FOMの意識改革が日本GP開催延長に導く?:モビリティランド社長インタビュー

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FOMの意識改革が日本GP開催延長に導く?:モビリティランド社長インタビュー
執筆: 田中健一
2018/07/03 10:11

今年の3月、インタビューに応じたモビリティランドの山下晋社長は、F1開催契約延長について”非常に厳しい”と語っていた。あれから3カ月。状況はどう進展しているのだろうか?

 今年で開催30回目を迎える、鈴鹿サーキットでのF1日本GP。その日本GPの継続が危うい状況にあるというのは、今年の3月に当サイトでもお伝えしたところだ。

 鈴鹿サーキットとFOM(フォーミュラ・ワン・マネジメント)との契約は、今年限りで切れることになっている。当然、継続開催の交渉が行われているものの、3月の時点では両者の提示する条件に開きがあり、鈴鹿サーキット側は「非常に厳しい状況」と説明していた。

 それから3カ月、状況は進展しているのだろうか? 鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドの山下晋社長に話を聞いた。

”変革”を遂げたFOM。契約交渉はポジティブに進んでいる

Chase Carey, Chairman, Formula One, meets the Grid Kids

Chase Carey, Chairman, Formula One, meets the Grid Kids

Photo by: Steven Tee / LAT Images

「3月以来、過去にないくらいに緻密な、そして前向きな議論をFOMとしてきました」

 そう山下社長は語る。”過去にないくらい”というのは、どういうことなのか? それを山下社長に問うと、次のように説明してくれた。

「過去のFOMとの交渉は、我々のリクエストに対して”イエス”か”ノー”と答えるだけ。議論する余地はほとんどありませんでした。でも今の新しい体制となったFOMは、我々のリクエストに『分かった。じゃあこうしてみたらどうだ?』という提案が返ってくるんです。対等な立場で議論ができるということは、我々からすれば、劇的な変化でした」

「それから、今年で30回目の開催ですけど、FOMと話をする時は、ヨーロッパに行く必要がありました。でも今年は、中国GPの時に各主催者との交渉責任者が東京に寄ってくれた。そんなことは史上初です」

 昨年からリバティ・メディアがF1の運営に参加し、各方面に変革を及ぼしてきた。その変わり様に、山下社長は驚きつつ、手応えを感じているようだ。

「もちろん契約条件があります。単純に開催権料がいくらだという話だけではなく、様々な権利関係の部分もあります。それに関して色々と議論しています」

「我々は、お互いに日本GPにお客様が増えることが非常に重要だという共通認識を、今は明確に持っています。それに対しても議論しながら進めています。ポジティブに進んでいます」

「ただし、根本的な部分で全てが合意に至っているわけではありません」

鈴鹿サーキットが”絶対に譲れない”条件

Valtteri Bottas, Mercedes-Benz F1 W08 and Max Verstappen, Red Bull Racing RB13 battle for position

Valtteri Bottas, Mercedes-Benz F1 W08 and Max Verstappen, Red Bull Racing RB13 battle for position

Photo by: Sutton Images

 契約を延長する上で、鈴鹿サーキット側としてはひとつどうしても外せない条件があるという。それは今年の日本GPの”観客数”が増えることだと、山下社長は言う。

「彼らに対して、私たちが伝えた大きな条件があります。日本GPの観客数は、ここ5年間前年割れしていました。30回の記念大会にもかかわらず、今年も減ってしまうようでは、我々は継続を考えることすらできない……そう彼らに伝えています」

 ただ、ここまでのチケットの売れ行きは、前年を大きく上回っているようだ。

「過去5年間、前年を上回った日は1日とてありませんでした。しかし今年は、120%強の数で推移しています」

「今年は、ダイナミックにお客様に評価していただける料金体制を導入しました。子供料金や高校・大学生の料金を大きく引き下げたんです。その部分の売り上げが上がっています。当然単価ベースでは下がっていますが、若いお客様に来て欲しいということで、この料金体系を導入しました。新しいお客様に来ていただけず、毎年観客数が減っていくという構造に、歯止めをかけたかったわけです。だから全く後悔はしていません」

 新しい、若い観客の減少……これは、新体制となったFOMも懸念していたことのようだ。

「彼ら(FOM)も我々がやりたいことを理解してくれていて、賛成してくれています。危機に感じていることは、彼らも我々も一緒なんです。F1を手に入れて、それを認識したんだと思います」

”ホンダの夢”を実現するのが、鈴鹿サーキット誕生の理由

本田宗一郎とホンダRA270(Yoichiro Honda & Honda RA270)

本田宗一郎とホンダRA270(Yoichiro Honda & Honda RA270)

Photo by: Honda

 鈴鹿サーキットも、当然民間企業である。民間企業であるからには、当然利益を上げなければならない。しかし山下社長は、”大儲け”するためのF1日本GPではないと断言する。

