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ホンダ山本MDが語る「勝つための条件が全て揃っていた」オーストリアGP

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ホンダ山本MDが語る「勝つための条件が全て揃っていた」オーストリアGP
執筆:
2019/07/07 7:54

ホンダの山本雅史F1マネージングディレクターが、13年ぶりの勝利を手にしたオーストリアGPを振り返った。

 ホンダがパワーユニットを供給するレッドブルF1に乗るマックス・フェルスタッペンが、先週(6月30日)のオーストリアGPで優勝した。ホンダは2015年にF1に復帰してから初勝利。2006年のハンガリーGPでジェンソン・バトンが勝って以来、実に13年振りの勝利だ。実はこの勝利、そろそろ来るんじゃないかと期待を抱いていた人物がいた。もちろん経験と実務に裏付けられた期待だ。その人物こそホンダの元モータースポーツ部長で今年からF1マネージング・ディレクターに就任した山本雅史。F1漬けの毎日を送っている。

 山本が勝利の感触を掴んだ裏には幾つかの確証があったと言ってもいいだろう。前戦フランスGPから投入したスペック3エンジンが好調な上、レッドブルの車体の性能がかなり向上していたことを確認出来ていたからだ。

「オーストリアはレッドブルのホームコースでもあるし、とにかくレッドブル・ホンダとしては勝つための条件がすべて揃っていたんです。だから、勝ちに行こう、とレッドブルとも意思統一をしたんです」

 レッドブルからも注文が来た。これまでのレースではそれほどのプレッシャーはなかったが、オーストリアではヘルムート・マルコに加え、デザイナーのエイドリアン・ニューウェイまでもが金曜日からプレッシャーを掛けてきた。

「とにかく予選でひとつでも前のグリッドにつけたいので、レッドブル側からエンジンのモードを可能な限り上げて欲しい、と言われたんです。我々ホンダとしてもそのつもりでした。僕がモナコで勝ちたいと言ったときには希望的な要素が大きかったけど、オーストリアでは確信のようなものがありました。本当に勝ちにいこうという覚悟でした」

 ホンダ側はもとよりそのつもりだった。F1テクニカルディレクターの田辺豊治もいつにもまして元気で、レッドブルとの打ち合わせでも自信のあるところを見せた。山本は予選に向けて、エンジンがブローしてでもグリッド最前列を取りに行ってくれ、と心の中で叫んでいたという。本当にブローしたら大変だけど……。

「フェルスタッペンの父親のヨスも、今回は僕にいろんな話をしてきました。普段のレースではあまり話はしないんですけど、今回はレッドブルの予想とかマックスの心理的なこととか、色々話してくれました。多分、いつもと違った何かを感じていたんでしょう」

“暑さ”に苦しんだライバル

 予選は予想通りの接戦になったが、フェラーリのシャルル・ルクレールがポールポジション、2番手タイムはメルセデスのルイス・ハミルトンが記録し、フェルスタッペンは3番手につけた。その後、ハミルトンがペナルティで4番手グリッドに降格になったおかげでフェルスタッペンは最前列2番手のポジションを獲得した。山本の希望通りになったといえる。しかし、フェルスタッペンは決勝レースのスタートで出遅れ、第1コーナーでは8番手あたりまで後退していた。山本は一瞬、これで優勝の夢は潰えたかと思ったが、気を取り直して自らを奮い立たせ、フェルスタッペンの追い上げに期待した。実は、スタートの出遅れはクルマの技術的な理由によるもので、ドライバーのせいではなかった。フェルスタッペンに期待する理由はそこにもあった。ここから怒濤の追い上げが始まった。

 その後のレースはご存じの通りだ。フェルスタッペンは次々とライバルをかわしていき、最後はトップを走るフェラーリのルクレールに迫った。フェラーリは直線が速く最初は追いつくのにも苦労したが、最終盤になるとタイヤの垂れもあってコーナーでは明らかにスピードが落ちた。フェルスタッペンがそれを見逃すわけはなく、少し接触してフェラーリをコース外に押し出す格好になったが、ゴールまで3周を残してトップに躍り出てそのままチェッカーフラッグを受けた。レッドブル・ホンダが、これから繰り返されるであろう幾多の勝利のまず1勝目をあげた瞬間だった。

 レッドブル・ホンダのライバルはフェラーリだけではなかった。ある意味、メルセデスの方が強敵と言えた。彼らのぶれることのない戦いぶりこそ最大の脅威といえた。しかし、彼らにも弱点があった。空力重視のデザインがもたらした熱対策というアキレス腱。今回のオーストリアではそれがメルセデスを苦しめた。

