【コラム】鈴鹿サーキットでのF1日本GPは、春開催になっても観戦券の売れ行き好調。でもそこにある危機感……将来に向け、今やらなければ
春開催となったF1日本GP。チケットはよく売れているという。しかし、この状況がずっと続くわけではない。だからこそ、今やらなきゃいけないことがある。
Fans enter the circuit next to a sign for Suzuka. The Ferris wheel is visible behind
写真:: Sam Bloxham / Motorsport Images
日本のF1ファンにとっての年に一度の大イベントと言えば、鈴鹿サーキットでのF1日本GP以外にないのではないだろうか。この3日間を満喫するために、1年間仕事を頑張るという諸氏諸兄も少なくなかろう。水曜日や木曜日に現地入りして、4日間や5日間どっぷりと満喫するという強者もいらっしゃる。
さてその日本GPは、例年秋開催されるのが常であったが、2024年からはこれが春開催に変更された。そのためこの2024年の日本GPは、僅か半年前に前回の日本GPが行なわれたばかり……集客に関しては心配もされた。無論、半年の間隔で再び長期の有給休暇を取る必要があったり、そもそも年度初めの4月は多忙だったりして、観戦スケジュールを確保するのに難儀したという方も少なくなかろう。しかし観客の皆さんのご苦労もあって、前年以上の入場者数を記録したという。また、2025年の日本GPの観戦券も、同様によく売れているという。
ただ、この状況が未来永劫続くわけではない。近年は若いファンも増えたとはいえ、日本におけるF1ファンの年齢層は高く、これは世界の情勢とは異なっている(世界ではNetflix効果もあり、若いファンが劇的に増えているらしい)。このまま手をこまねいていたら、いずれ観客数は減少に転じ、日本でのグランプリ開催がなくなってしまう可能性も十分にある。そうなってしまえば、日本のモータースポーツ界全体に与える影響も、少なくはないだろう。
この状況を打破するためには、もっともっと、若い人たちにとって魅力的なイベントにし、もっともっと若い人たちに興味を持ってもらえるようにしなければいけない。そのためにどうすればいいか……この業界に関与している誰もが考えなければいけないことであるのは間違いない。
F1日本GPを開催する鈴鹿サーキットは、この難題に立ち向かおうと、様々な策を講じている。そして少しずつ、若いファン、新しいファンとの接点を増やそうとしている。
■一般の人がF1に触れられるシーンを
市川團十郎、市川新之助、佐藤琢磨
写真: Motorsport.com Japan
最近の事例で言えば、東京の歌舞伎座で行なわれたF1ラスベガスGPのパブリックビューイングであろう。
パブリックビューイングに参加された方のほとんどは、既存のF1ファンだったように思う。しかしこのイベントには、市川團十郎と市川新之助という歌舞伎界のスーパースターも登場したため、歌舞伎ファンの方もいらっしゃったようだ。実際市川團十郎が登場した際には「成田屋!」の掛け声が飛んだ。
市川團十郎は2025年日本GPのアンバサダーにも就任しており、決勝レース前には歌舞伎の演舞を披露する計画であるという。F1を見たことのない歌舞伎ファンにアピールすることは十分にできるだろうし、海外に向けては絶大なインパクトとなるのは間違いなかろう。
またこのパブリックビューイングの日には、歌舞伎座の正面玄関前にレッドブルのF1マシンが飾られた。これは銀座〜築地間を歩いて移動していた方々の目にも当然触れたはずで、多くの通りがかりの方々が、マシンにカメラ(スマホ)を向けていた。
街を歩いている方々に、F1マシンの姿をご覧いただくというのは、非常に重要なこと。もしかしたら、パブリックビューイングを行なうことよりも、必要なことだったかもしれない。以前と比べて一般的にF1が取り上げられることが少なくなった今の日本でならなおさらだ。
鈴鹿サーキットは、一般の方々がF1に触れられる機会をこれまでも多く作ってきた。2023年には新宿の歌舞伎町を舞台に、そして2024年には六本木ヒルズを舞台に『F1 Tokyo Festival』を開催。多くの人々が通行する街中に、無数のF1マシンを展示したり、トークショーなどのイベントを行なった。歌舞伎座でのイベント同様、一般の方の目にF1を触れさせるという点では、大きな意味がある企画だったはずだ。
ひとつ残念だったのは、F1の最高の魅力とも言える”音やスピード”をご覧いただける場がなかったこと。マシン展示、トークショーに加えて、デモ走行などがあればよりその効果は増しただろうが、これは次回以降の期待としたい。
F1 Tokyo Festival
写真: Motorsport.com Japan
