小林可夢偉が3位! 鈴鹿が歓喜に包まれた2012年のF1日本GP……バトンの戦略に反応しなければ、2位もあったのか?|F1分析

小林可夢偉が3位に入り、鈴鹿サーキットに”可夢偉コール”が巻き起こった2012年のF1日本GP。レースでは、マッサにオーバーカットを許し、3位となった小林だが、バトンに反応しなければ、2位もあったのか?

Kamui Kobayashi, Sauber C31

Kamui Kobayashi, Sauber C31

Sutton Images

 ザウバーC31を駆った小林可夢偉が3位表彰台を獲得し、鈴鹿サーキットが歓喜の渦に包まれた2012年のF1日本GP。しかし実は、2位表彰台の可能性もあったレースだった。

 小林は予選でレッドブルの2台(セバスチャン・ベッテルとマーク・ウェーバー)と、ジェンソン・バトン(マクラーレン)に次ぐ4番手。そしてバトンがギヤボックス交換のペナルティを受けたことで、3番グリッドからスタートした。そして絶好のスタートを見せ、小林はウェーバーの前に出て2番手となった。

 ただベッテルのペースは一歩抜きん出ており、小林はついていくことができない。ただ後続のバトンと4番手フェリペ・マッサ(フェラーリ)よりは良いペースで走り、徐々に差を広げにかかった。

 下のグラフは、2012年のF1日本GPの決勝レースの、トップ4台のレースペースの推移を示したものである。序盤のペースを見ていただくと、青の折れ線で示したベッテルは群を抜いているが、グレーの線で示された小林は、バトン(オレンジ)やマッサ(赤)よりも良いペースで走っているのがよくわかる。

2012年F1日本GP決勝レースペース分析

2012年F1日本GP決勝レースペース分析

Photo by: Motorsport.com / Japan

 この時点で小林が気にすべき相手は先頭を行くベッテルではなく、3番手のバトン。そしてこのバトンは、13周を走り切ったところで最初のタイヤ交換をするためにピットに飛び込んだ。

 ザウバー陣営はバトンにアンダーカットされるのを避けるため、翌14周目を終えたところで小林をピットに呼び戻し、タイヤ交換。バトンの前を抑えることに成功し、7番手でコースに復帰した。

 ただ小林とザウバー陣営にとっては、いくつかの誤算があった。

 まずひとつ目は、バトンの前を抑えることができたとはいえ、後方を走るトロロッソのダニエル・リカルドの後ろにつくことになってしまったということだ。リカルドのペースは1分41秒台。ピットインする前の小林は1分39秒台で走っていたため、1周あたり2秒近く遅かったのだ。しかしながら小林は、トップスピードが優れているリカルドをなかなか抜くことができず、コース復帰後2周にわたって1分41秒台で走ることを余儀なくされてしまった。

 そしてマッサがペースを隠し持っていたのも、誤算だったかもしれない。目の前からバトンと小林がいなくなったマッサは、タイヤ交換を前にペースアップ。ベッテルよりも良いペースで走った。グラフの14周目から15周目あたりのマッサの折れ線を見ていただくと、突如ペースが上がっているのがお分かりいただけるだろう。

 このペースアップによって、マッサは小林とバトンの前に出ることに成功……つまりオーバーカットしてみせたのだ。タイヤを交換した後のマッサは、優れたペースを発揮することになった。

 下のグラフは、首位からのタイム差の推移を示したものである。18周目以降、赤い折れ線のマッサが、小林とバトンを徐々に引き離していっているのが分かる。

2012年F1日本GP決勝レースギャップ分析

2012年F1日本GP決勝レースギャップ分析

Photo by: Motorsport.com / Japan

 小林はその後、2回目のタイヤ交換を早めに行なう戦略を採り、バトンの前を押さえ続けた。終盤には真後ろにまで接近を許したものの、最後まで攻撃を凌ぎ切り、3位でのフィニッシュ。日本人として3人目のF1表彰台獲得を決めた。最終的なバトンとの差は、僅か0.56秒だった。

 ただ前述の通り、リカルドの後ろに詰まってしまっていなければ、2位も不可能ではなかったのではないかとも思えてくる。しかし当時の小林とザウバー陣営にとって判断は難しく、結果として選択は最良のモノだったとも思える。

 もし小林がバトンの戦略に反応せず、ステイアウトしていたとしよう。その時、バトンがリカルドの後ろに詰まっていれば、小林が先行されることはなかっただろう。しかし、バトンがすぐにリカルドを攻略してしまえば、小林は先行を許してしまう可能性もあったため、戦略をバトンに合わせるしかなかった。

 しかもこれもまた前述の通りだが、マッサがこれほどのペースを持っているとは、レース序盤のペースからは想像するのは難しかっただろう。

 一方でマッサ&フェラーリ陣営としては、前がいなくなったことを受けてある意味”豹変”を遂げ、小林とバトンを攻略。頭脳的な2位だったと言えそうである。

 ただレース終盤の小林とバトンのテール・トゥ・ノーズのバトルは実に刺激的であり、これを冷静に押さえ切った小林のドライビングはお見事。スタンドからは可夢偉コールが沸き起こった。

 
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