ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】

【F1分析】5秒速い2017年F1。ブレーキへの負荷も25%アップ?

2017年のF1レギュレーションは大きく変更される。その話題の中心は空力及びタイヤだが、ブレーキにも大きな影響を及ぼすことになる。

 2017年から大きく変更されるF1のレギュレーション。その話題の中心となっているのは、空力パーツの変更によるダウンフォースの向上、そしてタイヤを幅広くすることによるグリップ力の増大である。これらにより、マシンのパフォーマンスを大幅に向上させ、1周あたり5秒程度速く駆け抜けることが目指されている。

 しかし、空力とタイヤが変化しマシンパフォーマンスが向上すれば、それに伴いその他の部分にも大きな影響を与える。中でも特に大きな影響を受けるのがブレーキだ。

 2017年の制動力は、マシンの速度が上がることによって、約25%上昇することになると予想されている。これは、2017年に使用が予定されているブレーキディスクの厚みが、2016年の28mmから32mmに増やされていることからも明らかだ。 

ブレンボのブレーキディスク(2016年仕様と2017年仕様)
ブレンボのブレーキディスク(2016年仕様と2017年仕様)

Photo by: Brembo

 今季もたらされる影響は、単にブレーキに厳しいというだけではない。グリップが大幅に増す2017年マシンにより、サーキットの特性が大幅に変わる可能性があるのだ。例えば、これまではブレーキに”優しい”サーキットだった場所が、これからはブレーキに”厳しい”サーキットへと変貌を遂げる可能性がある。

 さらに、現在のブレーキシステムの複雑さが、ブレーキのマネージメントをより難しくしている。本来ならばブレーキの温度をコントロールするためのブレーキダクトは、現在では空力性能のために活用されており、さらにブレーキが発する熱を、タイヤの温度管理に役立てている。その上、それらの活用方法は、チームによって大きく分かれているのだ。

フロントブレーキディスク(28mm)
フロントブレーキディスク(28mm)

Photo by: Giorgio Piola

なぜ25%厚くする必要があるのか?

 今年のF1マシンは、確実に速くなるはずだ。しかし、だからといってすぐにブレーキの負担が大きくなるということではない。

 例えば、ストレートスピードが遅くなり、代わりにコーナリングスピードが速くなるのであれば、ブレーキへの負担は軽減される。逆に、ストレートスピードが速くなり、コーナリングスピードが遅くなるのであれば、その速度差が大きくなることを意味するため、当然ブレーキへの負担が増し、ブレーキディスクやパッドの磨耗が速くなる。

 しかし、今年の場合はタイヤと空力面の双方で、グリップの増加が期待される。それが、ブレーキの問題を考える鍵となる。つまり、速く走るためにドライバーは、ブレーキングをより遅らせようとするのだ。

 ブレンボのマウロ・ピッコリは、motorsport.comに対して次のように語った。

「今年はグリップレベルが高くなるので、基本的には短時間でより多くの力を(路面に)伝達することができる。そのため、必要とされる制動力が増す。我々は25%の上昇を予測している」

 速いクルマの場合、その仕事量がさらに増加する可能性もある。なぜなら、いくつかのコーナーは全開でクリアできるようになるはずであり、その結果ドライバーたちは次のコーナーにこれまでよりはるかに速いスピードで到達することになるからだ。

 ピッコリは次のように説明する。

「我々は、これまでのクルマが少し減速していたようなコーナー、例えばふたつのコーナーが複合しているような場所についてシミュレーションを行った。マシンはこれまで、最初のコーナーをクリアするために減速し、さらにふたつめのコーナーでも減速していたものだ」

「今年に関して言えば、最初のコーナーがあまりタイトではなくフルスロットルで通過できるような場合、ふたつ目のコーナーの通過速度は、2016年よりもはるかに高いだろうと我々は予想している」

「シルバーストンやインテルラゴスのようなコースでは、ブレーキを使用する回数は明らかに減少するだろう。しかし、ブレーキにかかるエネルギーは増加する。つまり、より多くの制動トルクが必要になると解釈できる。2016年にはそれほど厳しくなかったコースでも、2017年にはブレーキにとって非常に厳しいコースになる可能性がある」

「また、より短時間でより多くのエネルギーをブレーキディスクにかける場合、発生した摩擦熱をより素早く放出する必要がある」

技術面での変更

 制動トルクが増すと予想されているため、今季からはブレーキに関する規則も変わっている。ブレーキディスクの最大の厚みは、昨年から4mm増し、32mmまで上げられているのだ。

 ただ、厚みが増したことにより、冷却用の穴を配置する自由度が増している。ブレンボによれば、これまでの1200箇所から、1500箇所に増やすことができたのだそうだ。

「ディスクの厚みが増したことで、冷却用の穴を確保するスペースが増えるため、より効果的に冷やすことが可能となった」

 ピッコリはそう付け加える。

「また、ブレーキバルブの力を、より強く設定することができるようにもなる。我々は2017年シーズン、制動トルクが大幅に増加することを予測しているからだ。だから、この制動トルクに応じた設計ができるディスクが必要なのだ」

 ピッコリは今年、ブレーキング時のGフォースが6Gを超えることを予想しているという。

ブレンボのブレーキディスク、2005年〜2015年の変遷
ブレンボのブレーキディスク、2005年〜2015年の変遷

Photo by: Giorgio Piola

オーバーテイクへの影響

 2017年のレギュレーションによりマシンが速くなったとしても、それは好影響ばかりではないと言われている。最も大きな懸念のひとつは、オーバーテイクが少なくなるのではないかという点だ。

