F1 モナコGP

F1分析|今年のモナコGPはまさに頭脳戦。角田裕毅とRBの、後方の”隙間”をコントロールする戦術を検証する

2024年のF1モナコGPは、まさに頭を使わなければいけないレースだった。それをうまくやり遂げたひとりがRBの角田裕毅。アルボンとガスリーの間にあるスペースを、遠隔操作のごとくコントロールしてみせた。

George Russell, Mercedes F1 W15, Max Verstappen, Red Bull Racing RB20, Lewis Hamilton, Mercedes F1 W15, Yuki Tsunoda, RB F1 Team VCARB 01, Alex Albon, Williams FW46, Pierre Gasly, Alpine A524, Lance Stroll, Aston Martin AMR24, at the start

 2024年のF1モナコGPは、まさに頭を使う頭脳戦の様相を呈していた。各車とも、全力で走るのではなく、徹底的にタイヤをマネジメントし、タイヤを最後までもたせようとした。そしてそれだけではなく、敵に塩を贈らないように、徹底的にペースをコントロールし、後方との差を築きすぎないようにする……実に色々なことを考えながらのレースだった。

 その一例を、8位に入った角田裕毅(RB)のレースペースを見て振り返ってみよう。

 今回のモナコGPは、1周目に大クラッシュが起きたことでいきなり赤旗中断。ここで各車はタイヤを交換し、レース中に2種類のタイヤを使わなければいけないという義務を消化した。つまり、レース再開から残りの77周を、1セットのタイヤで走りきらねばならなかったのだ。そのため各車は徹底的にペースを落とし、タイヤを痛めないことに終始した。おかげでレースペースは、昨年よりも1周あたり4〜5秒も遅く、それはもう長い長いレースになった。

 角田も徹底的にペースを落とし、後方からプレッシャーをかけるアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)を押さえ込んだ。結果的に上位7台に周回遅れとされてしまったが、それでもピットインせずに走り切って8位に入賞。貴重な4ポイントを手にしたわけだ。

F1モナコGP決勝レース、レースペース推移グラフ(中団グループ)

F1モナコGP決勝レース、レースペース推移グラフ(中団グループ)

写真: Motorsport.com / Japan

 上のグラフは、決勝レース中の角田(青)、アルボン(紫)、そしてその後方10位でフィニッシュしたピエール・ガスリー(アルピーヌ/ピンク)のラップタイム推移を折れ線で示したモノである。

 レース最終盤、角田は一気にペースを上げ、それまで1分17秒台だったラップタイムが一気に1分14秒台まで上がっている。ここから見れば、角田はVCARB01のポテンシャルを全く発揮せぬまま、かなりペースを落として走っていたことがよく分かる。

 だったら、もっとペースを上げて走ればよかったじゃないかと思うかもしれない。しかし”引き離さないこと”こそが、角田とRBが採った戦術だったのだ。

 レース後に角田は、次のように語っている。

「かなりペースをマネジメントしていました。後ろのマシンがピットストップできなように、あるいは彼らが僕らをアンダーカットできないようにするために、時々ペースを落とさなければいけなかったんです」

 ここで角田が言及している”後ろのマシン”の筆頭が、アルボンだ。アルボンがポジションを落とすことなくタイヤ交換を行ない、新しいタイヤで攻め立ててきたら、それまでに貯めていた”貯金”を使ってペースを上げても、角田が抑え込むのは難しくなったかもしれない。

 そこで角田とRBが採った作戦が、アルボンを徹底的に抑え込むことだった。モナコGPの舞台はモンテカルロ市街地コース。要所要所を抑えれば、まず抜けないコースだ。そして角田は、アルボンとガスリーの差を考えていた。

F1モナコGP決勝レース、ギャップグラフ(アルボン基準)

F1モナコGP決勝レース、ギャップグラフ(アルボン基準)

写真: Motorsport.com / Japan

 上のグラフは、アルボンを基準とした、レース中の差をの推移をグラフ化したものである。中心の紫の線がアルボン。この紫から上がアルボンの前、下がアルボンの後ろを走っているマシンを示している。

 グラフの赤丸で示した部分を見ると、角田(青)の線が上下に浮き沈みしているのがよく分かる。そして、ピンク色のガスリーも、同じように浮き沈みしている。これは角田がペースをコントロールし、アルボンとガスリーの差をコントロールしている証拠だ。

 モナコGPでは、ピットストップ時のロスタイムが19〜22秒程度、セーフティカー中であれば12〜14秒程度と見積もられていた。つまり、アルボンとガスリーの差が開きすぎてしまうと、アルボンにポジションを落とすことなくピットストップするチャンスを献上してしまうことになり、自身の立場を危うくしてしまう。そのため角田は、アルボンとガスリーの差が12〜13秒を超えないように、アルボンを押さえ込むことでコントロールしていたわけだ。

 そのため、ペースを上げてガスリーがついてこられないようならペースを下げ、ガスリーがある程度近づいたところでまたペースを上げる……そういうことをレース中何度も繰り返していたわけだ。単純に数えただけでも、4〜5回はそういうシーンが見て取れる。

 ただ速く走ればいいというわけではない。速く走りたい気持ちをグッと堪え、普段よりもかなり遅く走って、しかも抜かれないようにする……これは並大抵のことではないだろう。

 昨年のカタールGPでは、タイヤトラブルが発生したことが遠因となってタイヤの使用可能周回数の上限が設けられ、常に全力の走行を強いられることになった。これも、F1ドライバーの凄さを示した一例といえよう。しかし今回のように頭脳的な走りが見られるというのも、また別の意味でF1ドライバーの真髄を見せられた一戦だったように思う。

 ただひとつ欲を言えば、角田の最後の1分14秒台のペースを見ると、全力で走ったらメルセデスにどこまで迫れていたのかというところも、実に興味深い。確かに今回の状況では、無理をして前を追い、タイヤを痛めてしまうというリスクを冒すよりも、確実に8位を取りに行くという戦法は正しかっただろう。それでも、見てみたかった。

 なおもう1台、アストンマーティンのフェルナンド・アロンソも、今回頭脳的な走りを成功させたひとりだ。アロンソはチームメイトのランス・ストロールがガスリーを抜けないと見るや、後続を抑えに抑えた。そしてストロールとの間に20秒の差を設け、ストロールが順位を落とさずにタイヤ交換できるチャンスを創出した(グラフの青丸の部分)。そしてストロールがタイヤ交換を終え、アロンソの前でコースに復帰したのを確認するとすぐに、アロンソもペースアップ(グラフの緑丸の部分)。ストロールと共に前を追った。

 ただこの作戦は、結果的に成功しなかった。それはピットストップ後にストロールがウォールにヒットし、タイヤを壊してしまったからだ。このアクシデントがなければストロールはすぐにガスリーの真後ろに追いついていたはずで、そこでもバトルが生まれていたかもしれない。

 

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