F1分析|フェラーリも認めるモナコGPでの”戦略ミス”。その時一体何が起きていたのか?
フェラーリはF1モナコGPで痛恨の”戦略ミス”を犯し、レッドブルに対して敗北する格好となった。しかもルクレールは、ポールポジションからスタートしながら4位……彼らも認めるこのミスが起きた時の状況を検証する。
写真:: Mark Sutton / Motorsport Images
F1モナコGPを制したのは、レッドブルのセルジオ・ペレスだった。ペレスは3番グリッドからスタート、フェラーリのシャルル・ルクレールをアンダーカット、カルロス・サインツJr.をオーバーカットして先頭に躍り出ると、そのままレースを逃げ切って今季初優勝を手にした。
これはペレスにとっては通算3勝目。昨年のアゼルバイジャンGP以来、レッドブル加入後2勝目ということになる。
ペレスの勝因は、ある意味ライバルであるフェラーリの”戦略ミス”。しかもふたつも。これはフェラーリ陣営も認めていることだ。では、一体どんな”ミス”があったのだろうか? データを検証してみよう。
上位4台のスタート直後の隊列は、ルクレール-サインツJr.-ペレス-マックス・フェルスタッペンの順。各車がウエットタイヤを装着し、乾きゆく路面の中、タイヤをマネジメントしながら周回を重ねていた。
そんな中最初に動いたのは、3番手のペレスだった。ペレスは16周を走り終えたところでピットイン。インターミディエイトタイヤに履き替えた。
F1モナコGP決勝ラップタイム分析(前半)
Photo by: Motorsport.com / Japan
当時早々にインターミディエイトタイヤを履いたピエール・ガスリー(アルファタウリ)やセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)は、トップ4と遜色ないペースで走っていた。これを見てレッドブル陣営は、前を行くフェラーリ勢を揺さぶろうと考えたはずだ。タイトルを争うフェルスタッペンの様子見として、先にペレスにインターミディエイトタイヤを履かせた……という側面もあったかもしれない。
インターミディエイトタイヤを履いたペレスは、実際に速かった。先頭を行くルクレールとの差は当初25.5秒ほどあったが、それはどんどん縮まっていった。
これにルクレールが反応したのは、ペレスのピットインから2周後の18周を走り終えたところだった。ルクレールがピットストップした時、ペレスとの差は19.6秒。今回のレースでは、ピットストップ時のロスタイムは21〜22秒程度であり、これではペレスに先行されてしまうのは火を見るよりも明らかだった。
フェラーリのここでのミスはふたつある。ひとつ目は、もしペレスに反応するならば、もう1周早くピットストップするべきだったということだ。17周を終えた時点でのペレスとの差は24秒程度であり、ここでタイヤ交換を実施していれば、ペレスの前でコースに戻れたはずだ。
このタイミングを逃したにも関わらず、ピットに呼び込んでしまったのがふたつ目のミスだ。この時点では、サインツJr.と同じように、ウエットタイヤのままドライタイヤに履き替えるまで走行を続けるべきだっただろう。そして前述のように、ペレスに先行を許してしまったのだ。
そして2回目のピットストップの際にも、判断ミスが起きた。
やはり後方を走っていたマクラーレンのダニエル・リカルドは、19周を走り切ったところでピットに入り、ドライタイヤ(ハード)を履いた。このペースもやはり優れており、路面コンディションは既にドライ寄りになっているのは明らかだった。そのため他のマシンがいつドライタイヤに切り替えるのかが、この時点での焦点となっていた。
上位勢で真っ先に動いたのが、先頭を走っていたサインツJr.だった。サインツJr.はこの時点まで、スタート時に履いたウエットタイヤで凌いでいた。しかし後方からはインターミディエイトのペレスが迫っており、その差は2.1秒にまで縮まっていたのだった。しかもラップタイムの差は1周あたり5秒以上であり、コース上でオーバーテイクされる前にピットストップしようというのは、当然の判断だったとも言える。
ミスはこの同じタイミングで、ルクレールもピットに入ってきてしまったことだ。チームは当初、ルクレールにピットインを指示したが、すぐにステイアウトと指示を変更した。しかし時既に遅し……ルクレールはピットレーンに進入しており、タイヤ交換をしなければならなかった。しかもピットボックスにたどり着いた時には、まだ前でサインツJr.が作業していた。そのため、作業を受ける前に待たなければならなかったのだ。
FIAから発表されている当該ピットストップ時のピットレーン滞在時間は、サインツJr.が24.666秒なのに対し、ルクレールは28.034秒。単純計算で3.368秒失っている計算になる。
フェラーリとしてはさらに誤算があった。ドライタイヤに履き替えても、それほど速くなかったのだ。おそらく、タイヤの温度が上がるのに時間がかかったということだろう。これにより、ドライタイヤを履いたフェラーリと、インターミディエイトタイヤを履いたレッドブルのペースはほぼ互角。本来ならば、先にタイヤを交換した方が速いペースを刻むことができるはずだが、それができなかったわけだ。
フェルスタッペンはピットインするラップで踏ん張り、コースに戻った時にはルクレールの僅か前。オーバーカットを完了させたわけだ。ルクレールとしては、ピットで待つことを避けるべく、ピットインを1周後にするべきだった。
またフェラーリとしては、サインツJr.がコースに戻った位置も誤算だっただろう。コースに復帰した時、目の前には周回遅れのニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)がいた。すぐに進路を譲られたとはいえ、コース幅が狭いモナコではタイムロスに繋がる。セクタータイムを見れば、おそらく2秒ほど失っていたはずだ。これが致命傷となり、ペレスに先行されることになった。
サインツJr.はペレスに、ルクレールはフェルスタッペンに、それぞれオーバーカットされてしまったフェラーリ……まさに忘れたいようなピットストップだっただろう。
そしてここはモナコ・モンテカルロ……その後はコース上で抜くのは難しく、結局はそのままチェッカーを迎えることになった。
フェラーリ陣営は、今回の判断ミスに至った理由を分析すると公言している。今季のフェラーリは、レッドブルとタイトルを争う立場。その苛烈な戦いの中で、ミスが許される許容量は決して多くない。
悲願のタイトルを獲得するためには、もうミスは許されないだろう。
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