【F1分析】賞金総額が13%と大幅減のF1。今後の財政状況はどうなる?

新しいオーナーとなったリバティ・メディアのもと、F1は大幅に支出を増やしている。これが、将来のための投資となるだろうか。

 F1は今年、これまで見られなかったような試みをしてきた。スペインGPを皮切りにレースに訪れたファンが参加できるようなイベントや、2シーターF1マシン登場体験などを実施。さらには、イギリスGPの開催前にロンドン市内で『F1 LIVE LONDON』と銘打ち、大規模なデモ走行イベントを行った。

 これらの試みにより、F1の支出が増大。それに伴い、チームに配分されることになる賞金額も減少し、今年は2億7300万ドル(約310億円)となる見込みだ。なお、昨年の額は3億1600万ドル(約359億円)であり、約13%ほど減少したことになる。

 こうした動きは、F1オーナーのリバティ・メディアがこれまで全くと言っていい程手付かずだった市場調査やマーケティング、デジタルといった分野での”空白”を埋めようとしたためのものだ。お金を生むためには、お金を費やす必要があるとよく言うように、リバティのこうした動きを”投資”だと見なすこともできよう。

 実際、今年から始まったF1のeスポーツ・チャンピオンシップには約6万4000人ものプレイヤーが参加。ゲームのコミュニティから、新たなファンを獲得することにつながったと評価できる。

 このチャンピオンシップは、F1デジタル化の完全な実例となった。準決勝後に出されたプレスリリースでは、これまでのF1経営陣が聞いたこともないであろう、あらゆる種類のソーシャルネットワークサービスに関する統計データが載せられていた。

Live Semi Final
Live Semi Final

Photo by: Sam Bloxham / LAT Images

「ファンがフェイスブックを見る時間は180万分に達する。さらに、インスタグラムやインスタグラムストーリーのビューワー数は310万。インスタグラムの広告のインプレッションが150万、ツイッターの広告は180万回見られている。そして、12万5000人以上がツイッチのストリーミングを視聴している」とプレスリリースには記載された。

 また、eスポーツ・チャンピオンシップと同様、『F1 LIVE LONDON』にも多額の予算が投入された。このイベントはテロの危険を警戒し、事前に大規模な宣伝活動が行われなかったにもかかわらず、トラファルガー広場に10万人以上のファンが集結した。

 世界有数の金融サービス会社であるJPモルガンは先月、リバティ・メディア株式の分析結果を発表した。結論としては概ね楽観的なものだったが、上述のような動きもあってか”収益は想定より伸び悩んでいる”と見ているようだ。

 F1の収入の大部分は、放映権料によるものだ。それは今後も変わらないだろうが、JPモルガンはこの点について注意喚起を行っている。

「F1は近年、主力市場の多くで有料放送局との独占契約を結ぶことによって、放映権料による収入を伸ばしてきた」

「(2019年、イギリスでのF1放送が有料のみになるように)今後も、この手法でF1の成長を促進していくべきだが、新しい経営陣は一部のレースを無料放送局との同時放送とする、別のアプローチを採っているようだ」

Max Verstappen, Red Bull Racing talks, Ted Kravitz, Sky TV
Max Verstappen, Red Bull Racing talks, Ted Kravitz, Sky TV

Photo by: Sutton Images

「同時に、F1はある時点で動画コンテンツなどの提供ができるよう、テレビパートナーから特定の権利を取り戻す意向を示している」

「我々はこれらの要素が、米国や英国での契約更新の際に、収益の上昇を制限してしまう要因につながると考えている」

「F1はテレビ番組の特性から見て2つのハンディキャップを抱えている。それはつまり、CMを流すタイミングがないこと。そして、生放送できる時間が限られていることだ」

 この点で、アメリカの放送市場は興味深い状況となっている。これまでF1放送の独占権を持っていたNBCグループが契約更新を行わないことを選択。代わって、ESPNが複数年契約を結び、F1を放送することとなった。

