美しきF1マシン「2年半にわたって走った”多彩”な経歴を持つ1台」ティレル020
1991年のF1に登場し、1993年まで使われたティレル020。その過程で様々なエンジンを搭載し、様々なタイヤを履いた1台……F1の歴史の中でも稀に見る多彩な経歴を持ったマシンだと言えるだろう。
現在のF1に通ずるハイノーズ、その始祖と言えるのが、1990年にティレルが走らせた019である。このティレル019はジャン・アレジと中嶋悟が駆り、印象的なシーンを幾度も見せた。今も名車として語り継がれる1台である。
そしてこの019の後継である020は、特異な経歴を持つ1台と言ってもいいだろう。
019から引き継がれた、アンヘドラルウイングと呼ばれるハの字型のフロントウイング。ノーズも高く持ち上げられ、フロア下に乱れの少ない気流を送り込み、ダウンフォースの増加を目指した。キープコンセプトと言うことができよう。そこに、前年までのコスワースDFRに代わってホンダV10を搭載。このホンダV10は、前年マクラーレンが使いチャンピオンを獲得した際のエンジンの発展形であり、そのパッケージには開幕前から期待が集まった。
開幕戦アメリカGPでは、ステファノ・モデナと中嶋悟がダブル入賞。モナコではモデナが予選2位となり、カナダではやはりモデナが2位表彰台を手にした。ただその後は日本GPでモデナが6位に入っただけ。当初の期待とは裏腹に、新チームのジョーダンに先行され、ランキング6位でシーズンを終えた。
不振の原因は、パッケージとして見た場合にホンダV10では重すぎたことや、履いたピレリタイヤのパフォーマンス不足などと言われていた。
【ギャラリー】ティレル020・ホンダ
ただこの020はこれだけでは終わらなかった。チームは翌年も改良版シャシー020Bを使用。カラーリングを一新し、イルモアのV10エンジンを搭載した。この1992年、アンドレア・デ・チェザリスとオリビエ・グレイヤールのコンビで戦い、グレイヤールこそ無得点だったものの、チェザリスが4度の入賞を果たし、前年同様のランキング6位となった。
【ギャラリー】ティレル020B・イルモア
それだけではない、チームは翌1993年にもこのシャシーを使ったのだ。ドライバーにはグレイヤールに代わって、F1で2年目のシーズンを迎えた片山右京が加入。エンジンもヤマハのV10を搭載した。しかし2年型落ちのマシン。片山曰く、この年に走らせたマシンのモノコックは、中嶋が1991年に使ったモノコックそのものであり、マシンの剛性も既に不足していたという。当然戦闘力は芳しくなく、1度の入賞も果たすことはできなかった。
第9戦イギリスGPからは新型マシン021が投入されたが、このマシンも戦闘力は低く、結局1993年のティレルは無得点だった。
【ギャラリー】ティレル020C・ヤマハ
ただ1990年代以降で、3年にもわたって使われたマシンは、他にあまり例を見ない。しかもこの間、020はホンダV10、イルモアV10、ヤマハV10と3種類のエンジンを搭載。無限ホンダV10のテストに使われたこともあった。またタイヤもピレリ、グッドイヤー、グッドイヤーのナロータイヤ、ブリヂストン (無限ホンダのテスト時)と4種類も履いているというのも特筆すべき部分だろう。
なお1990年に登場したロータス102も2年半にわたって使用されたマシン。その間、ランボルギーニV12、ジャッドV8、いすゞV12(テストのみ)、フォードHB V8と、やはりこちらも多彩なエンジンを使った。
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