F1分析|ほとんどのマシンが2ストップだったアメリカGP。実は1ストップが正解だった? マグヌッセン&ハースのファインプレー
F1アメリカGPで唯一1ストップ戦略を採り、大きくポジションを上げて入賞を手にしたハースのケビン・マグヌッセン。彼らが採った戦略が正しかったことが、レースペースの推移を見るとよく分かる。
写真:: Steven Tee / Motorsport Images
F1アメリカGPで勝利したのは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンだった。フェルスタッペンは2回目のピットストップの際に左フロントタイヤの交換に手間取り、大きくタイムロス。ルイス・ハミルトン(メルセデス)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)に先行されたものの、これをコース上で抜き返し、優勝。今季のコンストラクターズタイトル獲得を決めた。
アメリカGPではこの上位勢を含め、ほとんどのマシンが2ストップ作戦を採用した。しかしそんな中、1台だけ異なる戦略を採ったドライバーがいた。ハースのケビン・マグヌッセンである。
マグヌッセンは13番グリッドからハードタイヤを履いてスタート。18周を走ったところでピットインしミディアムタイヤに履き替えたが、この最初のピットインする際の順位は12番手だった。
この時点で残りは38周。今回のアメリカGPではデグラデーション(タイヤの性能劣化)が大きいとされていて、そのままミディアムタイヤで走り切るのは無理……ほとんどの人がそう考えた。
しかしチームは、マグヌッセンに最後までこのミディアムタイヤで走り切らせることを選択。各車が2度目のピットストップを終えた段階では、6番手までポジションを上げた。
その後、フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)、ランド・ノリス(マクラーレン)、セバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)らに抜かれたが、アロンソのペナルティなどもあり最終的には8位となり、貴重なポイントを持ち帰った。
結果的に見れば、マグヌッセンの1ストップ作戦は大成功だった。実際この戦略を採ったことで、1回目のピットストップ時には前にいたチームメイトのミック・シューマッハー(ハース)や、アルファタウリの角田裕毅のはるか前でフィニッシュすることができたのだから。
F1アメリカGPレースペース分析(中団グループ)
Photo by: Motorsport.com / Japan
上のグラフは、アメリカGPでの中団グループの5台(ベッテル、マグヌッセン、角田、ガスリー、シューマッハー)のレースペース推移を示したものである。一見したところ、どのマシンが1ストップで、どのマシンが2ストップなのか分かりづらい。
青で示された折れ線が、マグヌッセンのレースペースである。タイヤ交換が1回少なかったにもかかわらず、彼のペースは紫で示されたシューマッハーのペースとそれほど変わりはない。つまりシューマッハーと比べると、マグヌッセンはピットストップ1回分のロスタイムを稼いだということだ。
しかもシューマッハーのマシンは走行中にデブリを拾い、ダメージを負っていたとも言われる。その手負いのマシンと同じようなペースでしか走っていないのに、マグヌッセンはポイントを獲得した。これは戦略が功を奏した以外の何者でもないだろう。
また他のドライバーたちのペース推移を見ると、今回のレースでは、想像以上にデグラデーションが小さかったことも分かる。いずれのドライバーも、ペースが落ちることはなく、ほぼ横ばい。第2スティントの時にベッテルを見れば、走れば走るほどペースが上がっていっている。
ただ第3スティントを見ると、もうひとつ奇妙なデータが示されているのが分かる……ベッテルのペースは、第2スティントよりも遅いのだ。
現在のF1ではレース中の給油が許されていないため、スタート時にはガソリン満タン。走れば走るほど車重が軽くなり、タイヤのデグラデーションを無視すれば、どんどんペースが上がっていくはずだ。しかしベッテルはレース終盤にタイヤを変えたにもかかわらず、第2スティントよりもペースが遅い。これは、ハードタイヤのパフォーマンスが低かったためだと言える。
ベッテルは第1スティントでミディアム、第2スティントでもミディアムを履くという戦略を実施。レース中には最低でも2種類のタイヤを履くことが義務付けられているため、ベッテルはもう1回ピットに入り、ハードタイヤを履かざるを得なかった。実は角田もミディアム-ミディアムと繋ぐ、同じ戦略を採っていた。
しかしハース勢は違った。スタートでは蹴り出しの面で不利と言われるハードタイヤを装着。この第1スティントでハードタイヤを”使わなければならない”という義務を消化し、その後に性能に優るミディアムを履いた。そして、そのままチェッカーまで走り切るという選択肢を手元に確保することに成功したのだ。
マグヌッセンによればこの戦略は、チームの判断だという。
「僕らが成し遂げた戦略は、純粋にチームのガイダンスによるものだった。僕らのような小さいチームにとって、こういう戦いをできたのは素晴らしいことだ」
またチーム代表のギュンター・シュタイナーも、この戦略はギャンブルでもなんでもなかったと語っている。
「チーム全体が素晴らしい仕事をした。マシンは速く、ケビンはこのタイヤで最後まで走れると確信していた。これ以上を求めることはできない」
「ギャンブルをしたわけではない。我々はチャンスを掴んだのだ。ソフトタイヤに履き替えるというバックアップ戦略もあったが、ポイントを獲得することができた」
最近のF1チームは、コンサバに攻めることが多いように思う。リスクを冒さず、比較的早めにタイヤを交換したり、あるいは後のことを考えて、パフォーマンスが劣ったタイヤで走行を続けるシーンが目立つ。前戦日本GPでも、そういう傾向は見てとれた。
しかし今回のハースは、タイヤの状況をしっかりと見極め、正しい戦略を実行してポイントを手にした。他と同じ戦略を採っていれば、同じ結果は到底見込めなかっただろう。
レースペースを見れば、それがよくわかる。
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