F1 オランダGP

F1分析|角田裕毅17位。まるで”一番悪いシナリオ”をあえて選んだみたい……それほどまでに不可解だったオランダGPのRBの戦略

角田裕毅はF1オランダGPを17位でフィニッシュ。レース中のデータを分析すると、全てのピットストップで悪い方を選んだようにすら思える。

Pierre Gasly, Alpine A524, Carlos Sainz, Ferrari SF-24, Nico Hulkenberg, Haas VF-24, Yuki Tsunoda, RB F1 Team VCARB 01, Daniel Ricciardo, RB F1 Team VCARB 01

Pierre Gasly, Alpine A524, Carlos Sainz, Ferrari SF-24, Nico Hulkenberg, Haas VF-24, Yuki Tsunoda, RB F1 Team VCARB 01, Daniel Ricciardo, RB F1 Team VCARB 01

写真:: Andy Hone / Motorsport Images

 F1オランダGPの決勝レースを、RBの角田裕毅は17位でフィニッシュした。角田は戦略がまったく上手くいかなかったと不満を訴えていたが、そのレースをデータを基に振り返ってみよう。

 角田は11番グリッドからソフトタイヤでスタートしたが、いきなりハースのニコ・ヒュルケンベルグに先行され12番手、さらにはメルセデスのルイス・ハミルトンにも抜かれ、13番手でレース序盤を推移した。

 その後、ヒュルケンベルグはしばらくの間ハミルトンを抑えたが、10周目にはハミルトンがオーバーテイクを完了。角田の目の前には再びヒュルケンベルグが現れた。この頃のヒュルケンベルグはすでにタイヤのデグラデーション(性能劣化)に苦しみ、ペースを落としていた。一方で角田のペースは安定していたのだが、なかなかヒュルケンベルグを攻略できなかった。

F1オランダGP決勝レースペース推移:角田vsヒュルケンベルグ

F1オランダGP決勝レースペース推移:角田vsヒュルケンベルグ

写真: Motorsport.com Japan

 この状況が上のグラフだ。濃いピンク色がヒュルケンベルグ、青い線が角田である。赤丸で示した10周目、11周目は、角田のペースの方が圧倒的に優れているのが良くわかる。しかし真後ろに追いついた12周目には抑えられたことで2台のペースはほぼ同じ。13周目も同様だった。

 角田がヒュルケンベルグを抜けなかった理由のひとつが最高速の違いである。決勝レース中、1コーナー手前に引かれたスピードトラップでの最高速は、ヒュルケンベルグが328.7km/hだったのに対し、角田は315.9km/h……実に13km/h近い差があったのだった。これでは、ラップタイムがいかに速くとも、角田としてはオーバーテイクを成功させるのが実に難しかったはずだ。

 コース上でヒュルケンベルグを攻略できないと判断したチームは、角田にピットインを指示する。つまり、タイヤを先に交換することで新しいタイヤのアドバンテージを活かし、アンダーカットしようとしたのだ。

 しかし角田がピットインした瞬間、チームにとってはひとつの誤算があった。それは、あろうことかヒュルケンベルグも同じタイミングでピットストップしてしまったのだ。これで角田は、ピットアウト後も再びヒュルケンベルグの後ろで過ごすことになったわけだ。

 ここが、まずひとつの戦略ミスである。このタイミングでのピットストップは、ヒュルケンベルグをアンダーカットするのと同時に、先にタイヤ交換を済ませていたウイリアムズのアレクサンダー・アルボンにアンダーカットされるのを阻止するという意味合いがあったはずだ。ただ、ヒュルケンベルグと同じタイミングでピットインしてしまっては、アルボンの前でコースに戻ったとしても何の意味もなさない。もしヒュルケンベルグがピットインするならステイアウトだ! と角田に指示しておくべきだった。当時の角田には、まだそれほどタイヤのデグラデーションの傾向が見て取れないので、自動的にヒュルケンベルグが前からいなくなってくれれば、ペースを上げられた可能性がある。

 そしてこのミスが、角田にとってふたつ目、そして3つ目の苦境につながっていくことになる。それがこのグラフを見るとよくわかる。

F1オランダGP決勝レースギャップ推移(中団グループ)

F1オランダGP決勝レースギャップ推移(中団グループ)

写真: Motorsport.com Japan

 このグラフは、レース中の各車の首位との差を示したものだ。角田にとっての3つ苦境は、このグラフから全て見て取れる。

 ひとつ目は赤丸で示したヒュルケンベルグに抑えられた場面。ふたつ目の苦境はアルピーヌのエステバン・オコンに2度にわたって抑えられたこと(青丸)、そして3つ目はウイリアムズのローガン・サージェントに抑えられたこと(緑丸)だ。

 1回目のピットストップを終えた角田は、前述の通りヒュルケンベルグの後ろのままコースに復帰した。そのヒュルケンベルグは徐々に角田を引き離し、そしてまだタイヤを変えていなかったオコンをあっさりとオーバーテイクしていった。しかし角田はオコンの真後ろにつくもなかなかオーバーテイクするに至らず、そうこうしているうちにオコンはピットイン……この瞬間は「前が開けた」と安堵したが、実はアンダーカットされたのと同じような形となった。その数周後に2度目のピットストップを行なった角田は、オコンの真後ろでコースに復帰。そして再びオコンを抜けなかったのだ。これでは、1回目のピットストップ後にヒュルケンベルグの後ろに再び戻ってしまったのと同じことの繰り返しだ。

 しかもそのオコンは、前に現れたサージェントをオーバーテイク。一方で角田は、フィニッシュまでサージェントを抜けなかった。

 角田がここまでオーバーテイクできなかったのは、とにもかくにも最高速が足りなかったことにある。そんな中で2ストップ作戦を選ぶとは、完全なミスに他ならない。

 2ストップ作戦で前を追うならば、1ストップでペースが落ちたマシンをコース上でオーバーテイクしなければならないシーンも当然出てくる。そのためには、当然優れた最高速がなければ成立にくい。にもかかわらず、RBが最高速重視ではないマシンセッティングで2ストップ作戦を採ってしまったことには、大きな疑問符がつく。

 その上、1回目は前述の通りヒュルケンベルグ、2回目はオコンの真後ろでコースに戻るようなタイミングで角田にピットインを指示するのも、理解に難しい。厳しい言い方をすれば、最も悪いタイミングを選んでピットに呼び込もうとしたとしか思えないくらいだ。

 むしろ今回のマシンならば、チームは1ストップを狙うべきだっただろう。前述の通り、ソフトタイヤでのペースは悪くなかったし、前を行っていたヒュルケンベルグがピットに入ってくれたのだから。しかも最高速は遅くとも、たとえば30周目前後(グラフ黄丸の部分)のように、最高速に優れるマシンを抑え込むことはできたのだから。

 角田にとってオランダGPは、あまりにも悔しすぎる1戦となった。スタート位置を考えればなおさら……チームには、徹底的な見直しと検証を期待したい。

 
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