 ESPNが権利を獲得したことには多くの注目が集まったが、NBCが商業権保有者と競合してしまうような契約を締結したがらず、交渉から撤退することを決めたことについては、それほど注目されていない。

「2013年に我々がアメリカのF1放送における独占的権利者になって以来、国内でのF1の知名度と視聴率を向上させてきたことに誇りを持っている。しかし、今年がその最後のシーズンだ」と、

 NBCはそう声明を出している。

「今回のケースでは、我々と我々のパートナーが商業権保有者と競合しないよう、新たな契約を締結しないことを選択した。F1の新しいオーナーたちが成功することを祈る」

 今後、新たにF1と契約を結ぼうとする放送事業者は、商業権保有者自体がパートナーというより、競争相手と化しているようなスポーツにお金を使うことを選択することになる。これでは契約締結に支障が生じることになるだろう。

 さらにJPモルガンが行った分析ではリバティ・メディアの拡大と、大規模な新規採用によるコスト増も考慮されている。

「リバティは他企業からのヘッドハントを含め、F1に携わる人員を倍増させる予定であると明かしており、年間5000万ドル(約57億円)ほどのコスト増加につながる」とJPモルガンはみている。

Valtteri Bottas, Mercedes AMG F1 W08, Lewis Hamilton, Mercedes AMG F1 W08, Sebastian Vettel, Ferrari SF70H, Daniel Ricciardo, Red Bull Racing RB13, Kimi Raikkonen, Ferrari SF70H, Max Verstappen, Red Bull Racing RB13, the rest of the field at the start of the race
Photo by: Steve Etherington / LAT Images

「F1がデジタルや販売戦略、ゲームといった新しい成長分野のためのインフラストラクチャーを整えていく上で、今まで以上に支出が増加していく可能性がある」

 最も不安視されているのは、F1の将来的な構造が不明確であるということだ。F1ファンにとっては周知の事実だが、F1内の”富の再分配”が重要な問題だとして注目されている。そのため、今後予算やコストの制限策が導入される可能性も有る。

 しかしながら、コンコルド協定の存在により、少なくとも2020年までは現在の状況から大きな変更をすることができず、次の10年、20年に向けての明確なロードマップが存在していない。

 現行の統治構造、特にあまり機能していないと揶揄されることの多いF1ストラテジーグループが置き換えられることになるだろうが、どうなるかは定かではない。

「新しい経営陣は、長期的な取り組みを実施する上で、様々な関係者と早期の交渉に入っている。しかし交渉の透明性は低く、いつ新たな試みに取り掛かるかは不明である」

「過去、F1の利益のうち大部分をチームが得ていたと我々は考えているが、それでも各チームは継続して難しい財政状態に直面しているため、スポーツの長期的な枠組みに関する議論に同意するのと引き換えに、より高いシェアを確保することを目的に交渉のテーブルにつくリスクがある」

 時折警告を発しているのにもかかわらず、F1の財政的な将来について、JPモルガンの見解は概ね楽観的だ。それは、新しい市場の開拓による成長やスポンサーシップ取引による収益、カレンダー拡大の可能性などが考慮されているからだ。

「F1は、我々がモデル化したものよりも早く収益を伸ばすことができるだろう」

「同社は、2018年に向けていくつか(フランスやドイツ、イタリアなど)の重要なTV放送契約を更新する可能性が高く、年間契約金額の上昇や一部地域で有料TV放送局と契約することで、予想を上回る収益を得る可能性がある」

「レースのプロモーションにおいては、F1はレース数を最大21以上に増やすことに成功するだろう。我々は、2020年まで最大21戦でモデル化している。そのため、広告やスポンサーシップにおいて、大手ブランドスポンサーやレースのタイトルスポンサーからの資金回収がモデルよりも早まるだろう」

「F1は変動コストが高く営業レバレッジを制限しているが、予想を上回る収益の成長により、EBITDA(キャッシュ利益)の拡大につながる可能性がある」

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この記事について
シリーズ F1
記事タイプ 分析