大阪が目指す、新しいF1開催のカタチ。大阪観光局の溝畑宏理事長「鈴鹿はリスペクトしつつ、ファンの皆さんに『すごい』と思ってもらえるモノを作る」

大阪観光局の溝畑宏理事長に、最近正式に表明された大阪でのF1誘致計画について話を訊いた。具体的な内容はこれから詰められることになるようだが、正式発表に向けてすでに周到な準備が進められていたようだ。

溝畑宏、大阪観光局理事長

 F1を誘致することを正式に発表した大阪観光局の溝畑宏理事長に話を訊いた。彼らは、これまで長く日本でF1を開催してきた鈴鹿市と鈴鹿サーキットをリスペクトしつつ、日本での新しいF1の姿を描こうとしている。そして鈴鹿から開催権を奪い取るつもりは一切ないとも語った。

 大阪でのF1誘致計画があるのが明らかになったのは、1月15日のことだった。この計画の存在が明らかになると、「鈴鹿でのF1開催が奪われてしまうのではないか」といった不安の声が、多くのF1ファンから上がった。

 しかし大阪がどんなものを目指し、どんな計画が進んでいるのか、その真意がなかなか伝えられていないのも事実である。

 そこでmotorsport.comは、大阪観光局の溝畑宏理事長に単独インタビューを実施。計画の詳細を尋ねた。

他のグランプリに負けないモノができる可能性

「実は観光庁の長官をやっている時から、F1に関心を持っていたんです」

 溝畑理事長はこれまで、Jリーグの大分トリニータの運営会社社長や観光庁の長官など、様々な役職を歴任してきた。その観光庁長官時代、小林可夢偉らが来庁したことでF1の可能性を意識するようになったのだという。

「F1についての会議をやったことがあります。その時一緒に来てくれたのが、小林可夢偉選手だったんです。その時、F1は国際的なインパクトがあるし、富裕層の方もたくさん観戦に訪れる、合わせて色々なイベントもできる凄まじいイベントだと実感しました。経済への波及効果もあると思いました。それでF1に興味を持ったんです」

 溝畑理事長はそう語る。

「そして大阪(観光局)にやってきました。大阪は、周囲に京都・奈良・神戸という素晴らしい都市もある立地ですから、日本の観光を変えるトップランナーになることが大事だと思いました。そこにF1は活きると思ったんです」

「万博を開催し、IRを開業する中で、交通体系も出来上がっていきます。しかもインバウンドで多い時は1200万人の観光客を受け入れており、そのキャパシティも大きくなっています。その上で周りの都市も巻き込んでいけば、他の開催地に負けない魅力的なF1が開催できると考えています。そして世界のF1市場に対して、これまでのF1にはなかった素晴らしいサービスと会場を提供すること、それが我々の目指すところです」

 正式に誘致計画が発表されたのは今年になってからだが、実は1年前から計画はスタートしていたのだと、溝畑理事長は明かす。

「これまでも府知事などがF1への興味について発言してきたことがありました。しかし、あくまで情報収集をするだけに留まっていました。私も大阪にやってきた当初は、IRを実現するのが最大のミッションでしたから、F1について具体的に動いていたわけではありませんでした」

「でも実は今から1年ほど前、大阪にF1を誘致できるものなのか、しっかり調査してみようということになりました。ある時はシンガポール、ある時はヨーロッパに行き、関係者と接触を重ねていきました。それで分かったのは『100%できない』という状況ではないということでした。今は一国一開催という大原則はないということも分かりました。ですから、FOMにとって魅力的な体制をつくれば、誘致は可能だと判断したんです」

公道なのか? それとも常設サーキットなのか?

