F1 サウジアラビアGP

F1分析|角田裕毅らを翻弄したマグヌッセン&ハースF1の頭脳戦。そのレースペースを分析……そりゃあ抜けないわけだ!

ハースF1は、抜群のチームワークを見せ、F1サウジアラビアGPで貴重な1ポイントをもぎ取った。マグヌッセンは、かなり高いパフォーマンスがあったため後続を抑え切れた、そんな印象がある。

Kevin Magnussen, Haas VF-24

 2024年のF1第2戦サウジアラビアGP。レッドブルのマックス・フェルスタッペンの強さ、そして急遽代役としてフェラーリからF1デビューを果たしたオリバー・ベアマンの活躍などが注目を集めたが、もうひとり注目を集めたドライバーがハースF1のケビン・マグヌッセンだった。

 マグヌッセンは計20秒のタイム加算ペナルティを受けると、一気にペースダウンして後続のマシンを押さえ込んだ。そして、まだタイヤ義務を消化していないチームメイトのニコ・ヒュルケンベルグを先行させた。この結果、ヒュルケンベルグはピットストップで実質的なポジションを落とすことなくコースに復帰することができ、最終的には10位入賞。貴重な1ポイントを持ち帰った。

 これを、レース中のラップタイム推移のグラフから読み取ってみよう。

 マグヌッセンは10周目に、ウイリアムズのアレクサンダー・アルボンとの接触があったとして、10秒のタイム加算ペナルティを科されることになった。その後、17周目にはRBの角田裕毅をコース外から抜いたとして、さらに10秒のタイム加算を受けた。

 これでマグヌッセンが背負ったペナルティは合計20秒。これでは、超僅差の中団グループで入賞を狙うのは事実上不可能。そこでハースは考えたのだ。マグヌッセンに後続のマシンを抑えさせ、当時まだピットストップを終えていなかったヒュルケンベルグを先行させることで入賞を目指そうと。

 ハースの小松礼雄代表は、次のように説明している。

「ケビンは20秒のペナルティを受けたので、ポイントを獲得するのは不可能でした。10位以上になれるチャンスがあるのは、ニコだけだったんです」

「ニコが十分なギャップを作ることができるかどうかを考えました。つまり、ケビンに仕事をしてもらうことが、我々に残された唯一のチャンスだったんです」

 そしてチームはマグヌッセンにペースを落とすように指示。するとマグヌッセンは、21周目には1分34秒923で走っていたところ、翌周には1分35秒804、続く周は1分36秒198と、1秒以上ペースを落としたのだ。

■マグヌッセンの絶妙なペースコントロールをグラフでチェック

F1サウジアラビアGPの決勝レースペース分析:入賞争い

F1サウジアラビアGPの決勝レースペース分析:入賞争い

写真: Motorsport.com / Japan

 上のグラフは、サウジアラビアGPを10番手から14番手でフィニッシュした5人のドライバーのレースペースの推移を、折れ線グラフで示したモノだ。縦軸がラップタイムで、上に行けば行くほど速いということを示している(縦軸の目盛りはラップタイムを秒に換算したもの)。一方で横軸は周回数だ。

 このうち、濃いピンクの実戦がマグヌッセンのペースを示したモノである。

 マグヌッセンは22周目からペースを落とし、それに連られるように角田をはじめ後続のマシンも一気にペースを落とした。一方でヒュルケンベルグ(濃いピンクの点線)は、ペースを上げていることがよく分かる。

 ヒュルケンベルグはペースを上げ、マグヌッセンはペースを落とす……こうすることでふたりの間隔は開いていき、32周目の段階で20.7秒差。今回のレースでは、ピットストップ時のロスタイムが20秒程度であったため、ここでピットインすればヒュルケンベルグはマグヌッセンの前でコースに戻れる……するとヒュルケンベルグは33周目にピットストップを行ない、計算通りマグヌッセンの前でコースに復帰した。