「メルセデスは温度の上昇が問題だったようですね。今年のオーストリアは空前絶後の暑さでしたから。我々は十分な暑さ対策をしていました。研究所は夏のレースに向けて万全の対策をしてくれているようで、それがオーストリアでも功を奏しました」

 さくら研究所の開発が昨年あたりから上手く回り始めたことが躍進の理由のひとつだろうが、サーキットの現場で指揮を執る田辺の力こそ勝利の原動力だったといえる。彼の現場における働きが、エンジン開発を加速させていることは間違いない。

「田辺さんは本当にレースをよく知っています。完走しなければ勝てないことを知っていて、そのために技術的にどうすればいいかよく考えている。だから、彼が取り組むレースはリタイア率が非常に低い。まさに彼はホンダの三現主義の実践者です」

 三現主義とは、机上の空論ではなく実際に「現場」に赴き、「現物」を確認し、「現実」を直視した上で問題解決をはかるやり方。田辺はこれまで、山本の言うようにその三現主義を実践してきた。かつてはゲルハルト・ベルガーのエンジニアとしてホンダのF1黄金期を経験し、アメリカではインディカーのエンジンを開発して佐藤琢磨にインディ500の勝利をプレゼント、そして再びF1に戻って僅か1年半でレッドブルと共に勝利を挙げた。山本は、この田辺とのコンビネーションを上手く機能させることを確認する毎日だ。

「ここ一番というときに田辺さんの背中を押してあげることも、僕の役割かなと思っています」

「ホンダコールが嬉しかった」

 ところで、オーストリアGPの勝利に強烈な印象を与えたのはやはりドライバーのフェルスタッペンであることを書かねばなるまい。どんなに優秀な車体があっても、どんなに馬力の出るエンジンがあっても、それを操るドライバーが最高の才能を発揮してくれなければ勝利はおぼつかない。その点、今回のフェルスタッペンの走りは次元を越えた素晴らしさがあった。特に最終盤、フェラーリのルクレールを追い上げ、追いつき、追い抜いた瞬間は、まるで時間が止まったかのようだった。

「僕はフェルスタッペンは前から凄い才能のドライバーだと言っています。それでも今回は凄かった。もちろん以前にも同じような走りは見せてくれていますが、今回は我々の勝利に繋がった走りだということもあり、特別な気持ちで見ていました。スタンドを埋めたオランダからのフェルスタッペン応援団がまた凄かった。3万人とか言われていましたが、全員オレンジのTシャツ着て大騒ぎでした。僕たち日本人スタッフを見て、ホンダコールもしてくれました。嬉しかったですね」

 フェルスタッペンの活躍の影に隠れてチームメイトのピエール・ガスリーが霞んでしまった。ガスリーは今シーズン初めてレッドブルに乗り、まだ最適値を見つけ出せていない。すべてのレースでフェルスタッペンの後塵を浴びており、シーズン途中での放出も噂されている。

「そんなことは起こらないと思いますよ。チーム内では噂にもなっていません」

 しかし、火のないところに煙は立たない。それはさておき、日本人ドライバーのF1昇格はどうか? ホンダの秘蔵っ子といえば山本尚貴であることは誰もが認めるところ。レッドブルかトロロッソでのテストはないのか? 山本に尋ねると、彼は否定はしなかったが、松下信治も頑張っていますよ、と話を松下に振った。だが、本命は山本尚貴であることに間違いはないだろう。

 最後に、F1グランプリのパドックで飛び交っている噂について山本に質問をぶつけた。2021年以降のF1技術レギュレーションにホンダが不満を表しており、もしFIAとの間で上手い解決策が見つからなければF1からの撤退もありうる、という噂だ。

「そんな話はありません。レッドブルとも話はしていません。というか、まだレギュレーションが全部公開されているわけじゃありませんよね。コストキャップをつけるという話は聞いていますが、いいと思います。でも、正直、F1撤退なんて話は全く出ていません」

 第4期挑戦が始まって、まだ5年目が終わっていない。ここで撤退の噂が出るということはホンダにとって不本意でしかない。勝利もこれから積み重なってくるはず。撤退の噂など一蹴して活動を続けて欲しい。継続は力なり、だ。

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この記事について

シリーズ F1
チーム レッドブル・ホンダ 発売中
執筆者 赤井邦彦