さて歌舞伎座も新宿も、そして六本木も、言わずもがな東京である。それらのイベントでF1マシンを見た人が実際にサーキットまで足を運んでいただくのは、正直言ってハードルが高い。鈴鹿にアクセスしやすい都市で東京同様のイベントを開催できれば、その効果はさらに高まるだろう。
そういう意味で鈴鹿がターゲットとしているのが、大阪や名古屋である。大阪や名古屋なら、鉄道で乗り換えなしでアクセスできる。高速道路を使えば、自動車でのアクセスも至便だ。
特に名古屋だ。2024年のF1日本GPの際、鈴鹿サーキットは名古屋を観戦の玄関口と定め、JR東海とも協力して、駅構内で様々な催しを行なった。これは2025年も引き続き実施する予定だという。
これは鈴鹿サーキットにとっても、F1の認知度を高めるという面で大いにメリットがある。「今週末はF1ですよ」ということを周知するためには、絶好のイベントであると言えよう。またJRにとっても、名古屋駅の活性化につながるという点で、『F1観戦の玄関口は名古屋!』という印象をF1ファンに植え付けることができれば、それは商業的なメリットに繋がる。
JRの担当者に話を聞いたところ、日本GPを使って名古屋駅を盛り上げる施策は、今後も発展させていくと仰っていた。
「F1観戦に行く時に、名古屋駅に寄って行きたいと思っていただけるような仕組みづくりをしていきたい。そのために何ができるのかを、模索していきたいと思います」
さて鈴鹿サーキットとしては、もっと若いファン作りにも力を入れているという。それが「校外学習プログラム」と名付けられたもので、小学校を対象に、移動教室の一環としてサーキットを使ってもらおうということだ。このプログラムでは、自動車のデザイン体験やメカニック体験、モータースポーツを鈴鹿サーキットで体験することを、学校教育に活かしてもらおうというもの。三重大学の教育学部やホンダの鈴鹿製作所も協力する、本格的なモノだ。
また地元のファンや若いファンに対して、無料でF1日本GPの木曜日と金曜日を楽しんでいただける「16-23 ZERO円パス」(居住地域関係なく16歳〜23歳が対象)と、「F1日本グランプリ こども招待」(桑名市、四日市市、鈴鹿市、亀山市、津市、菰野町に在住の15歳以下の方および同居の家族を対象)を2024年から実施。これは、2025年も引き続き実施される予定であり、F1の生の迫力を実際に楽しんでいただく機会を設けている。
確かに今の日本では、お子さんや若い人たちがモータースポーツに触れられる機会は少ないかもしれない。その状況を打破する上では、絶好のプログラムであると言えよう。そしてこのプログラムを受講した小学生は、将来熱心なモータースポーツファンになるかもしれない。
■F1をもっと身近に
さてもうひとつ、鈴鹿サーキットとして力を入れようとしていることがある。それは、F1を日常にするということだ。
かつてバブル期にはF1がブームとなり、職場や学校で「昨日のセナはすごかったよね」とか、「アレジのブロックには痺れたわぁ」といったような会話が交わされていた。F1の話題は、至るところに出てきたのだ。
しかし今ではどうだろう。F1ファンがF1の話をする場所が、皆無になってはいないだろうか?
鈴鹿はそういう、ファン同士がコミュニケーションを取れる場を、オンライン上に展開しようとしている。
鈴鹿サーキットの担当者は、次のように語ってくれた。
「日本GPに行ってF1三昧した後、いざ月曜日に家に帰ったり、会社や学校に行ったりしても、誰にもF1の話ができないと……そういう声をいただいたんです。そういう話ができるのは、日本GPの期間中、1年に1回だけだと」
「デジタル上のコミュニケーションプラットフォームっていっぱいあると思います。でも残念ながら、F1の絶対的なコミュニティの場って存在していない。ですから我々主導で、ファンの皆さんが集えるプラットフォームをご用意したいと思っています」
「そこから派生して、オフ会もできるかもしれませんし、F1のコンセプトレストランのような365日F1を感じられる場所が、東京や大阪に欲しいと思っています。我々だけでそういう事業を展開するのは難しいですが、そういうことを実現できるように、情報を提供したいと思っています」
Fans
写真: Kan Namekawa
様々な企画を模索する鈴鹿サーキット。それには、ひとつの危機感がある。
前出の担当者は、こう語ってくれた。
「今はまだ、たくさんのファンの方がいらっしゃいます。でも、その年齢層が高くなっているのも事実ですから、この状況がずっと続くわけではないです」
「ですから、今が次の世代に繋いでいくチャンス……最後かどうかはわかりませんが、今はチャンスなんです。だから、今やらないといけません」
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