F1デビュー戦に賞賛集まる角田裕毅。海外のジャーナリストは、彼をどう評価するのか?
F1デビュー戦で印象的な活躍を見せた角田裕毅。海外のジャーナリストたちの目に、彼の活躍はどう映ったのだろうか? motorsport.comの各国版に記事を執筆する編集者・ジャーナリストの意見を訊いた。
Yuki Tsunoda, AlphaTauri AT02 and Pierre Gasly, AlphaTauri AT02 on the grid
Charles Coates / Motorsport Images
先日行なわれたF1バーレーンGPで、9位入賞を果たした角田裕毅(アルファタウリ)。予選Q1での2番手タイム、そして一度は順位を落としながらも、着実に順位を上げていった決勝での戦い方に、高い評価が集まっている。
日本でも多くの報道がなされ、さらにF1のスポーティングディレクターであるロス・ブラウンは「ここ数年で最高のルーキー」と語り、アルファタウリのフランツ・トスト代表も「将来F1チャンピオンになる」と発言……賞賛の嵐となっている。
では、F1を取材する世界各国のジャーナリストは、角田の開幕戦をどう見たのだろうか? 我々motorsport.comには各国にF1担当ジャーナリストがおり、その彼らに角田に対する評価を聞いた。
■まだたくさんのことを期待することができるはず:アダム・クーパー(イギリス)
イギリスのアダム・クーパーは、角田を賞賛するひとりだ。
「角田裕毅が2020年の後半にF2で目立ち始めるまで、私はあまり彼のことを知らなかった。それを認めなければいけない。アルファタウリのドライバー候補となった時、彼に注目するようになったのだ」
そうクーパーは角田について語る。
「私はアンドレアス・イェンツァー(角田のF3参戦時のチーム代表)と、トレバー・カーリン(同F2参戦時のチーム代表)に話を聞いた。そして彼らはふたりとも、角田のことを絶賛した」
アルファタウリから、開幕前に複数回行なわれた旧型車でのテストについても話を訊いたというクーパーは、角田の速さを確信していたという。
「開幕戦のレースウィークエンドを通じても速かったが、予選Q2ではミディアムタイヤを履き、良いラップタイムを記録することができなかった。彼のフラストレーションは大きかったはずだ」
「しかし彼はレースで素晴らしい仕事をし、懸命に戦った。最後にランス・ストロールから9位を奪ったことは、彼が素晴らしい才能の持ち主であることを示した」
「スタートが慎重すぎたためにポジションを落としたが、彼は無理をしなかった。同じ新人の(ニキータ)マゼピンや(ミック)シューマッハーがどんなレースをしたか、それを見てみてほしい。またチームメイトの(ピエール)ガスリーは接触でウイングを失い、素晴らしいグリッドポジションを無駄にしたことも忘れるべきではない」
「角田からは、まだたくさんのことが期待できるはずだ。彼に何ができるのか、楽しみだ」
■角田は”日本のマックス・フェルスタッペン”:アーウィン・イェギ(オランダ)
オランダ版を中心に記事を執筆するアーウィン・イェギも、角田を絶賛するひとり。オランダでは角田のことを、”日本のマックス・フェルスタッペン”と呼んでいるらしい。
「角田が非常に速くて才能のあるドライバーであるということはすでに知っていた。ただジュニアカテゴリーとは環境が大いに異なるため、実際にF1でレースをするまで、どんなパフォーマンスを見せるのかは分からなかった」
イェギはそう語った。
「ただ、”日本のマックス・フェルスタッペン”と呼ばれている男が、バーレーンで見せたモノにはとても感銘を受けたと言わざるを得ない。彼は最初のラップで慎重過ぎたと自分を責めたが、デビュー戦で楽観的にスタートをしてリスクを冒すよりも、賢明なことだったと思う」
「その後、角田は成熟したレースをみせた。しかし私が最も感銘を受けたのは、自分自身をもっと向上させたいという、彼の熱意だ」
「レース後の彼は、もっと改善できる部分に目を向けていた。彼は、無線での交信で激昂するのを減らす必要があると言っていた。彼は自己認識力の高さを示したと言えるだろう。それは、彼がどれほど野心的なのかということも示しているようだ」
■”トランペット”が早くも騒がしく吹かれている:オレグ・カルポフ(ロシア)
ただ、慎重な見方をする者もいる。ロシア版のオレグ・カルポフは次のように語る。
「F3にデビューした時以来、角田の大ファンだ。しかし、彼の将来には少し心配している。それは彼のパフォーマンスについてではなく、そのF1デビュー戦が注目を集め過ぎているからだ」
「ロス・ブラウンは『ここ数年で最高の新人』と呼び、ジョージ・ラッセルやランド・ノリスよりも優れていると評価した。トスト代表は『将来のチャンピオンだ』と言っている」
