めてレッドブル主導で開発される本格的な車両となる。RB17という名前からして、かなりのパフォーマンスを有することは想像に易い。
商用マシンの研究開発部門である「レッドブル・アドバンスド・テクノロジーズ」で開発・製造が行なわれるこのRB17。レッドブル・レーシングでチーフ・テクニカルオフィサーを勤め、この研究開発部門を統べるニューウェイは、今回のプロジェクトについてこう語っている。
「サーキットマシンをやるのであれば、『OK、その特徴として何を設定するか』ということになる」
我々が決めたのは、F1レベルのパフォーマンスでありながら、比較的快適かつ走りやすい。F1レベルのパフォーマンスの限界スピードまで、快適に走らせることができるということだ
ニューウェイはそう語る。
目の前にキャンバス、それかニューウェイが今でも使ってる製図板が、真っ白な状態で置かれることは、全てのカーデザイナーをワクワクさせる。しかし、自動車ブランドとして商品を売る、もしくはレギュレーションに適合しているモノでなくてはならない。制約のないクルマづくりは到底実現し得ないことだ。
Red Bull X2010 concept
Photo by: Red Bull Content Pool
ニューウェイは以前、制約のないクルマづくりの一片を体験している。2010年、レーシングゲーム「グランツーリスモ」シリーズのコンセプトマシンとして、ニューウェイはレッドブル『X2010』をデザインした。
作品によって仕様は若干異なるが、X2010は約1500PSのV6ツインターボエンジンを搭載した軽量キャノピー付きシングルシーターで、シャパラル『2J』やブラバム『BT46B』といったファンカーの技術を応用して絶大なダウンフォースを得る。バーチャルではあるものの、F1が鈴鹿サーキットで記録したコースレコードを20秒も更新した。
そして今回、RB17で”制約のない”クルマづくりへ挑むこととなった。ただ現実世界でデザインを実現させるには、同じようなアプローチを採ることはできなかったという。
「もちろん、物理的なレギュレーションはある」とニューウェイは続ける。
「ふたり乗りにする必要があり、そうすると少なくとも、ひとりは高身長の方が乗ることを想定する必要がある。つまり制約はあるのだ」
「タイヤも既存のモノを使用しなくてはならないし、もちろんクルマの安全性は確保しなくてはならない」
「しかしそれ以外では、2010年にデザインしたPlayStationのひとり乗りマシンのふたり乗り版のような、事実上ルール無用のクルマなのだ」
ルール無用のクルマであり、F1で培われた技術をサーキットで味わえるRB17。F1ファンのみならず、自動車好きなら心躍るこのクルマの知っておきたい9つのことをここで紹介する。
ニューウェイ「RB17は、F1レベルのパフォーマンスでありながら、比較的快適かつ走りやすい。F1レベルのパフォーマンスの限界スピードまで、快適に走らせることができる」
Photo by: Carl Bingham / Motorsport Images
1:RB17の生産はいつ開始される?
RB17の開発は、レッドブル・アドバンスド・テクノロジーズで現在も開発が進められているが、レッドブルF1のチーム代表でCEOを務めるクリスチャン・ホーナーは「12ヶ月以内に(生産を)開始して、2024年の納車開始を目指している」と語っている。
2:RB17は何台生産される?
もしこれを読んでいるあなたがRB17を手に入れたいと思ったのならば、善は急げ。迅速に行動へ移す必要がある。というのもRB17は限定50台と、非常に希少。開発&テストに使用されるプロトタイプも作られるが、年間生産台数は15台と購入できたとしても納期は長い目で見るべきだ。
幸運にもこのクルマを手にできたオーナーは、「レッドブル・レーシングチームとの密接な関係により、シミュレータへのアクセス、車両プログラム開発、サーキット体験&トレーニングが可能だ」とのこと。その他にも各オーナーに合わせたファクトリーサポートやメンテナンスも受けることができるそうだ。
3:どうしてRB17と名付けられた?
新型コロナウイルスの世界的流行がなければ、昨年のレッドブルのF1マシンが『RB17』と呼ばれていたはずだ。しかし、パンデミックによって打撃を受けたF1チームのコスト削減のため、F1はレギュレーションの大規模な改定を2021年から2022年へ変更。2021年は2020年のマシン(レッドブルの場合は『RB16』)をほとんど引き継いでレースを行なうこととなり、レッドブルの同年型マシンは『RB16B』と呼ばれることとなった。
レッドブルはこれまでF1参戦年数をマシン名称につけてきた。そのため参戦18年目の2022年シーズンは『RB18』と呼ばれるマシンがレースを走っている。つまり、RB17は欠番だったのだ。
「このマシンは真のF1パフォーマンスを備えているため、その系譜に倣い17という名前を持つことは正しいと感じた」とホーナーはその名称について語っている。
4:RB17に搭載されるエンジンは?
