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F1ドライバーになり、P34を所有。マルティニは”夢”を2度叶えた!

2019年のSuzuka Sound of ENGINEに来日したピエルルイジ・マルティニ。彼はF1ドライバーになり、そして自らの憧れのマシン”ティレルP34”を所有するという、大きな夢をふたつ叶えた人物である。

Tyrrell P34

Tyrrell P34

Motorsport.com / Japan

 F1はモータースポーツの中でも、時代を問わず一番顕著にマシンレギュレーションの抜け穴を突こうと思っているカテゴリーだ。そのF1の車両規定には、1983年に「車輪は4輪まで」と改定されるまで「車輪の数」に関して定めた条項は存在しなかった。そのため1974年に「前面投影面積を低減し、空気抵抗を減らして最高速アップ」を狙って開発が始められたのが、“6輪F1マシン”ティレルP34だ。この6輪車が走るのを見て、中学生時代に一目惚れした元F1ドライバーがいた。ミナルディなどで活躍したイタリア人ドライバー、ピエルルイジ・マルティニである。

Tyrrell P34

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写真:: Mitsuhiro Fujiki

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写真:: Motorsport.com / Japan

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写真:: Motorsport.com / Japan

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 ティレルP34はフロントタイヤを小径化し、当時流行となっていたフロントのスポーツカーノーズとほぼ同サイズとすることで空力抵抗の軽減を図ろうと設計されたマシン。タイヤを小径化すると接地面積は劣ってしまうが、これを四輪にすることでカバー。さらにブレーキ性能と回頭性を向上させると共に、ライバル車を上回る接地荷重を得られると考えたのだ。

 ティレルがこの6輪に踏み切るには理由があった。当時のフェラーリやマトラ、BRMといったファクトリーチームは独自のパワフルな12気筒エンジンを搭載していたが、それ以外のコンストラクターであるマクラーレン、ブラバム、マーチ、ロータス、ヘスケス、そしてティレルなどは、フォードDFVというカスタマーエンジンを使用していた。そのためDFVエンジン搭載車両の最高速はほぼ同じで、ティレルはそこで少しでも優位に立とうと6輪ティレルの開発に踏み切ったのだ。

 そのティレルP34を、知り合いのモナコのアパートのベランダで見たのが、当時15歳のマルティニ少年だった。「フロント四輪がステアしてコーナリングしていく P34を見て衝撃を受けた」という。

 1976年のティレルのドライバーラインナップは、パトリック・デュパイエ(P34/2、P34/4)とジョディ・シェクター(P34/3、P34/3-2)という組み合わせで。そしてマルティニ少年が初めて目にした第6戦モナコGPで2台のP34は、シェクター2位/デュパイユ3位とダブル表彰台を獲得するという快挙を見せた。続く第7戦のスウェーデンでは、シェクター優勝/デュパイユ2位と初の1-2フィニッシュ。その後のシーズンでも表彰台や2度のファステストラップを獲得するなどして、ティレルは1976年シーズンのコンストラクターズランキング3位を獲得した。

 それから31年経った2017年、マルティニは少年の頃からの憧れだったティレルP34/5をイタリア人コレクターから譲り受けたのだ。P34/5は1977年製造のマシンで、第3戦南アフリカGPから実戦投入されたマシンだ。しかしマルティニの「P34熱」はこれだけに留まらず、2018年にはドニントン・グランプリ・コレクション所蔵の1976年型P34を、コレクション閉館に伴い購入するほどにエスカレート。しかも「どうしても欲しかった」というそのシャシー番号のP34/2は、あの日モナコのベランダで「マルティニ少年」が目撃した、デュパイユがドライブしていたマシンそのものだ。またこのP34/2という個体は、マルティニ曰く「歴代P34シャシーの中でシーズンを通して最も好成績を挙げたマシン」(表彰台5回、ファステストラップ1回、ドライバーズランキング4位)である※。 

 昨年、鈴鹿サーキットで行われた「SUZUKA Sound of ENGINE 2019」には、1台のティレルP34が持ち込まれた。このマシンは1977年仕様のP34/5だ。ただこの年のP34は、前年ほどの成績を残すことができなかった。グッドイヤーが小径フロントタイヤの開発を中止したため、1977年中盤からはフロントタイヤのグリップ不足に苛まれたのだ。結局これが原因となって、ティレルは6輪車の開発を諦めることになった。

 しかし、現在はAVONタイヤがクラシックF1用にP34の小径タイヤを供給しており、コンパウンドも現代技術が注入されグリップ不足も解消されているという。そこでマルティニは、自ら率いる元ミナルディのエンジニアやメカニック達と共に、現代のAVON用にP34/5のマシンセッティングを煮詰め直した。それにより「本来のP34が目指したフロントの回頭性の良さを引き出すことができ、思っていたような素直な扱いやすいハンドリング性能のマシンになった」という。

「鈴鹿は世界で一番好きなコースレイアウトで、素晴らしいサーキットだ。そして日本人のファンもその情熱とマナーの良さは世界で一番だ。その日本のファンの前で、自分が一番大切にしているティレルP34を走らせることができてとてもハッピーだよ」と話してくれたマルティニ。また来日した目的の一つでもある、タミヤ模型所蔵の1976年製P34/3-2の特別展示車両を前述のスタッフ達と念入りに研究。自身が持つP34/2を当時のオリジナル仕様に戻すため、採寸したりカメラに収めたりするなどして、多くの時間を費やしていた。その情熱、情報量、そして知識を含めて「世界一のティレルP34マニア」マルティニには驚かされた。

 ちなみにマルティニは、クラシックカーのコレクターでもあり、フェラーリ365GT2+2やアルファロメオ1750デュエット、レーシングカーでは1986年に国際F3000で自らドライブしたラルトRT20や初のF1レギュラードライバーとなり予選3位などを獲得したミナルディM189なども所有しているという。

 ピエルルイジ・マルティニは、夢であったF1ドライバーにまで上り詰め、さらに中学生時代からの憧れのティレルP34を自分のものにするという、ふたつの夢を実現させた素晴らしい人生をイタリアで送っている。

※P34/3は、第11戦オーストリアGPでクラッシュ後P34/3-2となったため単一車種から除外

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