 空力に対する感受性が高いマシンになればなるほど、別のマシンに接近して走るのは困難になっていく。そして、減速に要する距離が短くなればなるほど、ライバルを追い抜くチャンスを見出すのが難しくなる。

 しかしピッコリは、悪い事ばかりではないかもしれないと示唆する。いくつかのコーナーではブレーキにきつくなるため、制動距離が長くなると言うのだ。

「確かに、いくつかのコーナーでは、制動距離が短くなるだろう。しかし、ブレーキングがこれまでと同等なのか、理解する必要がある」

 そうピッコリは言う。

「もし、高速コーナーを減速せずにクリアし、次のコーナーに到達したら、そのブレーキにかかる負荷は非常に厳しいものとなる。つまり、速度が以前に比べてはるかに高くなることで、制動距離とブレーキにかかる力が大きくなるのだ」

「我々はシミュレーションを行った。しかし、異なるすべてのコースを考慮し、平均値を作るのは難しい。推測する前に、実際のクルマで見てみる必要があると思う。バルセロナでのテストは、我々に良い指示を与えることになるだろう。最初のテストの後なら、我々はより正確なところを知ることができるはずだ。 

ブレーキ・バイ・ワイヤのレイアウト
ブレーキ・バイ・ワイヤのレイアウト

Photo by: Giorgio Piola

チーム間で分かれるリヤブレーキの選択

 興味深い点のひとつは、リヤブレーキの厚さに関する各チームの決断が異なっていることだ。

 一般的なブレーキングでは、マシンの運動エネルギーを熱エネルギー(ブレーキディスクとブレーキパッドの摩擦熱)に変換して放出することで減速を行なっている。いわゆる摩擦ブレーキだ。しかし、現在のF1のリヤブレーキには、回生ブレーキ(運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、その時の抵抗を制動力とするブレーキ。変換された電気エネルギーは、バッテリーに蓄え、走行用のエネルギーとして再利用できる)が摩擦ブレーキと併用されているため、摩擦ブレーキにかかる負担が以前より軽減されている。その結果、リヤのブレーキディスクとキャリパーを小さくすることができた。

 実際にブレーキディスクの直径は、278mmから268mmに小さくなっている。とはいえ昨年の例で言えば、ブレンボを使用している全チームのリヤブレーキディスクの厚さは、それ以前同様28mmのままだった。

 2017年は前述の通り、リヤのブレーキディスクも最大の厚みは32mmまで認められるようになった。しかし、求められる制動力が増えるにもかかわらず、いくつかのチームは32mm厚のリヤブレーキディスクを採用するメリットは大きくないと考え、従来通り28mmのディスクを採用するだろう。ディスクを4mm厚くすることで、わずか150グラムだが重量増となるためだ。

 興味深いことに、昨シーズン終盤のメルセデスは2017年を見据えて、フリー走行で多くのブレーキ実験を行っていた。

 ピッコリはこれについて次のように説明している。

「現在、リヤブレーキに28mm厚のディスクを継続採用することを決めたチームと、32mm厚に変えることを決めたチームがある。この選択は確かにブレーキ性能に関係してくるが、それだけが理由ではない」

「過去数年間、ブレーキはタイヤの温度を制御するためにも使われてきた。だから、このふたつの選択肢はリヤタイヤの温度を制御するやり方にも影響してくると私は考える」

「ディスク厚の選択は、キャリパーのデザインにも影響がある。32mmのディスクを使うことを決めた人たちは、必要に応じて28mm厚のディスクを使うことができる。いつでも薄いディスクを使うことができるのだ。しかし28mmのディスクを選択したチームは、キャリパーを変更せずに32mm厚のディスクを使うのは難しいだろう」

 現時点では、28mm厚のディスクを継続使用すると決めたチームがわずかに多数派であるという(その割合は6:4だそうだ)。どちらの選択肢が正しいのか判明するのは、テストが行われ、2017年のピレリタイヤへの理解が進んでからになるだろう。

「ブレーキにかかる実際の負荷と、ドライバーが本当に必要としているものは何かを、明確に理解する必要がある。ドライバーはブレーキのトルクや、油圧ラインにかかる圧力までは考えない。彼らが気にするのは、ブレーキペダルの位置やペダルにかける力に対して、マシンがどのように減速するかということだけだ」と彼は語った。

「我々は、これらの変更の影響を知らなければならない。ドライバーの感覚に対して、負荷はどんなものか? それに応じてブレーキのシステムを調整することができる」

「我々はシミュレーションで多くの作業を行ってきたが、それぞれのチームが彼ら自身のブレーキシステムを持っており、彼らは今年、それぞれ様々なアプローチをしている。我々はそれが正しく機能するのか確認する必要がある」

 バルセロナのテストでは、新世代のマシンたちの速さだけではなく、いかに上手くマシンを止めるかということに、チームがどれだけ多くの策を巡らせているかが見えてくるだろう。

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Jolyon Palmer, Renault Sport F1 Team RS16 locks up under braking
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Photo by: XPB Images

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シリーズ F1
記事タイプ 分析
Topic ジョルジョ・ピオラ【F1メカ解説】