レッドブルは、RB17にツインターボV8エンジンを搭載するとしており、最高出力は1115PSを目指している。ただそのエンジンを自社生産するのか、それとも他メーカーに委託するかどうかについては決まっていない。
ニューウェイは搭載されるエンジンについて次のように語っている。
「我々はどうするかを検討しているところだ。知っての通り、我々は今(F1のパワーユニットを手掛ける)レッドブル・パワートレインズを持っている。まだ若い会社だ」
「同時に、他のスペシャリストたちに依頼することも可能だ。つまり、我々は今、そのプロセスの最中なのだ」
5:F1マシンに比べてRB17はどれくらい速い?
RB17は、F1に匹敵するパフォーマンスを実現すべく、F1マシンと同じ手法・プロセスで開発され、可能な限りのテクノロジーが詰め込まれることとなる。
F1マシンとの比較は様々な点で可能だが、ニューウェイはサーキットでのラップタイムで比較すると明言している。
「最終的には、それ(ラップタイム)が全てだ」とニューウェイは言う。
「もちろん、サーキットごとに異なってくるだろう。大きな問題は重量だ」
「実用性と安全性を考えて、ふたりが乗れる大きさを持つクルマにルーフをつけたら、必然的にF1マシンよりも重くなる。しかしその他の点で、F1のパフォーマンスを実現するために必要なことを全て行なっていく」
レッドブルにとってRB17は、アストンマーチンと共同開発した『ヴァルキリー』以来のロードカーとなる。
Photo by: Red Bull Content Pool
6:RB17は公道走行可能?
その答えはノー。かつてのタイトルスポンサーであるアストンマーチンと共同開発したヴァルキリーとは異なり、RB17は公道走行が不可能なクルマとなる。しかしこれが将来的な公道走行可能のロードカー開発に向けた布石となる可能性も秘めている。
「現時点では、これが社としてのDNAの根幹を成すモノとはならない」とニューウェイは説明する。
「我々は自分たちの知っている領域から始めているのだ。もしこれがロードカーで、ロードカーとして設計されたものならば、より制約に縛られることになると思う。それは現時点で我々が良しとしないモノだ」
7:レッドブルのF1ドライバーはRB17の開発に参加する?
答えはイエス。マックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスのふたりは、このクルマの開発に参加することとなる。ホーナー曰く、レッドブルが持つF1の知見を全てRB17に注入すべく、ふたりが開発の一翼を担うこととなるという。
「マックスがヴァルキリーに乗る事もあったし、彼はあのクルマの顧客でもあったと思う」とホーナーは言う。
「このクルマを買うかどうかは彼ら次第だが、我々はこのクルマのテストと開発に自らの持てる全てのスキルを活用したいと考えている」
8:RB17はヴァルキリーよりも速い?
ニューウェイによると、RB17はヴァルキリーよりも「かなり高いパフォーマンス」を発揮するという。その一因には、公道走行を考慮する必要がないことが挙げられる。
「ヴァルキリーはロードカーとして開発されたモノで、純粋なパフォーマンスを追求する場合と比較すると、当然さまざまな制約がある」とニューウェイは言う。
「一番大切なことは、先ほども言ったがもちろん重量だ。それに関してはさまざまな検討が行なわれる。パワー面は、エンジン技術の進歩もあり比較的簡単な部類に入る」
「そしてもうひとつの大きな要因である空力を上手く発揮できるようにする必要がある。そのためには、かつての”トリック”を使うことになるだろう」
9:RB17の価格は?
RB17の価格は、500万ポンド(約8億3000万円)。そこに付加価値税を加えると、600万ポンド(約9億9700万円)ほどになる。既にレッドブルは購入に向けた希望受付を開始している。
「500万ポンドという数字が出ると、正直に言って少し恥ずかしくなる」とニューウェイは言う。
「でも実際は、クリスチャンもよく知っての通り、私は資金が少しでもあればいくらでも使う……いや、若干ね!」
「F1レベルのマシンを作るとなると、そのコストは恐ろしいほど高い。そこに開発やテストを含めると、残念なことにどんどん額が増えていくのだ」
これについてホーナーは冗談交じりにこう語っている。
「エイドリアンは、財務部の場所がどこにあるかを知らないのだ! 彼の仕事では決してないからね」
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