F1
【コラム】F1はこの先、どこへ向かっていくべきなのか? V8回帰なのか、それともさらなる技術革新を目指すのか……重要な選択が迫っている
近い将来、F1を自然吸気V8エンジンに回帰させるという案が出ている。それについて賛同すべきか、それとも反対すべきか……F1は重要な岐路に立たされている。
田中 健一
編集: 2026/08/18 10:35
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Alexander Albon, Williams, Oliver Bearman, Haas F1 Team
写真:: Guido De Bortoli / LAT Images via Getty Images
F1は一体どこへ向かおうとしているのか。今、その岐路に立たされている。
2026年のF1は、シャシーとパワーユニット(PU)が大きく変更された。その中でも特に大きな変貌を遂げたのはPUである。
今季からのPUは、使うことができる燃料が持続可能燃料のみに制限され、さらにはエンジンと電動モーターの出力比が均等になった。この結果、電動モーターで使う電気エネルギーを確保するため早めに減速したりする……つまりエネルギーマネジメントに気を遣う必要性が増し、今までのように全開で攻めることができないようになってしまった。そのため、ドライバーの多くは不満を表明している。
またこのエネルギーマネジメントに関する戦略がチーム/ドライバーによって違うことで、あわや追突という危ないシーンもいくつか起きた。その象徴的な例は、日本GPの決勝で発生したオリバー・ベアマン(ハース)とフランコ・コラピント(アルピーヌ)の一件であろう。
一方でこれは今年始まったことではないが、2014年シーズンからF1にPU(いわゆるハイブリッドエンジン)レギュレーションが投入されて以降、エンジン音が小さくなったとしてファンを中心に不満の声が広まった。確かに2013年までと比べれば、エンジン音はかなり小さくなった。
これらを受けてFIAとF1は、PUをV8エンジンをベースとしたものに回帰する案を打ち出している。2031年、各チームやPUメーカーの承認が得られれば2030年にもこのV8エンジンに回帰したF1を復活させたいという。
この案は、エンジン部分を現在のV6ターボからV8自然吸気に変え、そこに小さなハイブリッドシステムを取り付けるというものだ。確かに、これには数々のメリットがある。
まずは音は間違いなく大きくなる。甲高くなったエンジン音がサーキットに響き渡ることとなり、スタンドで観戦する方々やテレビで観戦する方々に非日常を体験させることになるだろう。
ハイブリッドシステムが小型化されれば、エネルギーマネジメントの必要性はかなり軽減される。そうなれば、ドライバーたちは常に全開走行することができるはずだ。
扱う電気の量が減ることで、バッテリーも小型化することができる。つまりは、マシンの小型軽量化にも大きく貢献する。レース中の給油が許可されるようになれば、レース中ずっと全開……ということも不可能ではないかもしれない。
また、PUがシンプルなモノになればそこにかかるコストは大きく引き下げられ、チームやPUメーカーにとっての財政的負担も軽減される。それほど高度な技術が必要なくなることで、小規模なPUメーカーにも参入の門戸を開くことにつながる。FIAが言うように、サードパーティのパワーユニットを用意して、メーカーの影響力を軽減するということにも繋がるだろう。
V8エンジン、小型軽量でバトルが増え、常に全開走行、そして轟音を響かせるという姿は、古き良き時代のF1を彷彿させる。その時代を懐かしむ人も多く、回帰を歓迎する方も少なくないだろう。何よりF1ドライバーたちがそれを求めている。
F1は1950年に、”F1世界選手権”として制定された。”選手権”なのである。当初コンストラクターズタイトルがかかっていなかったことを考えても、F1はドライバーの”腕試し”とも言えるレースであった。そういう意味では、そんな原点回帰のF1を目指すというのも悪くない。
しかしその一方で、本当にそれでいいのかという疑問も生じる。
前述のV8、小型ハイブリッドのPU案を導入した場合、果たしてそれが”最先端技術”と言えるのかということだ。F1はドライバーズ選手権でありながら、走る実験室と言われることもあるように、先端技術を競う場でもある。ここで開発された技術が、市販車はもちろん、その他の産業にも転用されてきた。
確かに一時期は、市販車等の技術とはかけ離れた技術ばかりがF1では使われてきた。しかし近年、特に2026年からの新レギュレーションは、未来の市販車やその他の技術開発にフィードバックするために適切であり、自動車メーカーにとっては魅力的なモノとなった。ゆえに2026年からは、ホンダとフォードがF1に戻り、アウディもF1への参戦を開始することになったわけだ。
エネルギー効率(つまり燃費だ)という側面では、エンジン+小型ハイブリッドでは、現代のF1用PUには到底及ばない。持続可能燃料を使っているのだから、エネルギー効率など特に気にしなくてもいいじゃないかと言われるかもしれない。しかし持続可能燃料とて、石油を原料にしていないというだけで、有限のエネルギー源であるのも間違いない。生産するためには、電気で水を分解しなければいけない持続可能燃料もある。しかも高価であるため、極力大事に使わなければいけない。市販車開発に活かすならば、今のような高いエネルギー効率を実現したパワーユニットである必要はあるだろう。
もしF1がV8エンジン+小型ハイブリッドに回帰することとなれば、技術開発という点では自動車メーカーにとって旨みのない存在となるだろう。
今の世界的なF1人気を考えれば、十分なPR効果を享受することは期待できるかもしれない。絶大な効果であるため、それを理由にF1を続けるメーカーもあるかもしれない。
ただ繰り返すが、モータースポーツには”最先端技術の開発競争”という側面もある。F1でそれが叶わないとなれば、他のシリーズに参戦することを検討する自動車メーカーが出てくるかもしれない。
例えばフォーミュラEの技術開発領域が増えるのであれば、そちらに移るメーカーも出てくるだろう。
現在のフォーミュラEは、チームの持続可能性を考慮して、極力コストがかからない方式をとっている。そのため、シャシーもバッテリーもワンメイク。モーターやインバータなどのパワートレインを開発できるのみとなっている。
しかし今後フォーミュラEがさらに開発可能な領域を増やしていけば、それを魅力と感じるメーカーもおそらく存在するだろう。特にバッテリーは、レーシングマシンはもちろん、市販車開発においても性能の差別化要素となりうる。しかしその開発には巨額の費用がかかる。この開発が自由化されれば、フォーミュラEへの参戦に触手を伸ばすメーカーが出てきても、決して不思議ではない。
フォーミュラEのジェフ・ドッズCEOも東京E-Prixの際に、将来のバッテリーの自由化については明言を避けつつも、「常に最先端の技術を披露できるようにしたい」と語っていた。
もちろん、自動車産業の未来は完全電動車だと断言するつもりはない。そこに関してはまだまだ分からない部分も当然ある。しかもフォーミュラEの世界的な人気は、現状ではまだF1の足元にも及ばない。そのバランスをどう判断するかという点は、実に難しい。
また未来の自動車の中心は、ハイブリッドだと言う見方もある。そうなった場合には、今のF1のPUはまさに最先端であり、最も市販車にフィードバックしやすいシステムであるとも言える。それを捨て去ってしまってよいのだろうか? もちろん、危険な状況を避けるために若干の調整は必要であろうが。
F1はどんな未来を目指していくべきか? ドライバーたちが全力で戦う”スポーツ”としての側面を選ぶのか? あるいは技術競争の面を重視するのか。そこが、今問われている。皆さんはどう思われるだろうか。
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