インタビュー

”日本人の強さ”を持った、国際人を育てたい……新生SRSを支える中野信治に訊く

新生鈴鹿サーキット・レーシングスクールの”Vice Principal”としてPrincipalの佐藤琢磨を支える中野信治に、今後のスクールの展望などを訊いた。

Takuma Sato, Shinji Nakano

Takuma Sato, Shinji Nakano

吉田知弘

 佐藤琢磨をPrincipalとする新体制を発表した鈴鹿サーキット・レーシングスクールのカート部門(SRS-K)とフォーミュラカー部門(SRS-F)。佐藤をVice Principalとして支えるのは、元F1ドライバーであり、現在はスーパー耐久などで活躍する中野信治だ。

 佐藤はインディカーの現役ドライバーであり、来年もシーズン中は日本を留守にすることが多い。佐藤がそんな形で不在とする間、現場を指揮するのが中野の役割になる。

「琢磨はアメリカでのレースが忙しいですから、僕が現場を見る時間が長くなると思います」

 そう中野は語る。

「琢磨とディスカッションしながら、スクールをどういう方向性で進めていくのか、それをこれから作り上げていきます。彼の言葉、そして僕の言葉を伝えるのもそうですが、スクールの骨子みたいなモノを作って、それをこれから共にやっていく講師や若い選手たちに伝えていくこと、それが我々の役割だと思います」

 スクールで目指すこと、それは”人間力”を培うきっかけを与えることだと、中野は改めて説明する。

「”人間力”と言うと抽象的ですが、それが全てだと思います。頭で考えるんじゃなくて、基本的なことが当たり前にできるようにしたい。その上で、自分で考える力があるかとか、聞く力があるかとか、突破力があるかとか……そのあたりは自分自身の問題です。それに気付けなかったら、そこで終わり。ただ、気付くきっかけを与えてあげて、そこから先は生徒次第……というところまで持っていければと思っています」

「これまではカリキュラムがあって、速さという部分を学ぶことはできていたと思います。でも僕はそれ以外のことが大切だなと思っているんです。そういう、皆さんの目がいかなかったところに焦点を当てたスクールにしていければいいと思っています。一見関係なさそうに見えるかもしれませんが、5〜10年後に、自分にとってはこっちの方が重要だと気付ける時が来ると思います。それが当たり前にできるようになれば、非常に強いです」

 教えるというよりも、佐藤琢磨、中野信治というふたりの現役ドライバーの姿を見て、生徒たちに”何が重要なのか”を気付いて欲しいと、中野は言う。

「我々はきっかけを与えることしかできません。それに気付くことができなければ、伸びないと思う」

「こういう言い方は好きじゃないですが、頭の良い人じゃなきゃ、世界では戦えません。この世界には残れないんです。残っている人は負けず嫌いで、頭の良い人……そして聞く力があって、行動力がある。それが突破力になってくると思います」

「世界を見た時に何をしなければならないのか、そのサポートを僕らがしようと思っています。気付けるかどうかは生徒次第ですが、気付ける人にはどんどんサポートしてあげたいと思います」

 人間力や突破力、それを体現したのが、F1で7度の世界チャンピオンに輝いた、ミハエル・シューマッハーだと、中野は説明する。

「僕はシューマッハーと同じ時代に走っていました。彼がすごいのは、一番良いクルマに乗るために、誰よりも努力していたということです。『俺は一番速い!』と言うだけではダメ。そのためには速く走り続けて、そして速く走り続けるためには何が必要なのかということを考えられる人間力とでもいうべきものを、早く身につける……そうしなければ、戦えません」

「昔は学ぶ時間がありました。でも今は、失敗する時間がないとは言いませんが、それに対する許容範囲は狭くなりつつあります。ですから、僕らはできる限り早くそのきっかけを伝えたいと思います」

「大変ですが、やらなきゃ変化はないと思います。大変なのはどの時代でも一緒ですから。でも、最低限でもヒントをもらえるところにいる人は幸せだなと思う。ほとんどの人は、そのチャンスさえないんですから。そのチャンスを掴んだからには、しっかりと活かして欲しいと思うし、そのサポートができればいいと思っています」

 中野は、どんなドライバーを育てたいと思っているのか? あえてダイレクトにそう尋ねると、彼は次のように説明した。

「世界で戦って欲しいんですが、外国の人になって欲しいというわけじゃないです。国際人になって欲しい。日本人であるということにまず誇りを持って欲しいし、それを忘れてほしくない。欲をいえば、自分の国の歴史も語れるようになって欲しい」

 そう中野は語る。

「日本人としての強さとか、そういうモノを持った人が、国際人として世界と戦えるようになって欲しいんです。そういう人は、日本人全員が応援してくれる。そうしなければ、日本のモータースポーツを変えることができないと思っています」

「日本人には、必ず日本人のDNAがある。そういう人が出てきて活躍することで、日本人が持ってきたモータースポーツに対するイメージを変え、そしてその地位を上げたいと思います」

「ドライバー云々だけではなく、この業界全体を考えた時には、それが僕の究極の目標であると思います。そのためには、言ってきたように頭の良さや聞く力、素直さなんかも必要です。そういうのがバチっと揃った人が出てくれないと、世界の頂点に立つのは難しいと思います」

「でもね、僕は必ずそういうドライバーが出てくると信じているんです。それは絶対に不可能じゃない。早い段階できっかけを作ってあげることで、間口は広がると思いますから……それをすごく楽しみにしています」

 中野は以前のインタビューで、佐藤琢磨と初めて会った時のことを語っていた。中野曰く、当時の佐藤はまだイギリスF3参戦前だったが、その頃から自分をしっかりとアピールすることができたという。そして中野は、一度会っただけで”佐藤琢磨”という名前を覚え、「彼はF1に来るな」と実感したそうだ。

 そんな”印象に残る”ドライバーが今後育っていくきっかけを、佐藤と中野という、世界を経験し、そしてイギリスで出会ったふたりが与えることになった。新生SRSにかかる期待は大きいと言えるだろう。

 表彰台の中央に、日の丸が上がる日が来るのが待ち遠しい。

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