「F1としてはホンダが今季限りで去り、鈴鹿との現状のGP開催契約も今季限りとなっている……そういう中で日本との繋がりを保ち続けるのは重要だ。そういう意味でも、F1首脳陣は角田を絶賛するのを躊躇しなかった。彼らは結局のところ、日本GPの契約を更新したいのだ。レッドブルとしても、ホンダに来季用パワーユニットの開発に注力してもらうためのモチベーションを見つける必要がある。角田はそれに対しての良いツールであると言える」
カルポフは、周りの称賛に角田が紛らわされないようにすべきだと語る。
「角田が賞賛に値しないというわけではない。ただ、結論を出すにはまだ早すぎる。たった1レースしか戦っていないのだから。私が心配するのは、多くのコメントによって、彼の気が紛らわされてしまうのではないかということだ」
「ロシアには、真の成功を収めるためには”火、水、トランペットを乗り越える必要がある”という言葉がある。これは、成功を収めるためには懸命に努力をし、その後で受けるによって集中力を失わないようにすべき……という意味だ。角田は、まだ水も火も先にあるのに、トランペットがすでに騒がしく吹かれている……それが彼の足を引っ張るようなことにならなければいいが」
■チャンピオンは、まだ遠い目標:クリスチャン・ニマーヴォル(ドイツ)
ドイツ版編集長のクリスチャン・ニマーヴォルは、トスト代表が言う”チャンピオン”までには、まだ長い道のりが残っていると語る。
「トスト代表の予測が実現するまでには、まだまだ長い道のりがあると思う。結局のところ角田はまだルーキーだし、間違いなくミスを犯し、”悪い日”も迎えることになるはずだ。ただ、偉大な成功を収める可能性はある」
ニマーヴォルは、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコのある発言を紹介し、今後の角田への期待を語った。
「マルコ博士が、私にこんなことを言った。『ドイツのメディアは、なぜ(ミック)シューマッハーのことばかり書くんだ? 理解できないね。我々のところには、角田という素晴らしい存在がいるのに』とね。それは、2020年の初めの頃のことだった。そして現在のところ、彼の発言は正しかったようだ」
「角田が今年、チームメイトのガスリーと互角に戦い、そして打ち負かすことができれば、かなりの好結果だと言える。しかし、私の見解ではそれも不可能ではないだろう。そしてそれを実現させることができれば、明るい未来が待っているはずだ。レッドブルが若いドライバーをAチームに昇格させることは数多くある」
「しかし私がマルコ博士の立場だったら、角田にアルファタウリで2年過ごさせるだろう。今は彼に集まる期待感をマネジメントし、しっかりと成長させることが重要だ。トスト代表の言うとおり、彼はいつか世界チャンピオンになるかもしれない。しかし今はまだ、それは遠い目標だ」
■早い段階で、プレッシャーをかけすぎるべきではない:ロベルト・キンケロ(イタリア)
イタリアのロベルト・キンケロも、角田を評価するためにもう少し慎重になるべきだと語る。
「角田はスピードと、レースでの強さを持っていることを示した。オーバーテイクも、易々とやっているようにすら見えた。これはアルファタウリやレッドブル、そして彼自身にとっては朗報だったと言えるだろう。でも、飛躍しすぎてはいけない」
キンケロはそう語る。
「彼がうまくいくことを願っている。しかし、ミスをする場面もあるだろう。それは至って普通のことだ」
「ケビン・マグヌッセンが、マクラーレンからF1デビューを果たした初戦で、表彰台を獲得したのを鮮明に覚えている(2014年のオーストラリアGP)。彼はしばらくの間、”未来のチャンピオン”とか、”ふたり目のルイス・ハミルトン”などと呼ばれていた。しかし結局成功することはなかった」
「F1では多くの場合、ひとつのレースだけで判断が下される。そういう意味では、ルーキーが脚光を浴びすぎるのは、大きなリスクだとも言える。今、角田に対して『スター誕生だ!』と評価している人たちが、彼が最初にミスをした後に手のひらを返すようなことがないよう願っている。F1は長い道のりだ。ドライバーは、上に上り詰めるためにはステップをしっかりと踏むことが必要なんだ」
しかしそのステップをしっかり踏むことができれば、角田は素晴らしい結果を掴むかもしれないとキンケロは語る。
「角田の登場は、F1にとっても日本にとっても重要なことだ。長く日本人ドライバーが不在だった。そこに、世界的な興味を惹きつける存在が現れたのだ。しかし彼にはまだ、学ばせる必要がある。あまりにも早い段階で、彼にプレッシャーをかけすぎるべきではない」
「彼は将来、F1で重要な役割を果たすことができる人物だと確信している。しかし、今は特別なプレッシャーをかけるべきではない。確かにその初戦は素晴らしいモノだった。それについて疑いはない。次に何ができるのか、見てみることにしようじゃないか」
Special thanks to Roberto Chinchero, Adam Cooper, Erwin Jaeggi, Oleg Karpov, Christian Nimmervoll
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