F1 イタリアGP

F1分析|マクラーレンはなぜモンツァで勝利を逃したのか? 読みきれなかった路面の改善と”パパイヤ・ルール”

フェラーリのシャルル・ルクレールが劇的な勝利を手にしたF1イタリアGP。そのレースペースからフェラーリの勝因、そしてマクラーレンの敗因を分析する。

Ferraris Strategiecoup bringt Monza-Sieg - Leclerc: "McLaren in Fehler gehetzt"

Ferraris Strategiecoup bringt Monza-Sieg - Leclerc: "McLaren in Fehler gehetzt"

写真:: LAT Images

 F1イタリアGPを勝利したのは、フェラーリのシャルル・ルクレールだった。ルクレールは1ストップでレースを走り切り、2ストップを選んだマクラーレンのオスカー・ピアストリから逃げ切った。

 ピアストリとしては、言ってみれば足を余して敗れた格好。まさに痛恨の敗戦だったと言えよう。

 上位4チームの中で、フェラーリ以外の6台は全て2ストップを選択した。それを考えれば、今回のレースでは2ストップがセオリー……マクラーレン陣営としては、いずれフェラーリも2回目のピットストップを行なうだろうと高を括り、ルクレールに首位を明け渡すことになったとしても、ピアストリを先にピットに呼び込むことにした。これが敗戦のきっかけとなったわけだ。

F1イタリアGP決勝レースギャップ推移

F1イタリアGP決勝レースギャップ推移

写真: Motorsport.com Japan

 上のグラフは、レース中の先頭からの各車のギャップを示したグラフである。2回目のピットストップを終えたピアストリは、ルクレールの18.538秒後方でコースに復帰した。この時点で残りは14周……つまりピアストリとしては、1周あたり1.3秒程度ずつルクレールよりも速く走らなければ、首位を奪い返すことはできない計算となる。

 グラフを見ていただくと、オレンジ色の点線で示したピアストリが、赤の実戦で示したルクレールとの差を一気に縮めているのが見て取れる。しかしそのペース差は十分なモノではなく、結局は最終的に2.6秒差でルクレールが逃げ切ることに成功した。

 これについてフェラーリのフレデリック・バスール代表は「ルクレールがハードタイヤで10周走った後、最後まで走り切れるのは明らかだった」と語っている一方、敗れたピアストリは「タイヤの状態からすると、1ストップは非常にリスクの高い判断に見えた」と語っており、ルクレールの勝利は、終わってみれば当然のことだったようにも見える。

 しかしピレリのモータースポーツ・ディレクターであるマリオ・イゾラは、こんなことを言っている。

「第2スティントの後、2ストップを選択したドライバーのグレイニングははるかに小さく、これはコースが改善していた兆候だった。それから雲がかかり、気温が変化したことも原因かもしれないし、路面にラバーがついた(タイヤのゴムが付着した)ことも原因だったかもしれない」

 イタリアGPの舞台となったモンツァ・サーキットは、今回のグランプリ開催に向けて路面が全面再舗装されたばかり。レースが開催されたのも、再舗装完了後は今回が初めてだった。そのため、路面の改善度合いは大きかった。

 またレース中の路面温度が周回を重ねるごとに低下したことも、タイヤを労わる上で好条件となったとみられる。レーススタート時には52度だった路面温度は、30周目には46度、最終周には44度まで下がった。

 レース中の各車のラップタイム推移を見ると、それを表していると思えるデータが見て取れる。

F1イタリアGP決勝レースペース推移

F1イタリアGP決勝レースペース推移

写真: Motorsport.com Japan

 上のグラフは、上位勢の決勝レース中のラップタイムの推移をグラフ化したものである。この6台のうち5台はミディアムタイヤでスタートしたが、レッドブルのマックス・フェルスタッペンだけが唯一ハードタイヤでスタートした。

 フェルスタッペンの最初のスティントを見ると、終盤(赤丸で示した部分)にはペースが落ちているのがよく分かる。

 そのフェルスタッペンは第2スティントでもハードタイヤを選択。第2スティントの周回数は第1スティントとほぼ同等だったが、終盤(緑丸で示した部分)にペースが下落している傾向は見られない。

 当然周回を重ねたことで燃料が消費され、車重が軽くなっていたという要素もあるだろうが、イゾラ氏が指摘するようなコースの改善、路面温度の低下という要素も、このペース推移の傾向に寄与しているはずだ。

 実際に勝ったルクレールのペース推移を見ても、第2スティントは38周という長丁場となったにも関わらず、ペース下落の傾向はほとんど見られない。マクラーレンとしては「どうせルクレールのペースは落ちるだろう」と思っていたのかもしれないが、これではいかに最速のピアストリとて届かなかった。

 ただ逆を言えば、先頭を走っているドライバーとしては、先に動くというのはセオリーに反するとも言える。本来ならばピアストリは、ルクレールの動きを見てから動けばよかったわけだ。それがセオリーであると言える。しかも、ピアストリが2回目のピットストップを決断した時、ルクレールは5.6秒も後方にいた。もしルクレールがアンダーカットを狙ってピットストップするのなら、その1周後にピットストップすれば、ポジションを明け渡すことはなかったはずだ。

 ただマクラーレンとして難しかったのは、”パパイヤ・ルール”の存在かもしれない。もしピアストリがもう数周……1〜2周でも遅れてピットストップしていれば、チームメイトのランド・ノリスにアンダーカットを許し、先行されていたはずだ。実際ピアストリが2回目のピットストップを終えてコースに復帰した時、ノリスは2.3秒後方に迫っていたのだ。

 もしノリスがアンダーカットするような形となってしまえば、チーム内でのクリーンなバトルを目指した”パパイヤ・ルール”は成立し得ないし、新たな火種を生むことにも繋がりかねない。しかしそれで勝利をライバルにさらわれてしまっては、元も子もないのだが……。

 
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