 この過程では、マグヌッセンに対してチームから細かな指示も行なわれていたようで、「もっとペースを落として欲しい。そして後続を抑えるんだ。もうひとつ10秒ペナルティを受けてしまった」という無線交信があったことも確認できる。

■マグヌッセン、後続を抑える余裕が十分にあった

 なおヒュルケンベルグを先行させることに成功し、自身の”抑え込む”という役割をやり遂げたマグヌッセンが、34周目から一気にペースアップしているのも、このグラフから読み取ることができる。後方で抑え込まれていたマシンたちは、これについていくことができなかった。

 任務を完了した後のマグヌッセンは、かなり使い古したタイヤだったにも関わらず、タイヤを交換したばかりのヒュルケンベルグと同等のペースで走った。つまり本来のペースより、2秒前後ペースを落としていたわけだ。そしてその余裕を、要所要所で防御のために役立てた……これでは、他のマシンは簡単には抜けないだろう。

 前出の小松代表は、次のように語る。

「正直言って、ケビンは素晴らしい仕事をしてくれました」

「あるタイミングで、ピットストレートで角田に先行されてしまい、その策略はうまくいかなかったと思いました。でもケビンは、ターン1で彼をアウトに追いやり、ポジションを取り戻しました。素晴らしい、素晴らしい仕事でした」

■ハースF1の戦略は、もちろんルール違反ではない

 なお今回のマグヌッセンやハースの戦い方はフェアではないという意見もある。実際RBの首脳陣は、ハースに対する激しい批判を展開している。

 しかしマグヌッセンは、ペナルティ覚悟で角田をコース外から抜いたわけではない。もしペナルティ覚悟でオーバーテイクしたのなら、オーバーテイクを完了した直後からペースを落とすはず。しかしその後4周は、ペースを落としている兆候はない。そしてひと度ペナルティとなってしまえば、その時点でポジションを落とす義務もない。

 ペースを大きく落として後続を抑えるという戦略も、禁止されたものではなく、時折同様の指示がなされることがある。まあ、その大半は失敗してきたが……。

 つまり、ルール内の戦い方で、チームメイトを最大限にサポートしたわけだ。そういう戦略を組み立て、それを着実に遂行したハースは、賞賛されるべきだろう。そしてそれだけ今の中団グループでは、1ポイントは実に貴重な結果なのだ。

 もちろんこのペナルティによって、有利不利が出る可能性が明るみになったとは言える。そのため、運用に関する議論が今後行なわれる可能性はあるものの、それはまた別の話だ。

 なおこのハースの作戦については、してやられてしまった角田が、次のように語っている。

「彼(マグヌッセン)の観点から言えば、チームのために良い仕事をしたと思います。F1はチームスポーツであり、ニコはそれでポイントを獲得しました。つまり、彼は良い仕事をしたんだと思います」

「彼が危なかったと言うことは簡単です。でも同時に、彼の考え方も理解できます。チームがポイントを獲るのに貢献し、ポジションを守るためにはできることは何でもやろうとしただけだと思います」

「確かに彼は危険な時もあり、ターン2ではクラッシュしかけました。フェアだったとは言えないかもしれませんが、彼の戦いを理解する必要があると思います」

 なお角田のRBは、決勝でペースが足りなかったというのも事実。そのため、ライバルをオーバーテイクすることができず、一瞬の突きを突かれたとはいえ、ライバルにオーバーテイクされてしまうシーンも少なくなかった。RBには、課題が多く残っているようだ。

 

前の記事 角田裕毅のレースを台無しにしたマグヌッセンの”戦略”をRBが猛批判。角田は「それでも抜いてみせないと」
次の記事 レッドブルのホーナー代表、”内部崩壊”の噂に言及「我々のチームにとって最も重要なのは、チームだ。誰もが自分の役割を果たしている」

Sign up for free

  • Get quick access to your favorite articles

  • Manage alerts on breaking news and favorite drivers

  • Make your voice heard with article commenting.

エディション

日本 日本