「言い方は難しいのですが、我々はお金儲けのためだけにレースをやっているわけではありません。ホンダグループの一員として、モータースポーツやモビリティに少しでも価値を感じていただき、楽しんでいただく場として、鈴鹿サーキットは誕生したわけです。当時ホンダの本田宗一郎さんが、そう考えて作った場所ですから、我々の使命もそこにあるわけです」

 そう山下社長は語る。

「もちろん、膨大な赤字を出していいというわけではありません。可能な限り消したい。だから日本GPの収支も、せめてプラスマイナスゼロにしようということです。しかし、現時点では、残念ながら全くそうなっていません」

「ホンダの夢、そういうモノを実現していくのが、我々の役割です。それに価値があれば、お客様にも来ていただけるし、それに相応しい対価を支払っていただくことができると思います。そのためには、日本GPの価値を上げるしかありません。もし来年以降の契約が成立した際には、さらにレベルの高い大会にしていくことができると思っています。すぐに15万人や16万人という時代に戻れるとは思っていませんが、適切な数のお客様に、いつの日か戻ってきていただければと思っています」

 若いファンの獲得……それには、前述の通りFOMも前向きであるという。

「旧体制のFOMは、ITに対しては非常に否定的でした。色々な意味でハードルが高かった。でも、今の新FOMは、徹底的にWEBやITを活用し、プロモーションをやっていこうとしています。それについての素材も、ビックリするくらいの質と量で提供してくれています」

「またこれまでのF1ではなかった、アトラクション的なモノを、FOMと協力してやろうと思っています。去年も少しやりましたけど、それを少し拡大する予定です。それはFOMも重要なことだと考えている。ターゲットはそこですから、他にはない、より幅広い年齢層に楽しみを提供できる鈴鹿サーキットにできればいいと思っています」

シルバーストンで今週会談へ

The Honda badge on the nose of the Toro Rosso STR13

The Honda badge on the nose of the Toro Rosso STR13

Photo by: Andrew Hone / LAT Images

 なお契約延長に向けては、2021年以降のF1がどうなるのか、これも重要だと山下社長は言う。2021年以降のF1はレギュレーションが大きく変更される予定であり、現在議論が行われている。特にパワーユニットについては、その仕様が変わるモノとみられている。

「数多くのコンストラクターやマニュファクチャラーが出てきて、平等に戦うという形は、私は大賛成です。そして、コストを下げるのも賛成です」

 そう山下社長は語る。

「ただし、F1は最先端でなければいけません。速いだけでは最先端とは言えないと、私は考えています。今のパワーユニットが、市販車の技術向上に繋がらない……というのなら、変更してもいいと思います。ですが、古い技術で成り立ってしまうパワーユニットなら、我々が血を流して、マイナスを算出してまでやり続けるべきF1の姿ではないと思います。どういう形のレギュレーションが成立するかは分からないですけど、FOMに対してはそういう主張をしていくしかないです」

「音が大きくなればいいというものではありません。パワーユニットの音をマイクで拾って、それをスピーカーから出すという話もありますが、それはやめてほしい。我々が望むような姿ではないと思います」

 なお将来の日本GPにとっては、後押しとなるニュースがある。それはもちろん、来季からのレッドブル・ホンダの始動である。

「当然、後押しになります」

 そう山下社長は認める。

「ですが、それで一気に観客が増加するとは、我々は思っていません。もちろん、ムードは変わるでしょうし、実際に結果が出てくれば、色々変わってくるかもしれません」

「今の時点では”少しは伸びると思いますけどね”というくらいでしかありません。その勢いがどのくらいなのか、現時点では判断できません。一番重要なのは来年シーズン前のバルセロナテスト。そこでのパフォーマンスがポジティブなら、良い影響が出てくるかもしれません」

 今週末にはシルバーストン・サーキットで、第10戦イギリスGPが行われる。山下社長は会場に飛び、FOMとの会合を行う予定だ。

「シルバーストンに行く予定で、アポイントも取ってあります。そこで契約延長に向けて主要な部分の確認や交渉をする予定です」

「ここですべてを決めきることはできないと思います。F1の開催には、様々な権利上の問題があります。その中でF1日本GPというビジネスを成立させるためには、ある程度の権利を、鈴鹿サーキットが持たなければいけない。チケットを売るだけでは、ペイできないです。それがクリアできないと、契約延長は難しいです」

「それでも、日本GPまでには発表したいと思っています。来季以降のことが全く分からないような状況で、お客様が日本GPにいらっしゃる……そういうことは避けたいと思っています」

 山下社長は3月の時点で、契約延長の可能性について”50%”だと語っていた。しかし現時点では、少し前進しているようだ。

「私は(契約延長の可能性は)60%だと思っています。この3カ月の交渉によって、モビリティランドとして、彼らの考えていることに対する理解が進んだ。そして、同じ目線で議論ができていますから」

「本当に将来のための議論を進めていきたいと思います」

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シリーズ F1
イベント 日本GP
執筆者 田中健一