F1分析|最後尾から2位表彰台の奇跡……フェルスタッペンの戦略は成功だったのか?
レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは、F1ロシアGPを最後尾からスタートし、2位でフィニッシュした。しかしこのレースを分析してみると、彼のタイヤ戦略は、雨が降るまではうまくいっていなかったように見える。
写真:: Charles Coates / Motorsport Images
先日行なわれたF1ロシアGPの決勝。パワーユニット交換によるグリッド降格ペナルティで最後尾からスタートしたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、2位という望外のポジションでフィニッシュした。
これは、レース終盤に突如降った雨にうまく対応できたことが最大の要因であり、フェルスタッペンもチームも、これを称賛している。
しかし気になるところがある。それは、フェルスタッペンの1回目のピットストップのタイミングだ。ハードタイヤを履いてスタートしたフェルスタッペンは、26周目に1回目のピットストップを行ない、ミディアムタイヤに交換した。このタイミングは、ミディアムタイヤでスタートし、ハードタイヤに履き替えたルイス・ハミルトン(メルセデス)と同じであり、ハードタイヤでスタートしたドライバーの中では最も早かった。これはあまりにも早すぎたのではないだろうか?
他のドライバーを見てみると、フェルスタッペンに次いで早くハード→ミディアムに交換したのはボッタスで、28周目。それ以外の”ハード”スタートのマシンは、30周を超えてからタイヤを履き替えている。
ロシアGPの決勝レースは53周。フェルスタッペンがタイヤを履き替えた26周目はまだまだレースの半分以上が残っているタイミングだった。つまり1ストップで走り切るためには、ミディアムタイヤを履いて、ハードタイヤで走ってきた以上の距離を走らなければならなかったわけだ。
ミディアムタイヤの持ちが良いのであれば、その戦略も考えられる。しかし金曜日のフリー走行2回目で得られたデータからすると、それは考えにくい。それぞれのタイヤのデグラデーションは、計算上はミディアム0.047秒/周、ハード-0.090秒/周(FP2の走行データより算出)。明らかにハードタイヤの方が長持ちするタイヤだったはずなのだ。しかも、このふたつのタイヤのパフォーマンス差は小さく、ミディアムタイヤを履くことに対するメリットはあまりないように見える。
また事実、ミディアムタイヤを履いてレースをスタートしたマシンの多くは、13〜15周程度でハードタイヤに履き替えている。先頭を走っていたランド・ノリス(マクラーレン)は28周目までミディアムを履き続けたし、ハミルトンやセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)も26周目まで走ったが、これは特異な例と言える。
確かにフェルスタッペンはピットストップを行なう前の段階で、隊列の中に捕まり苦しんでいた。今回はいわゆる”DRSトレイン”の中ではオーバーテイクが実に困難だったのだ。そのため、そこから脱却するためにピットストップを選んだ……とも考えられるが、フェルスタッペンがコースに戻った時はジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)の真後ろ。このラッセルはすぐ抜くことができたが、その前にもダニエル・リカルド(マクラーレン)やランス・ストロール(アストンマーチン)が連なっており、最高の場所とは言えない。むしろ再び隊列の中だったのだ。
結局フェルスタッペンは、雨が振るまでリカルドを抜くことができなかった。
ではフェルスタッペンは、早々にタイヤを換えたことで、何らかのメリットを享受できたのだろうか? フェルスタッペンはピットストップの前には、フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)の後ろ5番手まで浮上していた。最後尾からここまで上がっただけでも、驚異的だと言える。しかし全車がピットストップを終えた時点でのポジションは、6番手。しかしその後、アロンソに抜かれて7番手に落ちている。ポジションがふたつ落ちたのは、フェルスタッペンよりも先にピットストップを行なった上位の2台がいたから……つまり、フェルスタッペンはタイヤ交換戦略では、ひとつもポジションを上げることができなかったのだ。そしてチームも無線で警告していた通り、ミディアムタイヤにはデグラデーションが発生……当時のフェルスタッペンには、自力でポジションを上げる力は、もうほとんど残っていなかったはずだ。
抜きづらい”DRSトレイン”ができやすいレースで、最後尾から順位を上げるには、ピットストップの戦略を活かすのは極めて重要だと言える。しかし今回の例を見てみると、レッドブル+フェルスタッペンが採った戦略は、成功とは言えそうもない。
ただ結果論ではあるが、レース終盤ミディアムタイヤで苦労していたことが功を奏することになった。雨が降り始めた際、躊躇なくインターミディエイトタイヤに交換することができたのだ。
47周目にまず下位にいた複数のマシンがピットに入り、インターミディエイトに履き替えた。フェルスタッペンはその翌周、48周目にピットに入っている。これと同時にタイヤを変えた上位勢は、リカルドとカルロス・サインツJr.(フェラーリ)のみ。他はポジションを失うことを恐れ、ピットに入るのを躊躇した。その典型例が首位にいたノリスだった。
フェルスタッペンがいたポジションでは、いわば失うモノがほとんどない状態だった。そのため、インターミディエイトタイヤに換えるというギャンブルがしやすかった。一方でノリスは、ピットストップすれば首位を失う可能性があり、動くに動けなかったのだ。
フェルスタッペンのタイヤ戦略は、成功とはとても言えないものだったと言えそうだ。しかし、逆にそれが功を奏して2位を手にすることができた……そんな姿が浮かび上がってきた。
ホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターは、レース後に次のように語っていた。
「レースは最後まで何があるかわからない、その象徴とも言えるレースだったと思います」
分析をしてみても、それがよく分かる……そんなレースだったと言えるだろう。
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