 しかし海外のグランプリで多い、自治体主体のビジネスモデルが考えられているわけではない。民間主導のプロジェクトとして、この大阪でのF1計画を構築していくつもりだと溝畑理事長は断言する。すでに興味を示している企業もあるようだ。

「国内外の企業に水面化でアプローチして、F1に興味あるかどうかということを尋ねました。すでに興味があるという企業も何社かいます」

 そう語る溝畑理事長は、現在検討されているビジネスモデルについて明かしてくれた。

「まずは大阪観光局が誘致の主体となりますが、しっかりと民設民営のスキームを作ります。大阪府や大阪市に赤字を補填してもらうような、そんな形にはしません。そんなイベントをやっても長続きしませんし、そんなイベントならやらない方がいいと思います」

「ただ、観戦券収入とスポンサー収入だけの従来のビジネスモデルとは違った視点でできないか、それにチャレンジしたいと思っています。サーキットを作るのであれば、そこが365日稼働してF1以外のレースも誘致し、様々なイベントや会員から収入を得る……さらに周囲のホテルなどからの収益も得る。関連するビジネスを集積させ、全体で稼働させる形を考えています。そのビジネスモデルをどう大きくできるかということが鍵になると思いますし、この1年でそれを作れるかが勝負だと思います」

 多くの報道では、レースは公道で行なう計画であるとされているが、溝畑理事長は新しい常設サーキットを建設する可能性を排除したわけではないと説明する。

「公道でやると決めたわけではないので、幅広い議論をしていきたいと思います。FOMと交渉するにあたって、その決定までにそれほど長くかけられるわけではありませんが、公道でやるならどこなら可能なのか、それはAパターンとして考えています」

「もうひとつ、新しいサーキットを作り、ビジネスを構築していくというパターンも想定しています。そうなると、ビジネスの仕方がまったく違ってくると思います」

「ただ、具体的に検証が終わったわけではないので、データを基にしっかり検証して、判断したいと思っています。決めた時には、データを基に説明します」

「このプロジェクトは、1〜2年で勝負をつけるものではありません。成功するには長い時間が必要になります。でもまずやらなければいけないのは、公道なのか常設サーキットなのかを決めるということ。そしてどちらがリスクが少ないかということを見極めることです。1年くらいで全体の概要を皆さんにお示しして、そして絵姿をFOMに提出しなければいけないと思います」

「とにかく今は、我々が誘致の中心になるということをハッキリさせたという段階です。それで大阪府も大阪市も応援してくれて、正式に誘致を目指せるようになったのは大きいです。これで関係当局とより踏み込んだ議論ができる。そういう次の段階に移ってきたということです」

鈴鹿は大先輩。リスペクトしかない

 サーキットと周辺の施設で収益を上げる……これはサーキットと遊園地、そしてホテルなどが一体となった鈴鹿サーキットのビジネスモデルによく似ているように思える。そう尋ねると、溝畑理事長は「その通りだ」と語るとともに、これまでF1を開催してきた鈴鹿サーキットへのリスペクトは忘れてはいけないと語った。

「公道でやらないということになれば、野球で言うボールパークとかそういう発想になると思います。サーキットを中心とした、自動車のテーマパークということになると思います」

「私がJリーグの仕事をしていた時には、スタジアムの周りに小動物園を作ったり、温泉に入れるようにしたり、様々な選択肢を与えられるようにしました。試合がなくても遊びに行ける……そうじゃないとスタジアムが死んでしまうんですよね」

「でもとにかく、今までやってきた人たちをリスペクトすることは忘れてはいけないと言い続けています。ホンダの関係者、モビリティランドや鈴鹿の関係者の皆さんは、我々にとっては大先輩。リスペクトしかないです。ですから、鈴鹿からF1を奪おうなんてとんでもないです。共存共栄して、一緒に頑張って、世界的に見ても質の高い開催地になれればいいと思っています」

F1ファンが「すごい」と思えるグランプリを

 そしてもちろん、既存のファンのことを忘れているわけではない。多くの声を聞き入れ、F1のファンにも「すごいな」と言ってもらえるグランプリを作り上げたいと、溝畑理事長は言う。

「今のF1を好きな皆さんが何を求めているか、それを徹底的に調べていかなきゃいけないと思っています。ファンの皆さんと対話していくのは、すごく大事だと思っています」

「鈴鹿はリスペクトしつつも、大阪でしかできないことを目指したい。そして、皆さんの意見を聞いて、F1好きの人たちにも『すごいな』と思ってもらえるモノ、ファンの皆さんに愛される施設を作らなければ、成功はないと思っています」

「Jリーグの時にも、お客様が何を求めていて、何に満足しているかということを徹底的に調べました。ですから、F1についてもファンの皆さんの意見を直接聞く場を設けようと思っています」

 

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