F1日本GP直前!〜角田裕毅にエール〜|角田を“レース引退”の危機から救った恩師が振り返る「“面白い子”だと思った」
F1ドライバーとして初めての日本GPを迎える角田裕毅へのエールを、彼と関係の深い人物からもらう本企画。FIA F4時代のチーム監督である阿部正和が、角田がヨーロッパ行きのチケットを手にするまでのエピソードを話してくれた。
開幕まで間もなくとなった2022年のF1日本GPに、唯一の日本人ドライバーとして臨む角田裕毅。F1参戦2年目の彼にとっては、初の母国GPとなる。
そんな角田と縁の深い人物にインタビューする本企画。ここまではSRS(鈴鹿サーキット・レーシングスクール/現ホンダ・レーシングスクール鈴鹿)時代に校長として角田を見出した中嶋悟、そしてそのSRSでの同期である笹原右京と大湯都史樹のインタビューをお届けしたが、今回は角田がFIA F4に参戦していた時のチーム監督、阿部正和に話を聞いた。
今もHFDP(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)の監督として、SRS卒業生の若手で構成されるチームを率いる阿部監督。彼は自身のポリシーとして、いずれチームに迎えることとなる若手ドライバーのパーソナリティや物事に取り組む姿勢を事前に知っておきたいとして、SRSのスクールにも度々訪れている。それは角田が受講した2016年度のスクールでも同じであった。
そこで阿部監督や講師陣から見た角田の評価は「面白い子」だった。
「講師と一緒に走りを見て、『面白いな』と。派手さはないんだけど、クルマのことに文句を言わないし、うまくそれ(クルマ)に合わせて乗っていました。実際上手でしたね」
「速く走らせる方法を自分なりに考えていたんだと思います。一見速くなさそうに見えても『もしかして今の速かったんじゃないか?』ということが多々ありました」
「あとは、物怖じしませんでしたね。私がホンダのモータースポーツ部の人と話をしている時も、シェイクか何かを飲みながら割って入ってきて『阿部さん、俺どうでしたあ?』って(笑)。その辺りも含めて、自分としては気に入っていました」
そんな角田はスクールでは「飛び抜けて速いセッションもあれば、失敗しちゃったなというセッションもあった(阿部監督)」とのことで、結果的には大湯が首席、笹原が次席という形でスカラシップを獲得。角田は選外となってしまった。
翌2017年シーズンは、スカラシップを獲得した笹原と大湯がHFDPのフルバックアップの下、『HFDP/SRS/コチラレーシング』からFIA F4に参戦することとなったが、HFDPのバナーが付かない『SRS/コチラレーシング』の方はシートが1席空いていた。もちろん持ち込み金の有無も含めてサポート体制は異なるが、笹原や大湯と同じ土俵で戦えるシートだ。角田は当時、スカラシップを獲得できなければレースを辞めると話していたというが、阿部監督は残る1席に角田を起用したいと考えていた。
「本人はスカラシップを取れなかったらレースを辞めると言っていましたが、我々が保有しているクルマが4台あって、その内ひとつのシートが残っていました。講師陣や中嶋校長からも『(角田は)面白いよね』」という評価だったので、ホンダさんと交渉を始めました」
そう語る阿部監督。角田はスカラシップ選考会で“落選”しているドライバーであり、当時のホンダ側からはそんな彼を起用することに難色を示すような声も出ていたという。しかし阿部監督は粘り強く関係各所との交渉を続けた。
「(交渉に)2ヵ月くらいかかりましたね」と阿部監督は振り返る。
「ドライバーとして面白いし、そのポテンシャルは講師も中嶋さんも認めていましたから。しつこく食い下がったのは自分だったと思います。興味があったんだと思います」
2017年、スカラシップを逃した角田はブルーのマシンでの参戦。赤のHFDP号、笹原が追いすがる
阿部監督のプッシュもあり、晴れてF4にフル参戦することになった角田。白地に赤のラインが入ったマシンを駆るスカラシップ組とは異なりブルーのラインが入ったマシンを走らせる角田は、開幕ラウンドでいきなり勝利を挙げるなど活躍し、笹原(ランキング2位)、大湯(ランキング4位)に割って入るランキング3位を獲得した。
翌2018年シーズン、笹原と大湯は全日本F3(現スーパーフォーミュラ・ライツ)に昇格。実は角田にも全日本F3昇格の話があったようだが、阿部監督はもう1年角田をF4で走らせることをホンダや角田本人に提案した。
「もう1年F4で走らせて、チャンピオンを獲らせたいと言いました。そうすることで、ヨーロッパに行った時にスーパーライセンスポイントの面でも有利になるのではないかと思いました」
2年目はHFDPのフルバックアップの下でチャンピオンに
Photo by: Tomohiro Yoshita
「さらに条件として、シーズン途中にF3のテストをやらせて欲しいとお願いしました。そうすれば、ヨーロッパでテストなどがあった時にすっと入れる(対応できる)でしょうから」
実際に角田はF4での2年目を戦う傍ら、TODA RACINGのF3車両を使って何度かテストを重ねた。そして阿部監督の読み通り、角田はハンガロリンクで行われたレッドブルのF3テストに参加することになったが、そこで好タイムをマーク。ヘルムート・マルコの目に留まった。
そこからは、F4でチャンピオン獲得、レッドブルジュニアに加入し欧州へ。F3、F2を1年で卒業してF1に……と怒涛の勢いで階段を駆け上がっていった。そんな角田のF1での活躍をどう見ているのかと聞くと、阿部監督は「もう毎戦毎戦、ハラハラドキドキしながら見ています」とのこと。それは親心のようなものかと尋ねると、「そう言うと角田の親父に悪いけど、そういう気持ちもかなりあると思います」と語った。
角田と食事を摂ったりメッセージを交わす中で、レースに取り組む姿勢などメンタル面での成長も実感しているという阿部監督。フォーミュラ・ドリーム時代から数多くの若手を手にかけてきた中でついに誕生したフルタイムF1ドライバーということで「正直ホッとしているというか、もうこの仕事終わって良いかな(笑)、と思うくらい大きな出来事でした」と笑顔を見せる。
Yuki Tsunoda, AlphaTauri AT03
Photo by: Red Bull Content Pool
阿部監督は来たるF1日本GPに関しても、チケットこそ確保しているものの、来場するかどうかはまだ迷っているという。「難しいですよね。そばで見たいような……ちょっとドキドキするかもしれません」という彼の心境もやはり親心からか。
「常に頑張っているとは思いますが、とにかく頑張ってくれ、のひと言です」と阿部監督は言う。
「F2の時もそうでしたが、彼はもう一歩、もう1ポジション上げたいと欲をかいた時にコースアウトしちゃったりするので、自分を追い込まず、でも頑張って欲しいです」
「とにかく彼にとって初の日本GPですから。応援してくれている方に恩返しができるよう、持ち前の力を見せて力強い走りをして欲しいです」
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