F1 日本GP

F1分析|角田裕毅、日本GP”3台抜き”ピットは幸運な部分も? 終盤絶妙ペースコントロールでストロールを翻弄……今や中団グループ全員の”標的”に

F1日本GPで10位入賞を果たした角田裕毅。そのレースは、確かに幸運な部分もあったものの、巧妙なペースコントロールでストロールらを翻弄したことが大きかったと言える。

Yuki Tsunoda, RB F1 Team VCARB 01

 F1日本GPで、角田裕毅(RB)が10位入賞。厳しい状況の中でもしっかりとポイントを獲得したその走りに、桜が満開となった鈴鹿サーキットが揺れた。

 ただ今回のレースは、角田にとっても、チームにとっても、簡単なレースではなかった。しかし角田はしっかりとペースをコントロール。一方もチームは適切なタイミングでピットに呼び戻し、無難なタイヤ交換作業を行なった。それにより幸運も味方につけつつ、好結果を手にすることができたレースだった。

 角田は1回目のスタートでミディアムタイヤを選択したが、これは大失敗。10番グリッドからのスタートだったが蹴り出しが悪く、ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)とバルテリ・ボッタス(キック・ザウバー)に先行され、12番手にポジションを落とした。

 中でもヒュルケンベルグ擁するハースは、今回のレースでも最高速が伸びており、前に出してしまうと厄介な相手だった。決勝では全4箇所の速度計測地点のうち3箇所でヒュルケンベルグが最速……これは予選でも同様であり、この時点では角田にとって厳しいレースになったと思われた。

 しかしスタート直後にダニエル・リカルド(RB)とアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)が接触し、赤旗中断。リタイアとなったふたりにとってはまことに不幸な結果ではあるが、角田にとっては後押しとなった中断だった。

 レースはスタンディングスタートで再開。角田は赤旗中断の間にソフトタイヤに履き替えたが、これが功を奏した。一気に9番手までポジションを上げ、一方で1回目のスタートで順位を上げていたヒュルケンベルグはクラッチ操作のミスで最後尾付近まで後退することとなったのだった。

 そして最も早くタイヤ交換に動いたのは、そのヒュルケンベルグだった。ヒュルケンベルグは5周を終えた時点でピットインし、タイヤを履き替えた。その翌周にはボッタス、さらに翌周に角田が入った。

 このタイミングで角田はボッタスにアンダーカットされる形となり、実質的なポジションを落とすことになった。ここでみすみすボッタスの先行を許してしまった戦略については、お世辞にもRBを褒めることはできない。しかし、最も抜きにくいヒュルケンベルグの前ではコースに戻すことができたため、最悪の事態に陥るのだけは避けられた格好だ。

 もしここでヒュルケンベルグに先行されていたら、角田は開幕2戦のようにポイントを逃す結果となっていたかもしれない。

 そして22周目、このレースの結果を最も左右した瞬間が訪れた。10番手ケビン・マグヌッセン(ハース)、11番手ボッタス、12番手ローガン・サージェント(ウイリアムズ)、13番手角田、14番手ランス・ストロール(アストンマーティン)の5台が、同時にピットインしたのだ。そしてコースに復帰する時には、角田、ストロール、マグヌッセン、ボッタス、サージェントの順……つまり角田は、このピットストップで3台のマシンを追い抜くことができたわけだ。

 このRBのピットストップには、世界中から賞賛の声が上がった。しかしデータを見ると、あくまで運が良かっただけとも言える。

 当該の5台の、ピットストップ時のピットレーン入口から出口まで(タイヤ交換作業時間含む)の通過タイムを見てみると、次のようになっていることが分かる。

・マグヌッセン:26.198秒
・ボッタス:25.946秒
・サージェント:25.530秒
・角田:23.486秒
・ストロール:23.238秒

 実はストロールが最も速く、角田はそれに次ぐ速さだったのだ。このレースでの最速は、マクラーレンのオスカー・ピアストリが記録した22.848秒。角田はピアストリに比べれば、0.6秒失っているということになる。

 ただ幸運だったのは、角田の前でピットインしたマグヌッセン、ボッタス、サージェントが揃ってピット作業で大きくタイムロスしたこと。これにより角田は、ポジションを上げることに成功したわけだ。

 ただ入賞を掴むためには、これでは足りなかった。角田の真後ろには、ストロールが食らいついていたのだ。

 ストロールが駆るマシンは、アストンマーティンAMR24。今季トップ5チームの一角であり、角田にとっては脅威だ。ただアストンマーティンには弱点があった。それは最高速である。

 スピードトラップ(シケイン手前)のストロールの最高速は、303.7km/hだった。これに対して角田は308.8km/h……つまり角田は、ストロールよりも約5km/h速く、これを防戦にフル活用したわけだ。その状況にストロールは、「僕たちのストレートスピードの酷さは信じられないよ。まるで違うカテゴリーだ!」と嘆いた。

2024年F1日本GP決勝レースペース分析:入賞争い

2024年F1日本GP決勝レースペース分析:入賞争い

写真: Motorsport.com / Japan

 ストロールに真後ろにつかれた角田は、周を追うごとにペースダウン(上のグラフの赤丸で示した部分)。しかし最高速を活かして、先行を許さなかった。

 ストロール陣営はその状況にたまらずピットイン。ソフトタイヤに交換し、レース終盤に攻めるギャンブルに出た。しかし角田は、実は爪を隠し持っていた。

 グラフの青丸の部分をご覧いただきたい。ストロールがピットに入るやいなや、角田は徐々にペースアップ。つまりそれまでの角田は、ストロールを抑えつつ、タイヤをうまくマネジメントしていたのだ。そこで稼いだマージンでペースを上げ、ストロールの接近を許さなかった。一方でストロールは、ほぼ同じタイミングでハードタイヤを履いたヒュルケンベルグに最後は交わされ、12位でフィニッシュ……角田に翻弄されたレースになってしまったと言えよう。

 今回の日本GPでは、ヒュルケンベルグにも、ストロールにも、そしてボッタスにも入賞の可能性があった。しかしその全てを封じたのは、角田だった。今季開幕からここまで、角田は中団グループをリードしている。そして今や、ライバルチームの”標的”という立場にある。

 キック・ザウバーのトラックサイド・エンジニアリング責任者であるセビ・プホラールは、日本GP終了後に次のように語った。

「確かに、現時点で我々の基準は角田だ。彼は、我々が倒したいと思っている相手だよ」

 

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